殺し屋の取り調べ


取調室で敷島しきしまとグレープは事務机を挟んで向かいあっていた。

敷島のそばには青柳あおやぎが立っていた。

グレープは手錠をはめられたままだった。足を大きく開き、虚空を見つめ、敷島と目を合わせようとしなかった。


「お前、ゲイバーに何しに来たんだ?」


グレープは黙秘を貫いていた。


「オカマ掘りに来たのか」


「・・・・・」


「銃を何に使おうとした?」


「・・・・・」


「何とか言えよ、この野郎!」


敷島は身を乗り出し、グレープの頬を張った。鋭い音が上がり、頬が赤みを帯びたが、グレープは平然としていた。


青柳は見過ごすことにした。一発ぐらいならいいだろう。


「銃はどこで手に入れた?」


グレープは答えなかった。敷島は再びグレープの頬を張った。


「身分証はねえのか?」


「・・・・・」


パシッ!


「何で銃は持ってて身分証はねえんだ? 普通逆だろ?」


「・・・・・」


パシッ!


「それとも銃が身分証ってわけか?」


「・・・・・」


ボコッ!


今度は拳だった。

グレープの鼻から一筋の血が口を伝ってあごから滴り落ちた。


青柳はさすがに見過ごせないと思い止めに入った。


「敷島さん、やり過ぎですよ」


グレープをかばうように立つと、敷島に腹を殴られた。

青柳はうずくまった。


クックックッ…とグレープは楽しそうに笑った。


「何がおかしいんだ?」


「お前、かなりの悪党だな。どこぞのワルとそっくりだ」


グレープが始めて口を開いた。

どこぞのワルにそっくりだ、グレープのセリフは敷島の秘密を知っているようでもあり、思ったことを口に出しただけかも知れなかった。


「何だしゃべれるじゃねえか」


敷島はニヤリと笑い、グレープを見下ろした。


「単刀直入に行こう。お前、『殺家ー』の殺し屋だろ? ゲイバーのオーナーを殺しに来たんだろ?」


グレープは再び口を閉ざした。


敷島はグレープの顔面を再び拳で殴った。

大量の鼻血が溢れ、グレープのシャツを汚した。


「今日のところは貸しといてやるよ。俺がシャバに出たら覚悟しとけよ」


グレープは上目遣いで敷島を睨んだ。


「覚悟しろだと? てめえ、シャバに出られると思ってんのか!」


敷島は銃を取り出した。


「名前もない、身分もない、そんな奴がいなくなったところで誰も探しはしねえさ。もともとは存在しなかったんだからな」


敷島は銃口をグレープの額に押し付けた。

青柳があわてて背後から敷島を羽交い絞めにし、グレープから引き離した。


「敷島さん! 何やってんすか!」


「邪魔すんな、バカヤロウ! ここでこいつをやらなきゃ俺がやられるじゃねえか!」


「何言ってんすか! ここは取調室ですよ!」


グレープは2人の様子をニヤニヤしながら見ていた。鼻血を流そうが銃口を突き付けられようが全く動じなかった。まるでそんなことには慣れているかのように。


取り調べ室のドアが勢いよく開いた。騒ぎを聞きつけて2人の刑事が入って来た。


「敷島! お前、何やってんだ!」


もがく敷島を3人がかりで取り押さえた。


「邪魔すんな! 離せ! 殺し屋を殺して何が悪い! 面倒がはぶけるじゃねえか! 離せ! 離せこの野郎!」


敷島は3人がかりで取調室から引きずり出された。


後に残ったグレープが声を上げて笑っていた。


(つづく)

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