第70話 クリリの部屋ークリリside



「この部屋を使ってくれ」


タケルさんが用意してくれた部屋は孤児院でみんなが寝てる部屋より広かった。ベットも大人3人は寝れそうだ。そしてなんと本棚と机まである。本棚には沢山の本が並んでいる。


「こんなに広い部屋使っていいの? 高価な本まであるけど......」


「気にしなくていいよ。どの部屋もこの大きさなんだ。本も俺が読んでいらなくなった本だから気にしなくていい。院長先生が言ってたけどクリリって1度見たものは全部おぼえるんだってな。すごい才能だよ。どうりでリバーシ強いはずだ」


タケルさんは高価な本を読んでいいよって言ってくれるけど、普通は考えられないことだ。時には獣人には本なんて必要ないだろって目の前で言われることさえある。


「どうしてそこまでしてくれるの?」


俺は不思議に思って尋ねた。


「クリリがマジックショップナナミに必要な人材だからだっていうのもあるけど、クリリの才能に投資したくなったというのもある。2年後に王都にあるビジャイナ学院の試験受けてみないか? お金の心配はない。クリリなら奨学金を貰えるさ」


ビジャイナ学院というのはクリス様が通っていた学院だ。俺が通ってもいいの? 獣人の俺が?


「心配はいらない。あの学院は表向きは差別しないって事になってるから、獣人の受け入れもしてるよ。今年も卒業生に獣人がいたみたいだから大丈夫。いじめられて辞めさせられるって事はなさそうだ。ーーまあ、後2年もあるんだから急いで結論を出さなくていいさ」


俺の戸惑いに気づいたのかポンポンと頭を叩いてビジャイナ学院の話に終止符を打った。


「ところでクリリはナナミのことどう考えてる?」


これは正直に答えた方がいいのだろう。俺は前から思ってたことを口にした。


「多分だけど異世界人、それもタケルさんと一緒のとこから来た人かなって思ってる」


タケルさんも俺が気づいてることを知ってたようだ。


「まあ、一日中一緒にいたら気づくよな。ナナミは隠してるつもりだけど商業ギルドもガーディナー公爵も国王でさえ気づいている」


「あれだけ不思議な商品売ってたら変だなって思うよ。俺は死んだ父さんが異世界人は不思議なものを持ってるって言ってたから、もしかしてって思ってた。そこにタケルさんとナナミさんの会話でやっぱりって思った」


タケルさんは俺の話を聞くとしばらく沈黙していたがおもむろに話しはじめた。


「ナナミの売ってる商品は特殊なものだから一部の危ない人たちに狙われることもある。コレットさんは自分の身は守れるが、クリリは多少魔法が使えるみたいだけどまだまだだ。俺が剣と魔法を教えるつもりだが、朝は人通りがあるからいいが帰りは一緒に帰ったほうがいいだろう」


同じ家に住んでるのだからその方がいいと思ったので、


「よろしくお願いします」


と頭を下げた。

タケルさんはその後も台所とトイレ、後風呂の使い方を説明してくれた。風呂は正直どうでもいいと思ったが、あまりにも熱のある説明に入らないとは言えなかった。


部屋に1人になるといつもとは違う静けさに寂しくなった。これからはここで暮らすのだ。タンスには服が数着と靴が二足入っていた。俺が驚くとタケルさんはナナミさんからの引越し祝いだから気にするなと言ってた。タケルさんのいた国では『引越し祝い』というのをするらしい。不思議な国だ。俺がそこに住んでいたら引越しをいっぱいして稼ぐのに......。


タケルさんには言わなかったけど父の話には続きがあった。勇者様は召喚されてこの世界に来るけど、異世界人は? 異世界人はなぜ現れるのだろう。女神様がなんの為に連れてくるのか?

父の家で代々受け継がれてきた話では、異世界人は勇者様が召喚される前後に女神様によって連れてこられる。召喚される前は勇者様がこの世界で寂しくないようにと前以て連れてこられている。召喚された後に連れてこられるのは勇者様の願いを受けて女神様が連れてくると言う伝承だ。


まさかね。タケルさんが願ってナナミさんが連れてこられたってことはないよね。だって全然そんな感じないもん。ーーそれにあの伝承は間違いだらけだって否定された話なんだから......。うん。ないない。

タケルさんはそんな事しないよ。












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