第143話 お留守番クリリークリリside
「ありがとうございました~」
最後の客がやっと帰ってくれた。一時間近く粘り、このままじゃあ閉店時間過ぎちゃうよと思っていたら、閉店時間に近づくとあっさりと帰って行った。これはお迎えに旦那が来る事も知ってるみたいだ。
「クリリってばそんな顔しないの。あの人は悪い人じゃないわよ。ちょっと話をしたいだけの無害な人だからね~。それに結構買ってくれたでしょう」
コレットさんが気にしてないならいいや。
「確かに金払いはいいけど無駄話が多すぎるというか、自慢話ばっかりで聞いててうんざりです」
「冒険者なんてみんなそんなものよ。でも自慢話でも聞いてるとヒントになることもあるから私は聞き逃さないわよ」
「もう冒険者じゃないのに?」
「この世の中、いつ何があるかわからないからね~」
コレットさんは旦那さんが迎えに来て帰っていった。鍵をかけるのを忘れるなと言われてるのですぐ鍵をかけた。これで押し込み強盗は排除できるらしい。魔法って便利だよね。
「ニャー」
ティーグルが起きたのか餌をくれと言ってるようだ。ナナミさんに置いてかれてショックを受けてふて寝してたが餌は毎回要求してくる。ふて寝じゃなくて、ただ寝てるだけなのかも。
「ティーグルも寂しいだろいけど、しばらくは二人でがんばろうな」
ナナミさんから頼まれて昨日からここに泊まってる。ティーグルがいることと俺が夜遅くにタケルさんの家に一人で帰ることを心配されたからだ。コレットさんもいつもは早く帰るけど、ナナミさんが帰って来るまでは閉店まで残業することになった。
一人でも大丈夫だと言ったけど、未成年だから駄目なのよと言われた。
「早く大人になりたいなあ~」
「ニャー!」
自分もとでも言うようにティーグルが鳴いてきた。ティーグルも大きくなれば置いて行かれなかったと思ってるのだろうか。うーん、ティーグルの場合、大きくなったらなったで置いてかれそうだけどな。
さてと、今日の夕飯は何にしようかな。ナナミさんが用意してくれたご飯は熱々のままマジックカバンに入れてる。
熱々の肉丼にした。この甘辛く煮た肉が美味しい。それにこの丼というのは誰が考えたのか。親子丼、海鮮丼、焼き鳥丼とどれも一つの丼で後片付けもとても楽だ。
「もぐもぐ、一人で食べるのは寂しいなあ。ティーグルが居るからまだいいけど」
「ニャー」
食べてると突然大きな『ドンッ!』という音とともに家が揺れた。
「えっ! 何?」
慌てて外に出ようとしたけどティーグルの
「ニャニャニャー」
と俺が行くのを止めるかのような鳴き声で我にかえった。危ない所だった。タケルさんに
「大きな音がしても迂闊に外に出るなよ。かえって危なくなる。外のことは騎士団が解決してくれる」
と言われてたのに。それにしてもそろそろ諦めてくれたらいいのになあ。ここに勇者がいることは知れ渡ってるはずなのに諦めが悪い。
「あの事もタケルさんに相談したほうがいいのかな。どう思う、ティーグル?」
「ウニャ」
孤児院の隣にある教会が俺が持ってるリバーシ大会の賞金を寄付しろって言ってきてるらしい。院長先生は何も言わないけど、かなり圧力をかけられてるときいた。
「俺は院長先生の為なら賞金を寄付しても構わないが、賞金がなくなれば学校に行けなくなるから色々手配してくれたナナミさんたちに申し訳ないし、どうしたらいいのかなあ」
「ニャー?」
「賞金がどうしたって?」
「うわっ!」
いつものようにタケルさんが突然現れた。今はベリートリア国にいるはずなので本当に驚いた。
「この家に侵入しようとした奴が居るようだからきてみたんだが、騎士達だけで大丈夫だったな」
ここに何かあったらわかるようにしてるのか。タケルさんも大変だなあ。
「で、何かあるのか?」
タケルさんに聞かれて全部話した。
「なるほどな。賞金をもらった時はまだ孤児院に籍があったからってことだな」
「多分そういう事だと思う。みんな平等っていうか、個人のものはない、みんなのものっていう考えなのかな」
どうなるかわからないけど、タケルさんに相談できて安心した。たとえ賞金を手放すことになって学校に行けなくても、ここでずっと雇ってもらえたらいいかなぁって思ってる。学びたい事はあるけど、この居心地の良い場所から離れるのも不安なのだ。
「この件は俺たちがベリートリア国から帰ってからだな。それまでは何を言われてもお金を出すなよ。俺にでも預けてるって言えばいい」
「うん、そうする」
「教会かあ、あそこは厄介なんだよな。言葉が通じないからなあ」
確かに。別に違う言語を話してるわけではないんだけどなんか話が通じないんだよね~。
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