第46話 完幕 見つめる四つの瞳

 フルグドラムの街門を出てゆく隊商を、ジッと見つめる瞳が二つ。瞳の持ち主は工場の煙を嫌い、遠い森に立つ、背の高い枯れ木の枝の上から見ていた。


「ああ……失敗しちゃった……」


 小さな少年が、細い枝もしならせずに座り込んでいた。だが、輪郭は不安定にブレている。


「やぁやぁ! 失敗したね。しちゃったね!」


 一羽のオウムが、少年の隣の枝にとまる。けたたましく少年に喋りかけるオウムは姿を変え、少女の姿へと変わった。こちらも輪郭が不安定に揺れている。


「うるさいなぁ……」

「後始末はちゃんとしたの? したよね。したに決まってる」

「したよ……ちゃんと記憶は消した……母様ははさまが邪魔しなきゃ上手くいってたのに……」


 不満げな少年に呼応するように、少女も表情をコロコロと変えてゆく。


「ね。なんでだろうね。上手くいきそうだったのに。父様ととさまはなんで邪魔したんだろうね。こっちなんか十年もかけたってのに! 酷くない? 酷すぎない?」

「そっちは母様……関係なかったじゃないか……」

「子育ては楽しいものだよ? 失敗しちゃったけどね! そっちもママをやってみたら? あれ、そっちだとパパ? パパママ? ママパパ?」

「やだよ……面倒くさい……」


 気だるげに喋る少年と、楽しそうに騒ぐ少女。対照的な二人は、掛け合いのように言葉を繋げあってゆく。


「そっちは気が短すぎるんだよ。なんでもっと気長にやれないのかな。楽しいからやってみると楽しいよ」

「そっちこそ……なんでそんなに気長にやっていけるのかな……面倒だよ……」

「でもねでもね。さっさと考えなきゃね。考えよう。やってみよう」

「はぁ……そうなるよね……」

「いい感じにゴチャゴチャしてるし」

「いい感じに面倒になってるし……」


 二人は同じ色を放つ瞳で、ジッと同じ方向を見ている。

 それは馬車の後部座席で揺られている少女たち。


「次はどっちがいこうか。楽しいね。楽しいね」

「どっちでもいいよ……考えるのも面倒だ……」


 二人は手を繋ぎ、枯れ木から身を投げた。


「今度はもっともーっと楽しませてね! 父様!」

「今度は邪魔をしないで欲しいかな……母様……」


 空中で光となり、混ざり合い、掻き消える。

 混ざり合う寸前、二人の背中に羽のようなものが見えた。だが、その姿を見た者は誰もいない。二人が消え去ったあとには、静寂が残るのみ。


 役目を終えた枯れ木が、音もなく砂と崩れ散っていった……

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