種なし葡萄
横隊で銃を構える警官はざっと20名。
暗殺集団、殺家ーのアジトに突入となれば、決して多すぎる数とは言えない。
殺家ー壊滅にかける警察の意気込みが感じられた。
「手を上げろ!」
いくら殺家ー随一の殺し屋グレープと言えども、20の銃口が自分に向けられているとなれば従わざるを得なかった。
右手の銃はそのままに両手を挙げた。
「銃を捨てろ!」
彼は手を開いた。
パン!
ギャー!
銃が暴発し、警官の一人が被弾した。
足を抑えてのたうちまわった。
その場にいた全員に一瞬の隙が生まれた。
その一瞬をグレープは逃さなかった。
前転で、ある人物に近づくと背後から首に腕を回し、側頭部に銃を突きつけた。
床に落ちたはずの銃はなくなっていた。
その場にいた誰もがまるで手品を見ている気分になった。
床にあった銃が消えて、いつの間にかグレープの手に握られている。
殺家ー随一の殺し屋、そのすごさを全員が目の当たりにした。
ジミヘンがギターの魔術師ならグレープは殺しの魔術師だった。
グレープが銃を突きつけている人物とはボスでもなければチェリーでもなかった。
銭湯「あまこ湯」の番台に座るバアさんだった。
「今度はお前らが銃を捨てる番だ!」
グレープが叫んだ。
「さもなければこのババアが死ぬことになるぜ!」
「やっちまいな」
敷島はすかさず言った。
顔には笑みを浮かべていた。
「そのババアも殺家ーの一員だ。お前がやればこっちの手間が省ける」
「このババアが殺家ーだと?」
グレープは目を見開いた。
「知らなかったのか? お前の先輩だ」
敷島は苦笑した。
「善良な市民をつかまえて何言ってんだい。あたしゃ銭湯の番台さ。早いとこ助けておくれ」
羽交い締めにするグレープの腕の中で、ばあさんはもがいた。が、彼の腕はびくともしなかった。
「善良な市民が聞いて呆れるぜ。あんたが銭湯に何人沈めたか、こっちはちゃんと分かってんだ」
「あたしに人を沈める力があると思うかい? 老いさらばえた骨と皮だけのこの細い腕をみりゃわかんだろ?」
グレープに羽交い締めにされながら、ばあさんは七分袖のヨレヨレのTシャツをまくり血管の浮き上がった細い腕をあらわにした。
「なあ、ばあさん。どうせほっといたってアンタにはもうすぐお迎えが来るんだ。今ここで死んでも大して変わらんだろ?」
「市民を見殺しにすんのかい⁉︎ あんたそれでも警官かい⁉︎ 」
「ああ、俺は警官さ。あんたは警官にも見放されたクソババアさ」
敷島の銃口がグレープ目掛けて今にも火を吹かんとしていた。
「おい! 俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
ボスだった。
彼は銃を敷島に向けた。
「久しぶりだな兄貴」
ボスが言った。
兄貴?
警官、殺家ーに関わらずその場にいた全員が耳を疑った。
「悪ふざけがすぎたな」
視線と銃口をグレープに向けたまま敷島はボスに答えた。
兄貴と呼ばれて否定しない敷島にボスは笑みを向けた。
「兄貴、久々に兄弟喧嘩でもするか」
(つづく)
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