第136話 ソロモンの指輪

   


「本当に持ってないのですか? 確かあの時はあなたの持ってる指輪のおかげで俺たちの町は助かったはずなんですが」


 どうやら前に助けてもらった指輪でまた助けてもらいたかったようだ。


「ああ。あの町か。確かにあの時は持っていた。だが、あの後お前の町の人間に譲ったんだ」


「え?」


「また同じ事が起こると困ると言って泣き疲れて、仕方なく譲ったんだ」


「う、うそだ。誰もそんな事言ってなかった。それに指輪を買える余裕なんてあの時にはなかったはずだ」


 ジョージは首を振ってる。言葉遣いが悪くなってる。


「譲ったのは町長の側にいた男だったな。確かゴリオとか呼ばれてた」


「ゴリオって、何年か前に突然いなくなったって人じゃない」


 カンナがジョージに言ってる。ジョージもゴリオと聞いて愕然としてる。


「ああ。勇者様一行が旅立たれた後しばらくして家族ごと失踪した人だ」


 これはアレだよ。そのレアアイテムは町のためじゃなく、ゴリオが自分のために譲ってもらったってことだね。きっと大金を手に入れたに決まってる。


「ねえ、タケルはいくらでゴリオに譲ったの?」


「いくらって、あれはもともと魔物を倒した時に偶然手に入れたものだから、困ってる人に頼まれたらお金なんて貰えないだろう」


 タケルって見かけによらずお人好しなんだから。経済観念がないよね。


「ジョージさんもカンナさんも、かわいそうだけどここでは手に入らないわよ。他にあてはないの?」


 私が尋ねると二人は顔を見合わせた。ゴニョゴニョと相談してる。


「その指輪ってどんな形してるの?」


 タケルに聞いてみた。タケルは鑑定もできるみたいだから価値もわかってたはずだ。


「俺が持ってたのはソロモンの指輪って書かれてた。俺のは動物用だったが他に植物用もあるらしい。二つを同時に持つことができたら女神様と話ができるという逸話もあるが、本当かどうかはわからん。形は...こんなだ」


 タケルはサラサラっと紙に書いた。光の当たり方のよって色の変わる宝石がはまってる美しい指輪だった。でも私がつけるにはゴツイ気がする。


「あれ? これってルイスさんがしてなかった?」


 横から指輪の絵を見てたクリリが頭を傾げてる。クリリの記憶力は抜群だ。一度見たものは忘れないって、羨ましいよ。


「私と一緒の時にはしてなかったような気がするけど......」


「俺がいるときは絶対にしてなかった.....まてよ」


 タケルは絵をティーグルの前に突きつけた。ティーグルは起こされて不機嫌そうだったけど、絵を見るとビクッとしたよ。あやしい。


「ルイスさんがしてたのか? お前は賢いから指輪がなくても俺の聞いてることわかるよな」


 ティーグルがわかっても、こっちがわからないよ。


『ニャー、ニャー』


 全然わからない。


「頷くだけでいいよ。これをルイスさんがしてたのか?」


 ティーグルはコテンと頭を下げた。

「なんて人なの! ルイスさんを見損なったよ!」


「そんなに怒るな。俺が今から説教してくるから」


「怒るに決まってるでしょ! 自分だけティーグルと仲良くなろうだなんて許せないよ~! ここは飼い主である私に一番に貸してくれないとダメでしょ」


 私がプンプンして言うと


「「そこなのか?」」


「ニャ?」


二人と一匹に呆れられた。え? おかしいこと言ったかな。飼い主としては当然権利だよね。









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