第95話 双眼鏡が欲しい?
「困った」
「だよー」
「ですね」
アルヴィンは毎日やって来る。仕事しろよって言ってやりたい。いや、商品を買っていくのだからこれが仕事になるのかも。
それだけなら売り上げ上がって良かったねで終わるんだけどなぁ。
「一日中粘られると鬱陶しいよ」
そうアルヴィンは毎日開店から閉店までずーっと居座っている。今もカウンターでカップラーメンの試食をしてる。
「ナナミさんがおやつあげたからではないですか? 」
コレットさんが責めるように言う。
「ずーっといるんだから仕方ないでしょ。自分たちだけ食べれないよ。欲しそうに見てるんだから」
私の賄いにはおやつもある。ずーっといるからついアルヴィンにもあげたんだよね。アルヴィンがおやつを楽しみにしてるのは確かだけどおやつあげる前から居座ってたんだからね。うん、私悪くないよ。
「一通り商品を確かめたら落ち着くでしょう」
私がそう言うとクリリはどうかなって首を傾げてる。そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。.....たぶん。
「このラーメン店どうやって作ってるんですか?」
アルヴィンはとにかく気になることはなんでも聞いてくる。なんでも、なんどもだ。ちっちゃい子供だよ。子供なら微笑ましいけど中年のオヤジじゃあ鬱陶しいだけ。
「いつも言ってるけど教えることはできません」
作り方なんて聞かれても、知らないんだから答えられません。ペットボトルもなんの素材で作ってるのかって煩かった。仕方ないので企業秘密で通してる。品物はあるんだから研究したら? って言いたい。研究されて困らないかって? 今すぐ同じものができるとは思えないから、少しづつ研究されて同じものが出来たらいいなって思う。いつまで百均使えるかわからないし、私が死んだら確実に手に入らなくなるんだから、その為にも同じものは無理でも似たようなものが増えていくといいなって考えてる。
「タケルさん、なかなか帰ってこないですね」
コレットさんはタケルがいたらアルヴィンも居座れないのにって言いたいみたい。
「そう言えばもう一週間になるね。この間急用が出来たから少し遅くなるって手紙が来てたけど、帰る日は書いてなかったよ」
「そうですか。残念ですね」
確かにタケルがいないと変な客来た時困るけど、コレットさんも強いから助かってるよ。先刻も冒険者が店で暴れそうになった時魔法で追い出してた。消えちゃったように見えたけど、あの人どこに行ったんだろう。アルヴィンはこそこそと店の隅に隠れてたからきっと弱いんだね。
「そう言えば双眼鏡が置いてないですね。売り切れですか?」
アルヴィンがラーメンを食べる手を止めて聞いてくる。双眼鏡ってリバーシ大会の時に売ったアレのことですか。双眼鏡って普通はいらないと思って売ってないんだけどもしかして売って欲しいのかな?
「まさか覗きに使うつもりですか?」
「は? 覗きって何を覗くんですか?」
「風呂とか着替えとか、いろいろあるじゃないですか? ダメですよ!そんなとしちゃ!」
「そんな事しませんよ。風呂場って貴族の屋敷くらいしかないのに双眼鏡使っても覗けませんよ」
アルヴィンが焦ったように弁解する。だったら何に使う気ですか?
「ナナミさん、流石に覗きの疑いはかわいそうだよ」
クリリが笑って言う庇うなんてやっぱりクリリも男ですね。
「双眼鏡って結構利用する人いると思いますよ。遠くが見えるっていうことは敵の姿が見えるって事だからとっても役に立つ商品です」
元冒険者であるコレットさんの意見だから信用できるけど問題がないわけじゃない。
「でも距離が短いでしょ? リバーシの時も遠くだとピント合わないしクリリもハッキリ見えなかったよ」
「顔がはっきり見えなくても何かいるってことがわかれば十分なんですよ。在庫あるなら売って欲しいです。王様からも問い合わせがあったんですよ」
アルヴィンは必死です。もしかして双眼鏡目当てで居座ってたのかな。王様とか言ってるし売らないわけにはいかないかも。タケル、帰ってこないかなぁ~。
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