第142話 ベリートリア国 4
「治癒魔法使ってくれるって本当なんですか?」
ピナさんから私の治癒魔法の話を聞いたハリーさんは不安そうな顔で聞いてきた。やっぱり素人に治療されたくないよね。
「治癒魔法は失敗しても被害はありませんから心配ないですよ。一応治癒魔法のレベルは4です。おそらく教会にいる術師より上だと思いますよ」
タケルの顔が悪い人の顔になってるよ。有無を言わせない笑みだ。
「失敗で治らないとかそれは構わないのですが、見ての通り治療代を出せるほど儲かってないので、もちろん足が治ったら稼いで払いますが.....」
「未熟な魔法でお金はいただきませんよ」
「そうなんですか。それならお願いします。教会には二回、治癒魔法をかけてもらったのですが、痛みは取れて腫れもひいたんですが骨の方が折れたままなんです。後三回通ってくれたら治ると言われたんですがお金がなくて、相談したらこのまま動かさなければいつか治ると言われてどうしたものかと思ってたんです」
「確かに初期の治療は終わってるから時間をおけば治っていくでしょうが二カ月はかかりますよ。それに適切なリハビリをしないと歩くのが困難になりますよ」
タケルの言ってる事が正解だ。
ギブスしてないから動くなと言っても動いてしまう。そうすると骨がずれたままになってしまう可能性もある。教会も慈善事業してるわけじゃないからお金が払えない患者に治療は出来ない。まあ一応お布施みたいな形になってるけど代金は決まってるっていうからどうなんだろう。
「お金はいくらでもいいんですよ。お気持ちだけで」
爺さんのお葬式の時のお坊さんにどの位包むのかそっと聞いたらこう言われたことがある....がもちろんいくらでも良いわけではないらしい。はっきりいくらかいって欲しいよね。
この世界の教会でもいくらでもと言いながら暗黙の了解で決められた値段があるそうだ。
私は白い布を外して足をにらんだ。にらんでも何も変わらない。どうしたものか。レントゲンあればいいのに.....。と考えた途端にレントゲン写真らしきものが目の前に現れた。
「うわっ!」
思わず声をあげた。タケルが
「どうした?何かあったのか?」
と聞いてくる。どうやらタケルにはこのレントゲン写真みたいなものは見えてないようだ。
「ちょっと驚いただけ。では今から治癒魔法してみます」
ハリーさんとピナさんに声をかけると二人ともコクリと頷く。
足に手をかざしてレントゲン写真を確認する。イメージだよ。骨が治るように願うと淡い光が足を包んでいく。それに合わせてレントゲンの写真も変わっていく。あ~治っていくのがわかるよ~。これはすごい。でも段々力が抜けていくような。どうしたものか、悩んでいると
『ピコン』
と音がしてレントゲン写真の下に文字がでる。
(骨折修復完了)
これって治ったって事だよね。
「治ったですよ」
「「「えっ!」」」
三人がびっくりしたように私を見る。タケルまで驚かなくてもいいのに。
「動かしてみてください」
恐る恐るという感じでゆっくりとハリーさんが足を動かしていく。
「全然痛くないよ。なんだか怪我したこともなかったような気がするくらい、足が軽い気がする」
普通骨折は治ってもしばらく動かしてなかった影響で筋肉が上手く動かない。そのためすごく重たくなるらしい。この治癒魔法はそこもカバーしてくれたみたいだね。
ハリーさんは嬉しくて仕方ないらしく家の中をスキップしながら動いてる。
「これはやりすぎだな。ホントに人の考えの上をいく奴だな」
タケルだってホントに失礼だよ。一生懸命頑張ったんだから労って欲しいよね。
「ピナさん、ハリーさん先ほどは言ってなかったですが、一つだけお願いがあります。この奇跡を人に聞かれたらナナミの名は出さないでください」
タケルは二人にお願いしている。確かにあまり目立ちたくないし、疲れるからそんなにできる気がしないから人に知られない方が良いよね。
「でも人に聞かれると思うのですがどう答えたらいいですか?」
「黒髪の女神様に治してもらったと答えてくれたら、相手の方でいろいろ思い浮かべてくれるでしょう」
「わかりました。私たちにとってナナミさんは足も治してくれるし、変わった調味料も譲ってくれて本当に女神様のような方なのでナナミさんの名前を出さないだけで嘘をつくわけでもないので簡単なことです」
「ナナミさん、本当にありがとうございます」
二人から頭を下げられて照れてしまった。
それに名前が出ないのはいいけど黒髪の女神とか恥ずかしすぎるよ。ーーでもホントに無事に治ってよかった。
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