第20話 作戦なんてもんは材料が揃ってからだ
自信満々にそう言い放ったカナリを見る俺の表情は、とても苦いものだったろう。今思い出しても腹が立つ。その上、ここ数日で決着をつけるとまで言いやがった。
理由は、被害が少ないうちにサージャオをどうにかしなきゃ、
「言ってることは、そりゃそうなんだろうけどさー……」
机に肘をつきマウスをイジる手を止め、何度目かわからない溜息を吐く。
サージャオを倒す。カナリが宣言してから、すでに丸一日以上がたっている。時計を見ると、深夜の一時。
「……もうすぐ大晦日か」
日付が変わり、今日は十二月三十日。今年が終わるのに、あと二日を切った。
そういや、カナリの世界の暦ってどうなってるんだろ。一日の時間も変わらないし、あっちも年末だったりするんだろうか。その割には、それらしい賑わいは見てないな。
「おーい、カナリ……ありゃ、寝てる」
机の上に置いてある大量の紙束に、カナリの頭は埋もれていた。
穴から手を伸ばし、カナリの顔にかかった少し茶色く変色した紙をどけると、スースーと静かな寝息が聞こえてくる。
手に持った紙を穴から引っ張り出し、見てみるが――
「……やっぱり読めん」
ムリだった。文字が読めません。日本語が通じてるということは、文章の構成なんかは一緒なんだろうが、いかんせん文字の体系がまるで違うらしい。
カナリを起こして何が書いてあるか聞いてみようかとも思ったが、やめた。今日は部屋に戻ってからずっと、資料とにらめっこしていたんだ。起こすにしても、もう少し時間がたってからにしよう。
「にしても、量が多すぎやしませんかね」
机の上に大量に散らばっている資料。文字は読めないが、どんな資料なのかは知っている。
これは、教会から借りてきた、ザフィージェに関する資料だ。十年より前の、ザフィージェの放った魔物による被害報告。ザフィージェらしき魔物の目撃情報。そして、ザフィージェ討伐後に作られた、山間の砦の攻防を記録した報告書。
サラちゃんを通してコソッと借りてきたものじゃない。正式に教会から借り受けた資料となっている。
「ホントに、俺が勇者だなんて呼ばれるとはねぇ」
今日――正確には昨日の朝、俺とカナリは教会に向かった。それは、十年前と同じ、御伽噺の勇者が現れたと伝えるためだった。もちろん理由は、作戦を立てるための材料集めと、サージャオ退治の協力を得るため。
『おおおっ! やはりあの気配は勇者様のものだったのですね! このタイミングで現れたということは、やはり我らをお救いになるために……! 神よ! 感謝いたします!』
立派な白髭を蓄えた
サージャオを倒すため、俺が神父にザフィージェの情報の提供と、教会騎士の協力を申し出ると、今度は神父のほうが困った顔をした。
『
すぐに討伐に出るとなれば、教会として協力できる騎士は六名。それが限界だと神父は言った。騎士全員を貸し出せとは俺も言えなかった。街を守る者は必要だし、帰ってきたら街がなくなっていた、なんてことになったらどうしようもない。
俺は作戦を立ててみると神父に告げ、ひとまず資料を借りて教会を後にした。
そこからは、文字を読めない俺に代わりカナリが資料を読みふけり、俺はネットを使い、古今東西のアラクネの情報を集めまわっていた。とは言っても、俺がやっているのは、あくまで
「調べた結果次第じゃ、戦わないで逃げるんだけどね」
まず前提として、無茶はしても無謀はやらない。勝てないと思ったら逃げる。このことは、カナリも理解している。死んだら終わり。勇気と蛮勇は違うのだ。
そしてなにより、俺は勇者になりたいわけじゃない。大手を振ってカナリと一緒にいるために、十年前の勇者の尻拭いをする。それだけ。それに今のところ、教会だけの秘密にしてもらっているし。できなかったら悪いからね。……まっ、勇者になれればって気持ちもないわけじゃないけど。
サージャオを倒せば、カナリも勇者の従者という
「その辺、どうなんだよ」
「……ん……うぅ~……すか~……」
手を伸ばしカナリの頬をつつくと、カナリは少しだけ眉を顰める。しかし、すぐに気持ちよさそうに寝息に戻る。まったく、緊張感の欠片もないな。
やはり寝顔は、普段の男に見せようとしている顔より、ずっと無垢に見える。少女の寝顔だ。最初に寝顔を見たときは男だと思ってたし、もっと別の部分を見てたからなぁ。これで涎を垂らしてなかったら、もっと完璧だろう。
もう少しだけ手を伸ばし、深い青色の髪の先を指で梳いてみる。ひっかかることもなく、髪は指の間をサラサラと流れる。感触が気持ちいい。
「髪、結んでないほうが似合ってた……かな」
カナリが魔女だと告白したときに、一度だけ見た髪をおろした姿。その姿が忘れられない。
ムクムクと湧き出てきた悪戯心のままに、髪の先を持って、カナリの鼻をくすぐってみる。
「……ふぐっ、んぅ…………ぷくちっ! …………すー、すー……」
まだ寝るか。しかし、思った以上に可愛らしいクシャミだったな。面白いからもっと聞いてみたい……けど、やめておく。ここでやめておかないと、きっとマズイことになる。考えてみると、寝てる女の子にやることじゃないよな。本当に変態じゃないか。
「……さて、俺は体を動かしてない分、もうちょっとがんばりますかね」
右手を髪からマウスに持ち替え、開いていたページをスクロールさせる。カリカリというマウスから鳴るホイール音を聞きながら、読んだ内容をテキストにまとめてゆく。
「アラクネー、アルケニー、呼び方は色々。元は神の血を引く人間だったが、神と織物勝負をして負ける。その後、自殺したが神に蜘蛛として転生させられた」
詳しくはもっと色々とあるけど、これが神話としてのアラクネの物語。ここにヒントがあるかといえば……
「ないな。ないない。神の血がどうこうって感じじゃないし。うーん……アラクネの原点を調べても、意味はないかもな。もっとRPGのモンスターを調べたほうがいいか」
そう思って、様々なゲームの攻略サイトなんかを見てみるが――
毒を吐く。糸は鋼鉄のように硬い。完全に人間の姿に変身できる。上半身を甲冑のように硬化できる。上半身はアンコウのような
だが、このくらいの情報はまだマシなほう。
虫だから炎属性に弱い。闇のモンスターだから光属性に弱い。陸上の生物なので水属性に弱い。神性を持つから光属性に強い。初期の雑魚モンスター。中級モンスター。通常エンカウントのくせにボスクラスの強さを持っている。緊縛が好き。ドS。ドM。etc.etc...
「調べるだけ無駄、かな……」
調べてみても、範囲が膨大になりすぎるというか、製作者によって設定が違いすぎるというか。弱点だってバラバラだ。
「レベルを上げて物理で殴ればいい――なーんて単純にはいかないよな。そもそもレベルなんて概念、カナリたちにはないだろうし。ルキティアル戦記にもなかったし」
それができるんなら、おそらくSTR特化のサラちゃんに任せるんだけど。カナリのためとなれば、喜んでやってくれるだろう。だがそんなことをすれば、無駄に死人を出すだけになる。
「……ダメだ。なーんも思いつかない。胃が痛くなってきた」
どうやって戦う。どうすれば勝てる。悩んで悩んで、でも答えが見つからない。
リッカが買ってきてくれた胃薬を飲む。吐き過ぎて胃が痛むのか、それとも悩みすぎて胃にキているのか。おそらくは、その両方。
キリキリと痛む腹をさすりながら、ブックマークしておいた、あるHPを開く。
「当てにならないのは、ここも一緒なんだけどね」
そこは、ルキティアル戦記の攻略サイト。そのトキレムの街のページ。雑談する者もいなくなったコメント欄に、数年ぶりに投稿されたコメントがあった。
『アラクネとエンカウントした人はいますか? 教えて欲しいことがあります』
コメントが投稿された日付はつい昨日。俺が書き込んでおいたものだ。攻略なんてほとんど載っていない攻略サイトだし、期待なんてしていない。その期待通りに、俺のコメントから更新はされていなかった。
「はいはい。わかってましたよ」
ページを閉じようとマウスを動かした、そのときだった――
『なにが知りたいんだい?』
コメント欄が、更新された。
「……おおぅ」
思いもしなかった展開に、体がとっさに動かない。そのうちに、また新しいコメントが更新される。
『おや、気付いてないのかな? おーい』
ははっ、なんだこいつ。過疎サイトのコメント欄に即返事を求めてやがる。しかも昨日の投稿に。するなら昨日書き込んだ直後にしろっつーの。
『ボクもヒマじゃないんだけどなぁ。いないんならしょうがないか』
「……って、ちょ、ちょっと待った!」
聞こえるはずもない待ったをかけながら、急いでコメントを打ち込む。
『いますいます!』
『やっぱりいるじゃないか。それで、アラクネのなにが知りたいのかな?』
それはもちろん、攻略法……いや、それより先に確認することがある。
『あなたが言っているのは、ルキティアル戦記のアラクネでいいんですよね?』
『それはどうかな。でも、キミの知りたい情報だと思うよ』
なんだそれ。別ゲーのアラクネの話をされても困るんだけど。だからルキティアル戦記のか聞いたんだけど。
『おや、信じないのか。なら話はお終いだ』
『待ってください。聞かせてください』
だけどまぁ、今はどんな情報でも欲しい状況である。どんな話なのか聞いてもいいだろう。役に立ちそうになかったら、途中から無視すればいいや。
……それになぜか。コイツから話を聞かなきゃいけない。きっとコイツは、なにかを知ってる。そんな気がする。
『アラクネと戦うときの攻略法。弱点でもなんでもいいんです。教えて下さい』
『やだよ。そんなのツマラナイじゃないか』
ほっほっほっほっほっほっ。イラッとしたゾ☆ 荒しか? ただの荒らしなのか? 無知を煽ってくるタイプの荒らしなのかな?
でも、我慢だ。もう少しだけ我慢しよう。無視はいつでもできる。
『神話を調べても、他のゲームも調べても、わからないんです』
『そりゃそうだろうねえ。そんなことを調べても意味がない』
『それで頼みの綱のこのサイトもこんな調子だし、途方に暮れてるんです』
『なるほど。キミはあれかい。自分がわからないのは、このサイトが悪いと。そういうことかい』
『いやそういうわけじゃないですけど』
『そうだろ? 自分で検証もしないで、情報だけよこせと。攻略班もっとがんばれ。自分に楽をさせてくれ、と』
あーもう! なんなんだコイツ! こっちは、検証なんかしたくてもできなんだよ! 弱点が知りたいから実験させてくれってサージャオに頼めってか? 死ぬわ!
はぁ……自分の勘なんて頼りにならないもんだな。相手からしたら、俺がなんで知りたがってるのか理由も知らないし、しょうがないと思っておこう。イライラしてもいいことなんかない。
『でも、それじゃ余りにもあんまりか。キミも困ってるみたいだし。ヒントくらいはあげてもいいかな』
まるで、俺をイライラさせることに満足したかのように、次々とコメントは更新されてゆく。
『あの世界のベースは、キミの世界とそこまで変わらない。犬は犬だし、鳥は鳥だ。わけのわからない生き物でも、どこかしら共通点はある。ほとんどはね』
『キミの視点はミクロすぎる。もっと大雑把でいい』
『他のゲームや神話を調べてるなら、キミはもうヒントを見つけているはずだ』
頭が追いつかない。心臓がバクバクいっている。
ヒント? 今、そんなものはどうでもいい。それよりも、もっと重要なことをコイツは言った。『あの世界』と。
『あなたは、あの世界を知っているんですか?』
震える指でコメントを打ち込む。しかし…………いくら待っても、コメント欄が更新されることはなかった。
「ホントに、なんなんだよ……!」
机を殴ったところで、深夜だということを思い出した。耳を澄ませても、部屋の外からは音が聞こえてこない。リッカが起きてこないことに、胸を撫で下ろす。
ペットボトルごと飲み物を乾いた喉に流し込み、コメントを見返す。
コイツは知っている。きっと俺よりも、もっと、ずっと深くまで。だけど、きっと返事は返ってこない。もう、なにを書き込もうと、反応してくれないだろう。
「だったらいいさ。上から目線でほざいてろ。会ったら覚えてろよ」
無理矢理、頭を切り替える。反応がない相手に、これ以上構っていられない。だったら、それよりも考えるべきはヒントの内容。そっちに集中する。
「世界のベースはあまり変わらない。視点をもっとマクロに。俺はもうヒントを見つけている……」
織物勝負に乗ってくる? 違う。
調べた弱点全てが有効? 違う。
そんな簡単な話じゃないはず。アイツは、俺が調べたものは意味がないと言った。なら、一体なにがヒントになってる?
「シオンー」
「んお、カナリか?」
カナリの声が聞こえてくる。どうやら、起きたようだ。穴から出た手が、パタパタと振られていた。うーん。コレだけ見ると、やっぱり不思議っちゅーか、怖いな。心霊現象顔負けだ。
「ごめん、考えごとしてた。起きたのか?」
「なんか、すごい音が聞こえてきて起きた」
机を殴る音で起こしたのか。まだ眠いのか、顔を出すのも面倒みたいだ。穴から出た手をぐったりさせている。
「ブツブツ言ってたけど、倒す方法、なんかわかったのか?」
「わかったわけじゃないけどな。……ふぁぁぁ」
「シオンも眠そうだな」
「さすがにね」
そろそろ体力の限界だし、目も疲れた。ヒントを探そうにも、どうにも頭が重い。
「オレはシオンのせいで、目が冴えちゃったんだけどな」
「悪かったって。なら、夜食でも買ってきたらどうだ? 食堂、まだやってるんだろ」
「あの猫のねーちゃんのところか。たしかに小腹は減ったなぁ」
「そうそう。にしても、本当に猫みたいだったよなぁ、あのお姉さん。ああでも、鳴き真似なんだっけか」
「営業努力ってやつだ。んで、バカな男が引っかかると」
それは男の悲しい性というやつじゃないかね。たとえ作り物でも、響くんだよ、心に。
「昔は獣人は、混ざりモノって嫌われてたんだけどな。今でも差別されてる種族がいるって噂もあるし」
「今の生活にも歴史ありってか」
「オレも詳しく知らない。なんせ、一番酷かったのは百年以上前の話らしいから」
「そんな昔のことなのか。にしても、混ざりモノねぇ……」
チクリと、棘のような小さな疑問が浮かんでくる。
「……なぁカナリ。食堂のお姉さんは、なんの混ざりモノになるんだ?」
「なんのって、猫と人ってことだろ。じゃなきゃ、にゃーにゃー言わないだろ」
「猫と、人。猫で、人か……」
そうか。そういうことか。アイツは、魔物とは一言も言っていなかった。
「なるほど。共通点か……十分、見つかる位置に情報はあったってわけか」
思い立ったが吉日だ。検証してやろう。今からやることなら、死ぬような危険はないはずだ。
「カナリはまだ起きてるよな?」
「資料ももうちょっとで読み終わるし、それまでは起きてる。腹も減ったし、眠れねぇ」
「なら、もう食堂に行くのはちょっとだけ我慢しててくれ。我慢できないなら、コレと……俺の飲みかけだけど、コレもやる」
カナリの手に、食いかけの菓子とペットボトルを渡すと、俺は着替えてダウンジャケットを着込み、財布をポケットにねじ込んだ。
「どっか出かけるのか?」
「ああ。一時間で帰ってくる」
「なんで――って、おい!」
「詳しくは帰ってきてからな!」
部屋を出て階段を下り、玄関を開ける。よかった。雪は降ってない。
自転車の鍵を外し、誰も歩いていない道を突っ走る。
「ああああああっ! 耳が痛い!」
ニット帽でも持ってくればよかった。顔に当たる冷風が、氷の針のように突き刺さる。
目的の場所は、自転車でも三十分近くかかる。その場所とは、二十四時間営業のスーパーマーケット。リッカが胃薬を買いに行った薬局よりも、さらに遠い。
「……でも、そこなら」
俺の目的のモノが売っているはず。この検証が成功したなら――
「サージャオの弱点だって、見えてくるはず……!」
その思いが、急かすように自転車を漕ぐ足を動かしていた。
――――そして、一時間後
「……成功だ」
思っていたことがピタリと事実と当てはまった。
アイツの言葉をそのまま信じるというのはムカつくが、この世界とあの世界との共通点はあった。これで……これでサージャオはどうにかできるかもしれない。
「おいシオン」
「…………はぁ、はぁ、はぁん……!」
調べるべきことはわかった。あとはまとめるだけだ。
カナリが読んだ資料と照らし合わせれば、きっと、きっと大丈夫だ! 思わず体が震えてくる。
「おいごら、無視してんじゃねーぞ」
「あぁん! お客さぁぁぁぁん!」
……この体の震えは、武者震いだ。けっして、恐怖からじゃあないよ?
「ファイヤーボール」
「うぁっちゃっちゃっちゃ! 熱いよ!?」
焦げた! トレーナーが焦げた! いくら穴があるからって、自分の胸にファイヤーボールとかやるなよ!
「おい」
「はい」
「次は頭を燃やすぞ」
「ぜひやめていただきたい所存でございます」
この年でハゲは勘弁してほしい。
「これ、どうすんだよ」
「そのうち、収まると思います……たぶん」
「たぶんだぁあ?」
「あの、あんまり俺と喋ってると、その、バレるから静かに」
「うるせぇ! ……ああああっ、離せこらっ!」
これが、カナリの体に絡みつく。それはもう、大変ぐねぐねと。まるで猫が体を擦り付けるように。ときどき隙間から覗く密着したお姉さんの肌が、もうあれです。
「そんにゃぁぁぁぁぁぁぁん! はぁ、はぁ、体が、熱いんでしゅよぉぉぉ! 頭が痺れて、発情期でもにゃいのに体が……アタシににゃにしたんですかぁぁぁぁぁ!」
「知らねぇよ! くそこら、ズボンを脱がそうとするな! ちょ、触るな! ッ……そこは……ダメ!」
ふぅ……
声を聞いてるだけで、耳が幸せである。まぁ、全てはスーパーで買ってきたペット用品のせいなんだけど。
「想像以上の効き目だったな」
買ってきたペット用品を指で弾く。パッケージに『一発でKO!』とまで書いてあるだけあるなぁ。お姉さんも一発でKOだった。そっちの世界だったら、悪いコトに使えそう。
さて、どう収拾をつけようかな。水でもぶっかければいいかな。……って、なんだこの音。ミシミシとか、ビキビキとか。まるで、固いモノが握りつぶされてるみたいな……
「……カナリ……さん……?」
「サ、サラ……!」
え、サラちゃん? ……えっ!? なんでサラちゃんがいるの!? あと、宿の壁ってバルサ材でできてるの? なんか、握りつぶされてるんですけど。
「……お仕事が終わって様子を見にきたら、な、なななななななんて羨ましい……! ああもう! カナリさんから離れなさい泥棒猫!」
「ぷにゃははははははっ! ね、猫だから泥棒猫なのかにゃ? にゃはははははは!」
「ちょ!? サラまでこっちにくるな! 絡み付くな! こいつを離すのを手伝ってくれ!」
「イヤです! 私にもご褒美をください!」
「なんの!?」
いやー、カオスカオス。直接見れないのが残念だ。これもキャットファイトって言うのかな。
「はっはっはっ。どうしようね?」
「シオンは笑ってないでどうにかしろ!!」
「むーりー」
俺は穴から出れないんで。
「お客さぁぁぁぁん!」
「カナリさぁぁぁぁん!」
「はっはっはっはっ! どうしようもねぇな!」
「こ、このバカ野郎どもがぁぁぁぁ!」
カナリの叫び声が、宿に響く。
――この後どうなったかと言えば、俺が散々な目にあったのは、言うまでもない。……髪、切りにいかなきゃな……
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