捜索(創作)令状
1.
木口九一のアパートは街の中心部から徒歩15分程の住宅地にあった。
2階建で各階に5部屋、従業員名簿によると木口の部屋番号は2階の向かって右端の部屋だった。
敷島と青柳は階段を上り、忍足で進んだ。
木口の部屋と思われるドアの前に立った。
ドア脇のプレートに部屋番号は書かれていたが名前はなかった。
プレート下には電気メーターが付いていた。敷島はそれをじっと見つめた。円盤の部分がわずかに回転していた。おそらくは冷蔵庫で使用している電気だろう。
敷島はドアに耳を当てた。
中から物音はしなかった。
インターホンを押した。
息を殺し、聞き耳を立てた。
ドアは沈黙を保ったまま動かなかった。
もう一度インターホンを押した。
・・・応答なし。
念のためもう一度・・・
「留守のようですね」
「入居者が変わったことも考えられる」
敷島は隣の部屋のインターホンを押したがこちらも留守だった。
「下に管理会社の看板があったな」
二人は階段を降りた。
看板が針金で手すりに縛りつけてあった。入居者募集中の文字と、不動産屋の住所、電話番号が書かれていた。
青柳はスマートフォンを取り出し電話をかけた。
「出ませんね」
小さな不動産屋は1人で店番をしていることも多い。客に物件を案内するときは店に鍵をかけて外出する。○○分後に戻りますなどとよくドアに貼り紙がしてあったりする。しかし、ワンオペなら電話の転送ぐらいするもんだ。
敷島は看板に書かれた住所を指差した。
「これ近いよな?」
「そうですね、車で5分もかからないでしょう」
二人は車に乗り込み不動産屋に向かった。
2.
「引っ越しはしてないですよ。まだ住んでるはずだけど」
地元の不動産屋だった。
年季の入った木目のカウンターの向こう側で
30代ぐらいの男が一人で店番をしていた。中途半端に伸びた短髪で、後頭部に寝癖がついていた。
目の下にはクマがあり徹夜明けのような顔をしていた。
よほど気分が良くなければ電話に出ないタイプに見えた。
「だとしたら…」
敷島はカウンター越しに一枚の紙を見せた。
「令状が出てる。木口宅を捜索するから立ち合ってもらえないかな」
不動産屋は令状をチラと見ただけで興味なさげに言った。
「うちにマスターキーはありませんよ。大家さんなら持ってるけど」
面倒に巻き込まれるのはごめんだ、とでも言いたげだった。
「大家さんはどちらに?」
青柳が聞いた。
「アパートの隣」
大家の名前を聞くと、敷島と青柳は再び車に乗り込み、来た道を戻った。
「いつの間に令状とったんですか」
運転席に座る青柳がきいた。
「ワープロで作ったんだよ」
3.
大家は当該アパートの隣の敷地に住んでいた。
門の柵が閉まっていた。
青柳はインターホンを押した。
やや間があって女性の声が応答した。
「はい」
「警察です」
青柳はインターホンのカメラに向かって警察手帳をかざした。
「どのような御用件でしょうか」
声に混じる緊張がインターホン越しに伝わった。
「お持ちのアパートの入居者についてお話を聞きたいのですが」
「…お待ちください」
待っている間、敷島は大家の家を見た。
二階建ての家屋があり、手前に庭があった。
家屋も庭もよく手入れが行き届いていて、気品があった。
出てきたのは品のいい初老の男だった。
リタイアしている年齢だ。
現役の頃は、大学教授か大企業の研究者だろうと敷島は当たりをつけた。
警察官としてのクセだった。
敷島は偽造した令状をちらっと見せて、事情を説明した。
「わかりました。今鍵を取ってきます」
大家に同行してもらい、敷島と青柳は再び九一の部屋の前に立った。
電気メーターの動きは先ほどと変わりなかった。
大家にインターホンを押してもらった。
もし木口が応答したら大家に話をしてもらい穏便にドアを開けてもらうつもりだった。
しかし、応答はなかった。
大家はもう一度インターホンを押した。
しばらく待って、不在を確信すると大家は敷島を見た。
敷島は頷いた。
大家はマスターキーで玄関ドアの鍵を開けた。
敷島と青柳は大家立ち合いのもと、偽造による令状の権限に基づき、木口宅の捜索を始めた。
(つづく)
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