第129話 薬草取りツアー
社員旅行3日目は朝はプールで遊んでお昼からは薬草取りツアーなるものに参加した。タケルが魔物を排除したとはいえ、安心はできないので雇われた冒険者も付いてくる。
なぜ薬草取りツアーに参加することになったのかと言うとカホさんが参加したいと言ったから。カホさんとマリーさんの2人だけに参加させるのも不安なので、インドアの私も重い腰をあげることになった。
富豪の人たちが薬草取りなんて地味な事をするのかなと思ってたけど、結構物好きな人がいるようで侍女を連れてる人が沢山いた。
「薬草ってポーション作りに使うためのものなの?」
前を歩いてるタケルに尋ねる。
「ほとんどがポーション作りに使われてるが、最近はハンドクリームにも使われてるそうだ」
「え? ハンドクリームが売ってるの? だったら百均のハンドクリームも売れるかな?」
「美容系はすごく売れるって聞いたぞ。化粧品とかないのか?」
「あるけど.....化粧品はトラブルとか怖いから...考え中なの」
「肌荒れとかだったら、何かあってもお前の魔法で治せるだろう。初めはモニターとかで人を集めて試してもいいんじゃないか?」
タケルに言われて思い出したけど、神様にもらった治癒魔法があったっけ。一回も使ったことないけど使えるのかなあ。レベルだけは上がってるけど...。
「ナナミさんは治癒魔法も使えるんですか? 治癒魔法って使える人が少ないから、重宝されますよ。百均がなくても治癒魔法で暮らせていけたと思いますよ」
「そうなんだ。ちょっとだけ女神様に文句言ったら魔法をくれたからそんなに使える魔法だと思わなかったよ。言ったもの勝ちね」
「私には『かくれんぼ』しかないのに....。私も女神様に文句を言えば良かったのかしら」
「えー!カホさんの『かくれんぼ』ってとっても便利だと思うよ。私だったらそれを使ってタケルにイタズラするけどね。全然気付かれずにそばにいけるんでしょう? 嫌なヤツがいたらポコって頭を叩いてもバレないし、とっても便利な魔法だと思うな」
「カホ様はナナミと違ってそういう発想がないんだよ。変な考え吹き込むなよ。あとでサイラス様にグチグチ言われるだろ」
悪かったわね! 庶民的な発想で!
「ふふ、本当に仲が良いですね。私もサイラス様にそれだけ言えたらいいのですけど」
「いや、サイラス様って金髪の王様なんでしょう? 無理、無理。とても言えないよ」
私が手を振って言うと
「あら? この世界でタケル様はサイラス様よりも人気がありますよ。誰にも倒せなかった魔王を倒したんですよ。ナナミさんみたいにポンポン言い返す人はいませんよ」
とカホ様が答えてくれた。
勇者だとは聞いてたけど、タケルってそんなに人気あるの? そうは見えないけど。
「でも魔王って今までの勇者も倒したんでしょう?」
「今までの勇者は封印しただけだと聞いてます。もちろん封印することもとても大変なことで、この世界の人たちはとても感謝してます。ですが、今まで封印するのがやっとだった魔王をタケル様は倒したんですよ。ものすごい事なんです」
興奮したようにマリーが言う。
「まさか倒しても帰れないとは思ってなかったからな」
ポツリとタケルが呟く。そうだった。タケルは日本に帰れると思って頑張ったのに....他の勇者ができなかったことをしたのにやっぱり帰ることができなかった。悔しかっただろうな。
その後は薬草取りが始まったため、タケルの魔王退治に話は聞けなかった。いつか聞きたいなと思う。
薬草取りは結構大変だった。よく異世界に飛ばされた主人公が薬草取って稼ぐ話があったけど、これは重労働だね。ただ草を取ればいいってわけじゃない。取り方によって価値が上がったり下がったりするのだから、ひとつ取るのも本当に大変なことだ。
「ナナミ、それはただの雑草だ。葉っぱが微妙に違うだろ」
「えー。同じにしか見えないよ」
「クリリもカホ様もマリーさんも上手に取ってるだろう」
みんなのカゴは薬草でいっぱいだ。
「俺は薬草を売ってたからね。ギルドには入れないから足元見られて安く買い取られてたけど、沢山取ってたから結構稼いでたんだよ」
クリリって苦労してるのに全然悲愴感とかないから偉いよ。
「ニャー」
ティーグルが草を足で叩いて鳴いてる。
「おっ、偉いな。間違いなく薬草だ。飼い主に似なくてよかったな」
タケルがティーグルの頭を撫でてる。
やっぱりカホさんの『かくれんぼ』が欲しいな。あれがあったらポコって頭を叩けるのに!
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