翼のある模型

チャーシューメン

第1話


「王様、何をしておられるのですか」

「ん? ああ、今は趣味の時間だからね」

 喧騒の中、王は長いガウンをだらしなく引きずり、くすんだ色の王冠を頭の上に乗せたまま、人型の模型造りに熱中していた。

 模型造りは王様の趣味の一つで、特に王が情熱を注いでいるものである。今は人型ロボットの模型にハンドドリルで穴を開けている所だ。いわゆるウェザリングと呼ばれる塗装技法の一つで、模型に汚しや傷を加える事でリアリティを与えるものである。

 ヤスリで模型の装甲を磨きながら、王はうーんと唸った。

「どうしたんですか?」

「いやね、翼を付けようか迷っていてね」

「どんな翼を?」

「そうだねぇ、鉄の翼も格好いいけど、天使みたいな白い羽根も良いかもなぁ」

「ロボットに白い羽根は合わないのでは」

「でも、そのアンバランスさが逆に良いかなとも思うんだよ」

 王は傷付き大地に膝を付くロボットに、翼を与えようとしているようだ。完成したらどんな風になるのか、少し楽しみなのだが。

 私は窓に近寄り、外を眺めた。

 武器を手に殺気立つ人々の群れが、王宮に詰めかけている。その中には、城を守る筈の兵士達の姿もあった。革命の情熱が風に乗って、舞い上がっている。

「どうするのですか?」

 私が聞くと、王は小さな筆でロボットに色を塗りながら言った。

「そうだねえ。神様が翼でも付けてくれるのなら、遠くへ行きたい所だけどねえ」

 王は真剣な眼差しで、繊細に筆を動かしている。

「王様、逃げましょう」

 私が言うと、王は筆を止め、私をちらりと見た。

「君、今は何の時間だい?」

「今は貴方の、月にただ一度きりの趣味の時間でございます」

「なら、僕はそれをするよ」

 そうして王は再び、ウェザリングに熱中した。この人は、真面目過ぎる人だ。

 結局、王は模型に翼を付けなかった。

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翼のある模型 チャーシューメン @kino1000

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