ミルキーウェイでつかまえて2

この街における最大のイベント、七夕祭りは「殺家ーサッカー」にとって重要な収入源である。

殺家ー直営で毎年、いろいろな屋台を出店する。

たこ焼き、お好み焼き、お面、射的、りんご飴、綿菓子、金魚すくい等々。

直営以外の屋台からは、みかじめ料を徴収する。


ボスはラズベリーとストロベリーを連れて、人波をかきわけるように歩いていた、というよりは、モーセの十戒のように彼らが通るところ人波が割れた。どうみてもぶつかってはいけない3人組だったからだ。


ボスは活を入れるために各屋台を回っていた。

次はたこ焼き屋だった。


「おう、ヨヅ、調子はどうだ」


ボスはたこ焼き屋の四ツ倉よつくら、通称ヨヅに声をかけた。

フルーツ名で呼ばれるのは殺し屋部門のメンバーだけで、他のメンバーはすべて本名、あるいはあだ名で呼ばれるある。


「いや、全然ダメっす。あそこのチェーンのたこ焼き屋に客を持ってかれちゃって」


斜め前にもう一軒、たこ焼きの屋台があった。

「東京タコっちゃん」と威勢のいい字体で書かれたのぼりが店先に立てられている。

長い行列が3軒先まで伸びていた。


ボス「チェーン? 聞いてねえな」


「『タコっちゃん』って東京のたこ焼き屋らしいです。最近地方にも出店し始めて、七夕には今回初出店らしいです」


「ったく東京ってつけりゃ田舎もんは群がるわけだ。上等だ。斬り刻んでたこ焼きに入れてくれるわ」


ボスは顎でラズベリーとストロベリーにシメて来るよう指示を出した。


2人は「タコっちゃん」の屋台に向かった。

行列の先頭に立つ客をストロベリーが押しのけ、たこ焼きを一心不乱に焼いてはパックに詰めている二人の若い男に、いちゃもんをつけた。


「おい、タコ! 誰の許可とって店出してんだ!」


男の一人が顔を上げた。タコには程遠いハンサムな若者だった。タオルをねじり、鉢巻きにしている。


「市の許可はとってありますけど」


「あんちゃん、この街はな、市の許可だけじゃ足りねえんだよ」


後から来たボスが言った。


「この街にはこの街のルールってのがあんだ。それが守れねえってことはルール違反ってことだ」


行列の客たちは、不穏な空気を察し散っていった。


ボス「タコ焼きもらおうか」


店員「400円になります」


ストロベリー「何が400円だ、タコ野郎。ナメてっと本物のタコにするぞ」


ボスは代金を払うことなく、店員からたこ焼きを受け取った。

爪楊枝で刺して1個を口に入れる。本当は、マズッ!と言って口から吐き出すつもりだった。ところが・・・


ボス「こ、これは・・・」


ラズベリー「毒でも入ってましたか」


ボス「食ってみろ」


ラズベリーも爪楊枝で1個を口に運ぶ。


ラズベリー「こ、これは・・・」


ストロベリー「何だよ、二人して」


ラズベリー「食ってみろ」


ストロベリーも爪楊枝で1個を口に運ぶ。


「こ、これは・・・」


ボス、ラズベリー、ストロベリー「う、うまい・・・」


ボス「外はカリッ、中はトロッ、さらにタコの歯ごたえが確固たる存在を主張する。この計算された食感のアンサンブルは見事としか言いようがない」


ラズベリー「ちきしょう、うめえぜ。もう一個だ」


ストロベリー「俺もだ」


2人は2個目を口に放り込んだ。


ボス「おい、お前ら」


ボスは呆然とする「タコっちゃん」の店員に声をかけた。


ボス「ウチに来ねえか」


店員「ウチって・・・」


ボス「ヨヅの野郎はクビだ。今日からお前らがウチのたこ焼き屋だ」


店員「勝手に決めないでくださいよ」


からまれたかと思えばスカウトされ、たこ焼き屋の二人は完全に戸惑っていた。

行列の客はボス達に恐れをなし、掃けていった。

タコっちゃんの2人は、売り上げなどどうでもいいから、さっさと撤収したいと思った。


「あっ!」


ストロベリーが突然、声をあげた。


ストロベリー「あれ、ソヨン!」


ボス「なに!? とこだ!?」


ストロベリー「ほら、あそこ! 金魚すくいの屋台にいるでしょ。ほら、手前でしゃがんでるの。あっ!」


ボス「今度は何だよ」


ストロベリー「あいつも一緒だ!」


ボス「何! あっ! 九一くん!」


ボスはソヨンと九一を特定した.


ストロベリー「俺が二人とも捕まえてきましょう」


ボス「待て! 九一くんに手出すんじゃねえぞ。もし少しでも手出したら、金魚のエサにしてやるからな」


ストロベリー「わかりやした」


ストロベリーは足音を忍ばせながら、背後から近付いて、ソヨンに抱きついた。


ストロベリー「僕の金魚ちゃんつーかまえた!」


キャッ!というソヨンの短い叫び声があがった。


ストロベリー「さあ、ソヨン、お店に帰るよ」


ソヨンの腕をつかんだ。


ソヨン「逃げて!」


ソヨンは九一に向かって叫んだ。


ストロベリー「そっちの僕も一緒に来るんだよ」


九一には手を出すなと言われていたので、不用意に近づいたと言っていい。

セックスだけが取り柄のただの若者だろうと油断していたとも言っていい。


ストロベリーが九一に近づいたとき、九一は落ちていた割りばしを拾った。先を折ってストロベリーの左目に突き立てた。


「ギャアア!」


ストロベリーは悲鳴を上げて、膝をつき、刺された左目を抑えた。


「行くぞ!」


九一はソヨン手を取り、人ゴミに紛れるように走り去った。


ボスとラズベリーが、ストロベリーのもとへ駆け寄った。


ストロベリー「ちきしょう! あのマンコ野郎、ぶっ殺してやる!」


ボス「目ん玉一個ぐらいでガタガタ言うな。ラズベリー、追え!」


ラズベリー「オーライ、ボス!」


ボス「いいか、絶対に手ェ出すんじゃねえぞ!」


人波に消えていくラズベリーの背中に向かって叫んだ。


九一とソヨンの後を追うラズベリーだが、背の低い彼は人波に溺れそうだった。


それでも、背の高い九一の頭が人波の間にちらつくのを頼りに前に進もうとした。


どかんかい、コラ!とか、誰かそいつらをつかまえてくれ!とか強面で叫んでみるもののチビのラズベリー一人では迫力にイマイチかけ、祭りに浮かれる人々は耳を貸してはくれなかった。


間もなく大通りを抜け、人のまばらな所へ出たが、辺りを見渡しても九一とソヨンの姿はなかった。


「ちくしょう、見失ったか・・・」


肩で息をしながら、ラズベリーはありがちなセリフを吐いた。


(つづく)

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