ふたりのアイランド2

1.


晴れ渡る空の下、トラクターのエンジン音が鳴り響いていた。

トラクターはさとうきび畑をゆっくりと進んだ。九一は車体の後部に開いた四角い穴からさとうきびの茎を落としていった。運転席に座るヨナミネが時折振り返り植え付け具合を確認した。


一段落したところでヨナミネがエンジンを切った。


「一服しようか」


九一に声をかけてトラクターから飛び降りた。


ヨナミネと九一はさとうきび畑の間をまっすぐ貫くあぜ道に出た。

彼方に川平湾を望む。


二人は地べたにあぐらをかいて座った。

ヨナミネはタバコを取り出し火をつけた。

その後、無言で九一にタバコを箱ごと渡した。


九一は一本取り出し、火をつけるとヨナミネに返した。

煙を大きく吸い、吐いた。


海、空、太陽がここでは惜しげもなくあふれていた。ニシノという偽名で身元を隠す九一には居心地のよいものではなかった。

自然が身近であればあるほど己れの汚れが際立つような気がした。


いつかこの眩しさに慣れるときが来るだろうか?



2.


ヨナミネはこの若者に期待を持ち始めていた。

住み込みで働きたい、そう言ってヨナミネの元を訪れた若いカップルを半信半疑で受け入れた。

半信半疑というのは、まさか男が殺人者なのではないか、とまで勘繰ったわけではない。

仕事も碌に覚えず、ダラダラと遊び半分で日銭を稼ぐ輩に思えた。実際、これまで住み込みで雇い入れてきた連中のほとんどがそうだった。島にいる間だけ適当に仕事をして、夜は稼いだ金を散財し、次の日はまた酒の残っただるい身体でダラダラと仕事をし、時期が来ると辞めるか、夜逃げしてしまう。


きっとこの若いカップルも同じようなもんかもしれない、それでもどうしても人手が欲しかったから期待せずに雇い入れた。


しかし、この若者はいい意味で期待を裏切った。


面接の時の饒舌が嘘のように寡黙だが、毎朝早起きをし、一度言われたことはすぐに覚え、文句の一つも言わなかった。


あるいは、このサトウキビ農園を継いでもらえるかも知れない、そんな淡い期待まで抱き始めていた。


ヨナミネには子供がいなかった。

そして、ヨナミネ夫妻は共に70歳を超えていた。2人が動けなくなったら農園もお終いかも知れない。

半ば諦めていた矢先、夫妻に一縷の望みが見え始めていた。


(つづく)

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