第13話 目覚めと告白
・「おおっ! ボスまでいった人ついに出たんだ」 20XX/12/23 22:44:46 ID:LLeY5Qd10
・「編集乙です。で、ソースは?」 20XX/12/23 23:15:21 ID:isdD22owAd
・「有志の攻略サイトにそんなの求めんなよ氏ねば?」 20XX/12/23 23:28:43 ID:Os10Sep6gc
・「画像くらい張れないのってことなんだけどわからないのかな?」 20XX/12/23 23:42:36 ID:isdD22owAd
・「日本語が不自由なんですねかわいそう」 20XX/12/23 23:43:49 ID:Os10Sep6gc
・「荒らすな。どうせ俺たちしか書き込んでないけどさ」 20XX/12/23 23:43:59 ID:LLeY5Qd10
・「わたしらのチャットルームみたいな感じだからつい。ごめんなさい」 20XX/12/23 23:45:33 ID:isdD22owAd
・「m9(^Д^)」 20XX/12/23 23:46:15 ID:Os10Sep6gc
・「
∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ´∀`)< オマエモナーID:Os10Sep6gc
( ) \_____
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(__)_)
」 20XX/12/23 23:49:26 ID:isdD22owAd
・「相変わらずAAが崩れててワロス」 20XX/12/24 23:50:43 ID:Os10Sep6gc
・「いいから荒らすな。ROMはいるかもしれないだろ。しかし、やっと新しい情報が出てきたな」 20XX/12/23 22:51:26 ID:LLeY5Qd10
・「ですねー。こんなクソゲー、まだやってる人いたんだって感じ」 20XX/12/23 23:52:01 ID:isdD22owAd
・「人のこと言えないでしょ俺ら」 20XX/12/23 23:52:41 ID:Os10Sep6gc
・「編集主さーん、そのボスまでの道のりとかも追記しといてもらえると助かりまーす」 20XX/12/23 23:53:13 ID:Os10Sep6gc
・「自分で調べる予定はないのな」 20XX/12/23 23:54:30 ID:LLeY5Qd10
・「だって行ける気しないし。逝ける気しかしないし。最初のボスなのにね」 20XX/12/23 23:56:53 ID:Os10Sep6gc
・「だれが上手いこと言えと。あ、メリークリスマスイヴ」 20XX/12/24 00:00:21 ID:LLeY5Qd10
・「うわもうこんな時間。用事あるから寝ないと」 20XX/12/24 00:00:42 ID:isdD22owAd
・「用事とかハハハ。まさかウソだよね?」 20XX/12/24 00:01:00 ID:Os10Sep6gc
・「彼氏とデートですざまぁ。え、イヴに一人なの?」 20XX/12/24 00:01:26 ID:isdD22owAd
・「一人じゃないよ! でも俺の嫁は画面の向こうから出てきてくれないもので。でもケーキは買ってきて嫁と食べるよ!」 20XX/12/24 00:02:56 ID:Os10Sep6gc
・「ガンガレ。いつか画面から出てきてくれるよ」 20XX/12/24 00:03:11 ID:isdD22owAd
・「じゃあ今日は解散で。本当に俺たちのチャット掲示板になってるな」 20XX/12/24 00:05:47 ID:LLeY5Qd10
・「別に見られて困ること書いてないし。過疎掲示板だし。じゃおやすみー」 20XX/12/24 00:06:02 ID:isdD22owAd
・「はいはーい。おやすみ」 20XX/12/24 00:00:16 ID:Os10Sep6gc
・「おやすみー」 20XX/12/24 00:00:36 ID:LLeY5Qd10
――――――――
「はぁ……」
ここ数日で何度目かわからない溜息とともに、目頭を揉む。
コメントの過去ログを漁るのは疲れる。編集履歴は消えてるし、権限を取得しないと編集できないHPらしく、俺じゃ中身を見られない。
「HP内の検索機能くらいつけろよなー。メンドくさい」
おかげで十年前のコメントの過去ログを漁ることになってしまった。コメントにあるとおり過疎っているおかげで、コメント量は多くなかった。それでも一年分では量はある。小さな文字をずっと追うのはどうにも疲れた。最近はカナリの服の隙間から外を覗いていることが多かったからか、眼精疲労だろう。が、その甲斐あってか、収穫はあった。
「でも、十年前。十年か……」
コメントの日付は今から十年前。クリスマス前に、ザフィージェの情報が追加された。そして、十年前に現れたという勇者。時期は一致している。
「本当にいたんだな」
いるだろう、とは思っていた。
ダンジョンの最奥まで行けたのが俺にとって奇跡のような出来事だとしても、ルキティアル戦記が発売されて十数年、他にいても不思議じゃない。だってそこまでは、ゲームの領分だから。
でも――
「調べ物は終わったんですか?」
「――え? あ、ああ。十年前のコメントログ――資料を一年分、全部漁って、ようやくね」
「そうですか。……ザフィージェが倒されたのは冬だったって、言っておいたほうがよかったですか?」
ほほ~う。サラちゃんはザフィージェが倒された時期を知ってたのか。こっちは一月から調べ始めて十二月でやっと見つけたというのに。それさえ知っていたら、調べる量は四分の一まで減ったというのに。
「なんで教えてくれなかったのかな? カナリと一緒にいた俺をやっかんだのかな?」
「被害妄想はやめてください。いきなり『調べることがある』って言って、カチカチカリカリなにかやり始めたのはシオンさんじゃないですか。シオンさんがなにを調べるか知らないのに、教えられないです。バカですか?」
「んぐ……っ」
返す言葉もない。さっきの言い方じゃ、完全に言いがかりだ。もし返すとすれば。
「ごめん」
謝罪の言葉くらいだろう。いかにサラちゃんがストーカーで、匂いで性別がわかる変態という名の淑女だろうと、今のは俺が悪い。どんな相手だろうと俺が悪いと思ったら、ちゃんと謝れる男なのだ。
「じゃあ、カナリさんの胸を揉ませてください。それで許してあげます」
「黙れ変態。自分の乳でも揉んでろ」
カナリの胸は俺のじゃないから。謝って損した。今度は謝る相手を見てから言おう。
「今は自分のよりもカナリさんのです! 先っぽをクリクリするだけでいいですから!」
「俺の胸じゃないからどうしようもないよ! もうやだこの変態! あの優しい少女だったサラちゃんはどこにいった!」
「あれは猫を被ってただけです」
「ですよねー。本性はコレだもんねー」
「猫は被ってなんぼです。相手に気に入られるように。嫌われることのないように。近づいて、相手の趣向を探って、仲良くなって。そこから徐々に自分を出していくものです。まぁ、ここまで見せることはありませんけど、シオンさんにはバレてしまってますので。私の本性を知ると皆離れてしまうんですけど、シオンさんは引かないで私と話してくれます。いい人ですね」
「いや、割と引いてるよ?」
割とどころかドン引きのレベルです。変な信頼のされかたをしたもんだ。今一緒にいるのも、カナリが心配なだけだから。
「わかりました。胸は諦めます」
「なにがわかったのかわからないけど、それはよかった」
「その代わり、ちょっと聞かせてください」
「なにが代わりかわからないけど、なんでしょう。あ、俺に興味でも湧いた? カナリと一緒に、俺も襲いたくなったとかだったら勘弁してくれよ」
「異世界の住人だという興味はありますが、まったくもって違います」
カナリに続いてサラちゃんにも振られました。全然悲しくないのがせめてもの救い。やったぜ。
「私が聞きたいのは、カナリさんが使った召喚魔法についてです」
「ああ、あの魔狼ガルスとかいう、小さいのを召喚したやつか」
監視砦でカナリが召喚した、青く小さな子犬。その見かけによらない
「カナリがあんな召喚魔法が使えるのを知らなかった。だから、俺に答えられることはないと思うな。俺が知りたいくらい」
「じゃあ、カナリさんの名前を教えて下さい。フルネームで」
「フルネーム? そりゃ……」
あ、そういや俺、カナリのフルネーム知らないや。ステータス画面にはカナリって名前しか表示されてなかったし。そういうもんだと思ってたんだけど。
「もしかして、知らないんですか」
「面目ない。最初からカナリって名前を知ってたから、お互いの自己紹介でも名前は俺のを言っただけだった。カナリの
「魔法がわかる……というのとは違うかもしれませんけど」
「? どういうこと?」
はっきりしないサラちゃんに訝しげな視線を送る。悩んでる姿を見ると、サラちゃんも半信半疑という感じ。
「これも、御伽噺みたいなお話なんです。えーとですね、ここから遠く離れた北に、魔物も入り込めないという、大きな雪山があるんです」
「ふーん。よっぽど険しいとか?」
「それもあるとは思うんですけど、他にも理由があるらしいです。その雪山は魔女の領地。魔女が使役する使い魔によって、魔物が入り込めない、といわれています。実際は、人が住んでいないから魔物も出ないって皆思ってますけど」
「だから御伽噺ね。もしかして、それが魔狼ガルスってこと?」
「ガルスって名前かは知らないですけど、金色の瞳を持ち、蒼い鬣を持つ巨大な狼だっていう伝承があるんです」
「でも、巨大でもなんでもなかったけど」
思い出してみても、豆柴程度にしか思えない。こっちではあの大きさで巨大――なんてことはないだろう。サージャオも子犬って言ってたし。
「大きさもそうなんですけど、その魔女の一族は、決して山から下りてこないそうです。だから、私もわからないんです」
「じゃあ、カナリの名前次第では」
「そうなのかも、しれません。魔狼を使い魔にする魔女の一族、たしかその名は――」
「――
話している横から、静かに声が上がった。そこには、ベッドで寝ながら、俺たちを見ているカナリの姿があった。
「カナ――」
「カナリさん! 目が覚めたんですね!」
俺の言葉を遮り、サラちゃんがカナリの胸に。ム・ネ・に! 飛び込んでいった。あれはカナリが目覚めた喜びだけじゃないね。欲望も混ざってるね確実に。迷いなく胸に一直線だったし。
「……よう」
カナリは、感動で抱きつき鼻息を荒くしている(実際は思い切り匂いを堪能しているだろう)サラちゃんに困りながら、上目遣いで俺を見る。
「心配、かけたか?」
「誰が。逃げられるって言ったのはカナリだろ」
「あ、そ」
ちょっとイラッとしたな、カナリ。なんだその顔。俺はカナリを信じただけだってのに。でも、心を縛っていた錘が深い息と一緒に落ちてくれた。
「……だけどまぁ、無事でよかった」
「……ん」
少しだけ、カナリの顔が柔らかくなる。このくらいの返事で勘弁してくれ。それよりも、だ。
「で、カナリ。いつから聞いてた」
ビクリと体を震わせるサラちゃんを、俺は見逃さない。
タイミングによっては、両手を縄で繋いで教会に連行しなきゃいけないから当然だよね? できればそうしたい。俺がそっちの世界にいれば、俺がこの手で……って、ムリでーす。サラちゃんに敵う気がしない。俺が捻られて終わる。
「いつって、ついさっきだよ。シオン、ガルスのこと小さいって言ったろ。おかげでガルスが騒いで起きちまった」
「え、消えたんじゃないのか?」
「一回呼ぶと、消えた後もガルスの意識は穴のすぐ向こうにあるんだよ。だから気を付けろ」
「もー、シオンさんダメですよ。誰にだって、たとえ召喚された子にだって、言われたくないことがあるんですから。ねー、カナリさん」
「あ、ああ。そうだな、サラ」
ガルスについてはわかった。カナリの様子から、ガルスが暴れだして危ないってわけでもなさそうだし。
それにしてもまぁ、どんどんサラちゃんの株が俺の中で下がってゆくなぁ。相変わらず胸元にいるサラちゃんに、カナリもどう対処していいか困っている。ウザいならいっそ殴っちまえカナリ。あー、バラしてぇ。本性がストーカーで変態だってバラしてぇ。……いっそバラすか。
「カナリ。サラちゃんて実は」
「――キッ!」
「今までカナリの看病をしてくれてたんだ。感謝しとけよ?」
睨まれて日和りましたごめんなさい。サラちゃんマジ怖い。
「そうなんだ。サラも疲れてるだろうに、ありがとう」
「そんなぁ。カナリさんのためなら、全然平気ですよ。……あぁ、よかった……」
そのよかったは、カナリが目が覚めたからなのか、それともバレなくてよかったからなのか。十中八九、後者だろうけど。しかし、こうして見てる”だけ“なら、甲斐甲斐しい可愛い女の子なんだけどなぁ。ホント、色々と惜しい。惜しいところが致命的だってのが一番救われない。
「シオンがそこにいるってことは、バレちまったのか」
「バレたバレた。盛大にバレたし、死にかけた。ちなみに、カナリが女だってのもバレてるぞ。最初からな。だから胸触られたからって焦んなくてもいいぞ」
「べ、別に焦ってないし! って、ホントか? あー……変装には自信あったんだけどな。サラ、なんでわかったのか聞いていいか?」
「それは、にお」
「にお?」
「に、似てる人がいたんです! その、女性の知り合いに! だから、ふ、雰囲気とか体型で、なんとなく女性じゃないかなーって、そう思っててですね! それで汗を拭こうとカナリさんの服を脱がせたら、やっぱりって! や、やだなーシオンさん。そんな殺しますよ最初からだなんてシオンさんの勘違いです」
おい、不穏な言葉が混ざってなかったか? 自爆しそうになったのはサラちゃんだろう。俺のせいにするんじゃない。
「わかる奴にはわかるってことか。ガッカリさせたかな、サラ?」
「いいえ、ガッカリだなんて! 私はカナリさんだから、ここまでしてるんです! カナリさんだからいいんです!」
「そ、そうなんだ」
「はい!」
サラちゃんの言葉にどんな裏があるのか知ってるから、見てる分には面白いんだけど、いかんせん俺は関係者。苦笑いしかできない。
「ゴホンッ。サラ、オレとシオンのことなんだけど」
「はい。隠してるってことは、知られたくないってことですよね。わかってます。秘密にしておきます。シオンさんも、わかってますよね?」
「危険がない限りは守ろう。ねー、サラちゃん」
「うふふー」
「あははー」
「……?」
「でも、差し支えなければ一つだけ教えて下さい。その、カナリさんが召喚した魔狼ガルスって、もしかして」
「そ。ロズナムの魔女の使い魔さ」
「お、おいカナリ」
「いーよ別に。ここではぐらかして変に調べられるより、はっきりと答えておいたほうがいい。シオンも気になってんだろ?」
「そりゃ、まあな」
魔女だなんだって話が出て、細部は違うとも大まかには当てはまる。そんな話を聞かされて、気にならないわけがない。
「じゃあ、やっぱりカナリさんは……」
「とりあえず、自己紹介からやり直そうか」
カナリはサラちゃんをテーブルの椅子に座らせ、ベッドの縁に座り俺たちに向き直る。そして、後ろに束ねていた髪を解くと、俺たちに
「わたしの名前は、カナリ=マーニデオ。素質がなかった、出来損ないの魔女だよ」
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