悪戯っ子

「まさか、お前が…」


「違うんだボス」


「正真正銘のいたずらっ子だったのか…」


「ボス、誤解だ」


「あんなに可愛がってやったのに裏切りやがって…ちきしょう!お仕置きだ!」


ボスは銃を潜入に向けた。

引き金を引くが早いか、潜入はその腕に蹴りを入れた。

銃口がそれた。


パンッ!


ギャーッ!


銃声、悲鳴、誰かが倒れた。


「このいたずらっ子め!」


ボスは再び銃を構えた。

潜入は素早くその腕をつかみ、ねじりあげた。


銃が床に落ちた。

潜入は遠くに蹴った。

拾ったのは銭湯「尼子湯」の番台に座るバアさんだった。


「バアさん! こいつを撃て!」


「撃てったって、あたしゃ銃の撃ち方なんてわかりゃせんよ」


「構えて引き金を引けばいいんだ!」


潜入はすかさずボスの背後にまわった。羽交い締めにしてボスを盾にした。


「ラズベリー! 何をぼうっと見てる! 早くこいつを始末しろ!」


「すみません! ボスの愛人を撃ってはまずいかと」


「愛人じゃねえ、裏切り者だ! さっさと殺せ!」


ボスは、おりゃあ!と気合いを入れて背後から絡みつく潜入を背負い投げた。


潜入は床に仰向けに倒れた。

油断した。

ボスにこれほどのことができるとは思っていなかった。


「早くこいつを撃て!」


「はっ!」


ラズベリーが潜入に走り寄ろうとしたとき、銃弾が彼の額を貫いた。


ラズベリーは頭部に熱を感じた。

彼は自分が撃たれたのだと始めは理解できなかった。

撃たれるべきはチェリーであり、自分は撃つべき者だった。

であるならば、なぜ銃弾が己を貫いたのか。

間違えて自分で自分を撃ったのか。

そんなはすはない。

誰かが彼を撃ったのだ。

じゃあ誰が…


ラズベリーは膝をついた。


俺を…


上体が前に傾き、うつ伏せに倒れた。


撃ったのか…


永遠の疑問を抱えてラズベリーは事切れた。

額から流れる血が溜まりとなって広がっていった。


その場にいた全員が、銃弾の出所を振り返った。

ドアのところにグレープが立っていた。

笑みを浮かべ、立ちのぼる銃口の煙を吹き消した。


「おっと、撃つのが早すぎたかな。お前が始末されてから撃てばよかったんだ」


グレープは人差し指を軸に銃を回転させた。


「じゃあ、なぜ助けたのかって? 助けたんじゃない。死ぬのが少し遅れただけだ。 お前をヤルのは俺だ。殺し屋グレープ様だ。この前のケリをつけに来たぜ」


「グレープ!」


ボスが声を上げた。

込み上げる怒りで、見開かれた目から眼球がこぼれ落ちそうだった。

食いしばる奥歯は砕けんばかりだった。


組織に歯向かい、ベリー兄弟2人を手にかけ、ついには事務所に乗り込んできた。

グレープはここで一気にケリをつけようとしていた。


グレープは声を上げて笑った。


「これで殺家ーサッカーもおしまいだな。殺し屋のいない殺家ーなんて殺家ーじゃない」


グレープはチェリーに声をかけた。


「なあ、ひとまず俺と組まないか。ここにいる全員を始末しようじゃねえか。そうすれば誰にも邪魔されずにこの前の続きができる」


「お前が何を言ってるのか俺にはさっぱり分からない」


「ボスの前だからってとぼけるなよ。まあ、いい。殺し屋は全員始末した。ここにいる残りの連中はただの労働者だ。俺一人で十分だ。ボス、あんたから消えてもらうぜ」


グレープは銃口をボスに向け、引き金を引いた。

潜入が立ち上がりボスをかばったのが先だった。

ボスに覆い被さり、二人もろとも倒れて銃弾を避けた。


グレープは、さすがだな、とつぶやきニヤリと笑った。

銃弾をかわされたのが、うれしくて仕方がないようだった。


グレープ「俺の銃弾をかわしたのはお前が初めてだ」


ボス「チェリー、お前は一体何者なんだ? 警察の犬なのか? それとも俺の誤解なのか?」


「…」


チェリー=潜入は答えなかった。


ボス「ああ、クソッ。もう何が何だか分からん!」


ボスとチェリーはゆっくりと立ち上がった。


グレープ「ボス、俺は最強最悪の殺し屋だがこれから死ぬ奴、つまりアンタに嘘はつかねえよ。サツの犬はそいつだ」


グレープはボスに銃を向けた。


「というわけでボス、アンタには死んでもらう。あばよ」


グレープが引き金に指をかけたときだった。


「警察だ! 手を挙げろ!」


声が上がり、ドアから続々と警官が入り込んできた。

全員がヘルメットをかぶり、透明な盾と銃を手にしていた。

横一例に整列すると、グレープに向けて銃を構えた。 


間もなく、横隊の中央から敷島が姿を見せた。



(つづく)


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