犬は誰だ?

本当はチェリーともう一発ヤリたかったが、マンゴーからの電話で告げられたグレープ逮捕の一報はボスのペニスを縮み上がらせるには十分だった。


もっともそれは言葉の綾で、縮みあがったのは、きっちり射精をした後だったが。


ファックが終わると、これで茶でも飲んで来いとチェリーに小遣いを渡し追い払った。性欲は満たされたので、次は一人でじっくり考える時間だった。


ボスはたった今チェリーと熱く交わったソファに身を沈め、葉巻に火をつけた。


空中を漂う煙のように、ボスの思考は定まることがなかった。


なぜグレープは捕まったのか。


現場に向かう、引き金を引く、速やかに立ち去る。

「殺家ー」随一の殺し屋グレープにとっては葡萄の皮をむくよりも簡単なことだ。


次にマンゴーがやってきて死体を片づける。

それでもゲイバーの従業員が出勤してくるまでにはまだ時間がある。

段取りに落ち度はない。事前調査も周到に行った。


想定外の事態は当然考えられるし、これまでもあった。

しかし、グレープはその都度、臨機応変に対応しサツにパクられるどころかパクられそうになったことすら一度もなかった。

そのグレープが今回は・・・



例えば、現場に向かうグレープをたまたま見かけた警官が不審に思い後をつけた。そこで殺人を目撃し、その場で緊急逮捕した。


ありえないことではない。しかし、呑気にパトロールをしている警官に逮捕されるグレープではない。死体の数が積み上がるだけだ。


だとしたら、これは偶然ではない。

必然だ。

我々を上回る周到な計画と事前準備の上での逮捕劇だ。


なぜ、そんなことができるのか…


…犬だ。


サツの犬が組織にいる。

そいつがサツに情報をタレ込んでるに違いない。

でなければグレープ逮捕など有り得ない。


だとしたら、問題は、


『犬は誰だ?』


ボスは小太りの体型に不似合いな身軽さでソファから立ち上がった。

デスクの電話を取り、毛むくじゃらの太い指で番号をプッシュした。


ややあって女性の声が応答する。


「ナイトアウル法律相談所です」


「俺だ」


その一言で女性は声の主を認識した。


「只今おつなぎします」


すぐに組織の専属弁護士レモンが電話に応答した。


「お待たせしました」


「グレープがパクられた」


少しの沈黙の後でレモンが答えた。


「・・・面倒なことになりましたね」


「掃除屋マンゴーから電話があった。詳細は全く分からん。マンゴーが現場に到着したら、グレープがサツに連行されるのを見たそうだ」


「グレープは腕がいいと聞いてますが…」


「ナンバーワンだ。何かの間違いかも知れんがとにかく、至急面会に行ってくれ」


「今日中に行きましょう」


「どういう状況でパクられたのか細部まで正確に聞いて来い」


「分かりました。後ほどご報告します」


「頼んだぞ」


(つづく)

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