第130話 家族風呂



「なんかこの三日間で肌がしっとりしてきた気がする」


私はお風呂につかりながら、カホさんとマリーに言う。

 この風呂は温泉だけど、日本にあるような大浴場ではない。家族で一緒に入っても良いし、侍女を連れてはいっても良いという風呂だから日本の温泉みたいに広くない。でも3人で入るには充分な大きさだ。


「そうですね。ここのお風呂は美肌に良いみたいですね。きっと人気が出ますよ。新聞社とかも来てたみたいですね」


「新聞? そう言えば前に聞いたことがあるような。でも新聞って王都にしかないんでしょう?」


「本屋で売ってるのがあるでしょう? あれは20日に一回くらい発行されてるから、1度読んでみるといいですよ」


 知らなかった。きっとこの世界では当たり前のことだから誰も教えてくれなかったのね。今度ベスさんに聞いてみよう。


 3日間の社員旅行はこれで終わり。温泉から出たらタケルの魔法で帰ることになってる。


「カホさんは今日はここに泊まって明日ベリートリア国に帰るんですよね。家出してたのに何故帰るんですか?」


「家出して初めてわかることもあるって事です。ベリートリア国が第二の故郷であり私の帰る場所。それがわかっただけでも今回の家出は無駄ではなかったと思ってます」


 私よりカホさんの方がずっと大人だと感じた。私がこの街から動かないのは第二の故郷とかそういうのは全くない。ただもしかしたら日本に帰れるのではとまだ考えてるからだ。この街が入り口なら出口もどこかにあるのではないかと思っている。

 もう1年が経とうとしてるのに駄目ですね。


「百均って入浴剤とかはないですか? 後、身体洗うスポンジとか欲しいです」


 カホさんも私と一緒でこの世界に来てからもお風呂に入ってるみたい。魔法で綺麗に出来たてもスッキリしないそうだ。でもこの世界では入浴剤とかスポンジとかいろいろ足りないものがあるんですね。


「私も家のお風呂で使うのに買ってるんですよ。洗面器とかも便利ですよ。他には湯に浮かべるオモチャとかもあるけど.....さすがにいらないですよね」


 カホさんには湯に浮かべるオモチャは丁重にお断りされたけど、このホテルの店では売れるのではないかと助言された。子供多いから売れるのかな?

 うん。帰る前に店に並べてもらおう。プールとかでも遊べるものね。



「遅いぞ! 」


 風呂から出るとタケルが待ってた。ちょっと長湯だったかもしれない。


「もう帰るの? プリーモ店に行ってから帰ろうかと思ってたんだけど」


「ああ、さっきルイスさんが来て帰る前に在庫を倉庫に置いていってくれって言ってたから、寄ってから帰ろう」


 ルイスさんが来てたのか。あの人も忙しい人だな。挨拶したかったけど無理みたいだね。


「それじゃあ、カホさんお元気で。是非、また会いましょう」


「はい。ナナミさんもお元気で。本当にまた会いたいです」


 またお城に帰っていくというカホさんが少し心配だけど、侍女のマリーさんを見てる限り大事にされてる様だから大丈夫だよね。


 まさかこの時はあんなに早く再会できるとは思ってもみなかった。







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