復讐の現場2

ドアを閉めると完全な暗闇になった。

九一は壁に手の平を這わせ、照明灯のスイッチを入れた。


従業員の休憩室だった。

黒く塗られた壁。

窓はない。

折りたたみのテーブルが二脚、向かい合わせに並んでいる。各テーブルにパイプ椅子が二脚ずつ、計四脚納めされている。

テーブルの上には吸殻でいっぱいの灰皿。

煙、香水、汗、アルコール、欲望が匂いの塊となって滞留している。


入り口とは反対側の壁にもうひとつドアがある。フロアに通じるドアだ。その脇にホールの照明とエアコンのスイッチがずらりと並んでいる。

九一はお立ち台の上で回転するミラーボールとエアコンのスイッチだけを入れた。かつて働いていた場所だけに勝手は分かっていた。


ドアを開けた。

サキを引きずりながらフロアに足を踏み入れた。

中央にお立ち台、四方の壁際にボックスシートが配置されていた。

ミラーボールが壁や天井に宝石のような光を散りばめ回転している。


九一はサキをフロアに転がした。

椅子を一脚抱え、お立ち台に上がり中央に据えた。

振り返り、フロアを見渡した。

ここからの眺めは初めてだった。

普段はゲイのダンサーたちが踊るステージだ。

それを見てエロスを感じる客もいる。

単なる興味本位の客もいる。

しかし今、客は一人もいない。

九一は客で埋め尽くされたフロアを幻視した。

彼らは期待を込めてお立ち台に注目していた。

これから催されるショーはゲイのダンスより何倍も刺激的なはずだ。


九一はお立ち台から飛び降りた。

フロアに転がしたサキの手首を掴み、上体を起こした。

目を覚ます様子はなかった。

先の後ろにまわり、脇の下に手を入れ、お立ち台に引きずり上げた。


中央に据えた椅子に座らせた。

バックパックからロープを取り出し、上半身を背もたれに巻き付けた。さらに両腕を後ろに回し手首を交差して縛り、足首を椅子の脚に縛り付けた。口にはかつて2人がプレイしたときに使ったSM用の口枷を噛ませた。


そこまでの作業が完了すると、九一はサキを見下ろした。

うなだれたまま意識を失っている。

九一はステージを下り、バーカウンターに向かった。

ヤカンにたっぷりの水を汲み、再びステージに戻った。

サキの前に立った。

目を覚ます様子はない。

九一はヤカンをサキの頭上に掲げ、傾けた。


(つづく)

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