一章 はじまりの街 トキレム
第3話 はじまりの夜
「へぇ、シオンはオレが、ルキティアル戦記ってゲームの住人だっていうのか」
「ああ、そうだよ……」
俺は相変わらず頭を抱えながら、穴向こうの机から奪ったジュースと菓子を貪り食うカナリに状況を説明する。説明……説明ね。なんてバカらしい。こんなこと説明させるんじゃねぇよ。
ゲームの世界だって? ディスプレイに空いた穴がゲームの世界と繋がったって? 説明している俺のほうがおかしくなりそうだ。頭の病院が必要なのは俺かもしれない。
「ゲームってあれだろ? ソーラムみたいな遊びだろ。それがどうしてオレの世界だってんだよ」
「ソーラムってなんだよ。テレビゲームか?」
「テレビ、テレビ……なんだそれ。ソーラムはアレだ。あー、何て言ったらいいかな。まぁ、競争だよ。ソゥラって動物を走らせて、一等に賭ける。当たれば配当金が出る」
「競馬みたいなやつか?」
「そうそう、そんな感じ。ケイバってのは知らないけど、多分。そうだな、機会があれば賭博場で遊ばせてやるよ。――美味かった、ありがとよ」
カナリが、食べきったスナック菓子の空袋を穴からこっちに投げ返してくる。……ああ、ふざけんなよチクショウ。俺が二、三口しか手をつけてなかったスナックが、本当に空になってやがる。
「さぁて、そろそろ次にどうするか、マジメに考えないと」
「マジメにって、どうするんだよ。穴を塞ぐ方法でも思いついたのか?」
「違う違う、この後どうするかってことだ。今日は疲れた。メシも食いたいし、宿で休みたいんだよ」
「じゃあ休めばいいだろ。宿屋だろうが馬小屋だろうが、好きなとこに泊まれよ」
街の中には宿屋もある。それに俺だって寝たい。早く寝て、この悪夢を終わらせたい。
「馬小屋はイヤだなぁ。疲れが取れない」
「たかだか四、五十分くらいダンジョンに潜っただけで、贅沢言ってんなよ。攻撃だって当たってないだろ」
「へぇ、よく知ってるな。オレが気付いてなかっただけで、ずっと覗いてたのか?」
「まあ間違ってはない……かな?」
ディスプレイ上のゲーム画面を覗き穴だとしたら、カナリの言っていることも間違いじゃない。相手が気付いていないという点も含めて。
……でも、なんだ? 心の中に、もやもやとした違和感が浮かび上がる。
「見てたんなら知ってるだろ。四十分もダンジョンを逃げ回ってたんだ。それも何度も死にそうな目に合いながらな。シオンだって四十分も死ぬ気で逃げ回ったら、休みたくなるだろ?」
「そう、だな。死にそうな場面は何度もあったよな」
「そうだ。それにな、先立つものがない。コレ、買っちまったからな。なんでこんなモン買っちまったんだか」
そう言って、カナリは羽帽子を脱ぐとくるくる指で回す。
そうか、俺が羽帽子を買ったせいで、金がないんだった。悪いことをしたな……いやいやいや、ゲームになに言ってんだ俺は。そんなもん、プレイヤーの自由だろ。
「だからさ、金になりそうなモンないか? 売りゃあ金ができる」
「そりゃ売ればそうだろうし、買わせたのは俺だけどさ。だからってなぁ」
悪いとは思うけど、そっちでどうにかして……なんだよ。なんでそんな変な顔をしてるんだよ。
ただ、口を開いたカナリの言葉は、俺の顔を引き攣らせるには十分だった。
「なに言ってんだ? 買ったのはオレだろ? なんだよ、シオンに買わされたって」
「…………はぁ?」
そっちこそ、なに言ってんだ?
俺が武具屋で羽帽子を選んで買ったんだろ? は? え?
「……なぁ、カナリ。どんな理由で羽帽子を買ったんだ?」
「なんでって……記念だよ、記念。故郷の村から出て、初めての大きな街だ。なんか気が大きくなっちゃってさ。ダメだね、完全に田舎者だった」
「じゃ、じゃあ、ダンジョンに向かった理由はなんだ? あんな危険なダンジョン、無謀だって思わなかったのか!?」
「そりゃー思ったよ。でもオレ、素早さには自信があったからさ、誰も攻略したことないって聞いたし、逃げ回りながら、どうせなら奥まで見てやろうかなーって」
「攻略したことがないって、誰に聞いたんだよ!?」
「そんなの、街の奴らからに決まってるだろ」
ウソだ。俺はそんなメッセージ、見たことがないぞ。カナリのときは街の門番と武具屋のNPCとしか話してない。そこにダンジョンの話なんて、一言も出ていなかった。それだけじゃない。一人目から六人目まで、誰もダンジョンの話なんてしていなかっただろ。
(俺がプレイして選択した行動のはずが、カナリは認識してない? 俺の行動が、自分の行動だって認識されてるのか?)
これが違和感の正体。俺のことなんて、穴の向こうの誰か程度にしか思っていない。プレイヤーとプレイアブルキャラ。その関係に気付いていない。
「なんだよ。こんだけ話してるのに、まだオレがゲームの住人だって言うのか?」
「そりゃそうだろ!? こんな穴の向こうに
「夢、ねぇ。おい、シオン。ちょっとコレ見てみろ」
カナリが手招きをする。なんだ、証拠でもあるのかよ。ふざけんなよ。この状況をどう説明するん――
「――ガッ!? な、なにするんだよ!」
「なに、ちょっとムカついたからさ。心配すんな。辺りに魔物の気配はない」
――カナリの伸ばした手が俺の髪を掴み、無理やり穴の向こうに顔だけ連れ出される。向こうはディスプレイに空いた穴とは違い、宙に穴だけがぽっかりと空いていた。
「いいか、肌で感じろ。鼻で嗅ぎ取れ。その目で見るんだ。これがゲームか? これが夢か?」
「見ろったって、なにを…………」
夜の涼しい風が、俺の顔をなぞる。部屋の中では決して感じることのない、青臭い植物の匂いが鼻の中を通る。目には……
「……街が見える。人も」
「そうだ。トキレムの街だ。この世界が、オレの生きている世界だ。魔物に脅えながら、ガキが大人になって、子を生んで、生んだ子供が大人になって。そんな世界だ。シオンの世界がどうだか知らないが、そこまで違いはあるのか?」
俺の生きている世界には、魔物なんていない。山に入れば猪や熊なんて怪物みたいな動物もいるが、ドラゴンなんていないし骨だけで動く生物もいない。
今見ている世界がルキティアル戦記の世界だというなら、何もかもが俺の世界と違う。それでも……それなのにだ。
感じて、嗅いで、見た世界は、どこまでも
深呼吸する。わけがわからない。常識という言葉が薄氷のように頼りなく感じる。現実離れし過ぎている。でも、現実だ。現実なのだ。認めたほうが楽だ。そう、心が囁いてくる。
「……わかった。信じるよ。とりあえずは、だけどな。夢だって言ったのはあやまる」
「ならよかった。乱暴にして悪かったな」
カナリが髪を離すと、俺は急いで頭を穴に引っ込める。見えてくるのは俺の部屋。ホッと息を吐く。やはり、知っている場所は安心感が違う。
「で、さっきの話なんだけど。売れそうなモノ、なんかないか?」
「あ、ああ……ちょっと待ってろ。何でもいいのか?」
「売れそうならな。さっきの毛布みたいに高級そうなやつならなおのこと」
「わかった」
俺は呆けた頭で部屋を出ると、階段を下りて居間の押入れから余っているお歳暮やらお中元の箱を自分の部屋に運び入れる。
サラダ油のセット。
「おい、これはどうだ? タオルのセットなんだけど」
箱の中にはバスタオルやらフェイスタオル、バスローブなんてものも入っていた。箱ごとだと穴を通らないため、一つずつ穴からカナリに渡してゆく。
「この服はなんだ? シオンのところだと、こんな服を着て出歩くのか?」
「それは風呂の後に着るタオルだ。体をあまり拭かなくても、それを着てれば勝手に水を吸ってくれるだろ?」
「ふぅん、変なの。でも、こっちの大きなタオルはいいな。ふかふかで手触りもよくて、高く売れそうだ」
カナリは白いバスタオルを広げ、満足そうに笑っている。
そんなに金になるのだろうか。俺の世界じゃよほどのブランド品でもない限り、バスタオルなんてたいした金にならないだろう。カナリは俺の毛布も高く売れると言ってたが、中古毛布なんて買い取りどころか、きっとゴミとして処分されるのが関の山だ。
「よし、じゃあ街に戻るか……ああでも、この穴、どうするかな」
「他の人には見えなかったりするんじゃないのか?」
「うーん……どうだろ。――そうだ!」
なにか思いついたのか、カナリは手に持つバスタオルを穴へとかける。バスタオルが穴に引っかかってるところを見ると、穴の縁には物理的な力が働いているようだ。穴の向こうに顔を出せるんだ。物理に干渉している程度、小さいことだと自分を納得させる。
ゴソゴソと布がこすれる音がすると、タオルが穴から外される。穴の向こうには、重なった薄い布地が見える。
「なぁ、これなんだ?」
「布を少しめくってみろよ、シオン」
言われるままに、重なった布を指でめくってみる。狭くて少し見づらいが、草原と街が見える。
「穴を動かせてよかった。穴を、オレの服の中に隠したんだよ。大き目の服だから上手く隠せるし、服をめくればシオンも外を見れるし、いいと思うんだけど」
「確かにこれなら、気付く奴もいないかも」
「よし! なら街に向かうか。ぐだぐだ話してて、魔物に見つかってもことだからな。どうせ逃げるだけだけど」
俺が渡したタオルを抱え、カナリがトキレムに向かう。進んでる方向と高さを見るに、穴を隠したのは体の正面。たぶん胸と腹の間あたり。
街に入るとカナリは門番と二、三言話し、門が開くと中に入る。今の門番は、世界観を説明していたNPCか。
「なぁ、カナリ。今のNPC――門番は、二十四時間ずっとあそこに立ってるのか?」
「ああ、いつ誰が街にくるかわからないからな。何人か交代で詰めてるみたいだぞ」
「交替で……まぁ、そうだよな」
「あんまり話しかけるなよ? 独り言を喋ってる怪しい奴だって思われたくない」
「そ、そうだな……」
普通に考えれば、同じ人間が四六時中立っているなんて考えづらいよな。思い出してみれば、NPCの顔グラは小さく判断がつき難いものしかなかった。これも帳尻合わせなのだろうか。
(本当に、ただの街だ……)
街の中をカナリの服の中から見てみると、えらく普通の――いや、俺の世界を基準にすれば大分違うのだが、人の営みという点では何も変わらなかった。
夜中だというのに開いている商店に、出歩いている人々。露店なんかは閉まっているが、朝になれば開くのだろうか。その辺りは、ゲームをプレイしているだけでは感じ取れないところだろう。
カナリの足が、ある店の前で止まる。扉を開けると、中には武器から防具、他にもアイテムや日用品らしき品まで並んでいる。綺麗に磨かれた盾もあれば、雑多に木箱に入れられた剣もある。
ここは質屋だろうか。街のマップに質屋なんてなかったはずだ。それに中古が買えるんだったら、新品で武器を買う必要もないかもしれない。
(そうか。RPGだったら中古の武具なんて、NPCから貰ったり拾ったり以外に見ることはまずない。いらない武具やアイテムを売っても、経営シミュレーション系のゲームでもなければ、中古品を売っている場面を見ることもまずない。だから、質屋がないことを疑問に思わなかった。でも、ここは人が多く暮らす街なんだ。質屋があっても不思議じゃないよな……)
現実の生活であれば普通。RPGのゲームで考えれば異質に近い。この辺りの齟齬は、”ゲーム“をしているか”生活“をしているかの差だろうか。
「いらっさいま~。どのようなご用件で~」
奥から店員の声が聞こえてくる。
(お、おおおお……!)
変に間延びした声でカウンターに出てきたのは、頭に犬のような耳を生やし、白のフリルのついた服を着た、小さな女の子だった。確かルキティアル戦記の世界には、
なぜだろうね。さらに現実離れしたはずなのに、心の中がウッキウキのワックワクで堪らんのですけど! だってリアル
(もっと、もっと近くで見た――いったああああうぃ!?)
いきなり目に走った激痛にイスから転げ落ち、部屋の中を転げ回る。
「なにか~、変な視線を感じたんですが~。それに変な音も~」
「気にしないでくれ。オレの腹の音だ」
「はぁ~~。ずいぶんと不思議なお腹で~」
「だろ? オレも気にしてるんだ。次に鳴ったら剣でも刺して、ちゃんとシメておくよ」
ぐ……くそっ……カナリめ、躊躇なく目を指で突いてきやがった。しかたねぇ、ちょっと大人しくしておいてやる。
……チクショウ、チクショウ……! 犬耳が! 犬耳ロリっ子が目の前にいるのに!!
「ちょっとこれ、見てもらえないか?」
「お売りいただけるんですね~。拝見いたします~……まぁ~~~! こんなにふかふかのタオル、初めてみました~~!」
「だろ? あああ、そんなに顔をこすりつけないでくれよ。それで汚れがどうこう言われても、安くは売らないぞ?」
「わかってますよ~~。でも、すっごいふかふかで我慢が~~」
あああああああああ! すげー見てぇ! もふもふしてるんだろ!? バスタオルに顔をこすりつけてるんだろ!? 見てえよ! 一枚絵のCGやアニメでもなく、リアルで犬耳娘がもふってんだろ?
……ちょっと。ちょっとぐらいは……
「あら~、そのナイフもお売りになるんですか~?」
「違うんだが、ちょっと邪念が腹から漏れてる気がしてな」
ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ……ああもう! やめてよ! 俺に見せてよ!! 血の涙流すぞゴラァ!!
……でも、命が大事なのでそっと服にかけた指をどける。ううううううう……
「それで、幾らになりそうだ?」
「そうですね~……全部で二千
「にっ――!?」
思わず開いた口を慌てて閉じる。よかった、ナイフは飛んでこなかった。
贈り物のタオルが二千Gだと? 羽帽子は五百Gだった。確か、宿屋の値段は八十G。一ヶ月近く、宿屋で寝泊りできるぞ。
「わかった。それでいいよ」
「では~、こちらの紙にサインをお願いします~」
「よし……はい、書いたよ」
「毎度あり~~。また掘り出しモノがあれば、どうぞご贔屓に~~」
ジャラジャラという音をさせながら、カナリが質屋の外に出た。少し歩くと、パンパンと服を叩いてくる。
「おい、やったなシオン! 二千Gだってよ! 二千G!」
「怪しまれるから話しかけないでくれって言ったのは、誰なんですかね~……目も潰しやがるし」
「なんだよ、そんなに獣人族が見たいのかよ。だったらほら、今は誰もオレを見てないから、覗いてもいいぞ。近くにいる」
「なにっ!?」
急いで穴から外を見る。どこだ、どこにいる? 犬耳か? それとも猫耳か? ウサ耳でもいい……って、おい!
「カバ耳のババァじゃねーか! 俺が見たいのはあれなの! 萌える感じのやつなの!」
「んだよ贅沢だな。まっ、そのうち見る機会もあるって」
「ああああんもう! 犬耳ロリっ子もふもふ~~!!」
「シオン、気持ち悪いぞ」
「うっせバーカ!
「はいはい、夢ね夢。とりあえず宿屋に向かうぞ」
俺の戯言を軽く流しながら、カナリは歩く。しばらくすると、木製の大きな建物が見えてくる。ここが宿屋なのだろう。
カナリはカウンターで受付を済ませると、部屋の鍵を受け取った。受付は男の声だったので興味なし。大人しくしてる。
「食堂があるみたいだから、食い物だけ買って部屋にいくぞ」
カナリは小さな声で俺に向かって呟きながら、どこかへ歩いてゆく。
ふっ……と香ってくる、いい匂い。食堂が先にあるのか。その匂いにつられ、俺の腹も小さな音を立てる。時間はもう深夜二時を過ぎている。菓子もカナリに食われたし、腹が減った。
「適当に見繕ってくれ。肉多めがいいな」
「はーい! 了解しましたニャー!」
(ニャーだと!? もしかして猫耳娘か!? ……よし、これは見――ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!)
二度目の目潰しが俺の目を襲った。ああ、チクショウ、チクショウ……!
「お客さん、どうかしましたかニャ?」
「いいや、なんでもない。気にしないでくれ。それにしても、そのニャーニャー言ってるのはなんなんだ? 口癖か?」
「そういうわけじゃニャいんですけどニャー。男のお客さん相手だと、こうすると注文をいっぱいしてくれるんだニャー」
うあぁぁぁぁぁっ! こびっこびの猫耳娘とか、すげぇ見たい! マンガやアニメで見るとすっげぇウザイけど、でもリアルで見れるなら見たい!!
でも、さすがにこれ以上目を犠牲にはできない……! くそぅ、くそぅ……!
「はい、お肉たくさんニャー!」
「ありがと」
しばらくすると、階段を上る音と、部屋を開ける音が聞こえてくる。
「よし、喋っていいぞ」
「よし、じゃあ殴らせろ」
「断る。無闇に他人を見ようとするからだ」
「だって見たいじゃああああああん!」
「あー、胸元でうるさいうるさい」
カナリは胸元から穴を取り出すと、机の端に設置する。カナリは反対側だからか見えない。そこから見える部屋の中は、ベッドと机だけの簡素な部屋だ。
くるりと穴が回転すると、今度は胸元を整えたカナリと、机の上に置かれたメシが……メシが! あれは、夢の……!!
「マンガ肉!!」
丸々としていて、ふっくらと柔らかそうな肉。両端から突き出た骨。そこから滴る、溢れんばかりの肉汁。アニメや漫画で見たことはあっても、現実で作るとなんか違うマンガ肉!
思わず、口から涎が出る。
「おい、カナリ。その肉よこせ」
「は? やだよ、高かったんだぞ?」
「犬耳ロリっ子と猫耳娘の恨みはこれで水に流してやる」
「どんだけ恨んでんだよ……」
「食わせてくれたら、また売れそうなモンをやる」
「よし食え。この肉はお前のために買ったんだ」
手の平パーンだった。
「……んふふふふふふふ」
「……はははははははは」
二人で笑いながら、仄暗い取引が完了した。世の中はギブ&テイク。裏にどんな魂胆があろうと、互いの利害が一致すればオーケーだ。
急いで台所から大皿を持ってくると、穴の向こうからマンガ肉をこちらへ引っ張り出す。
「おお! おおおおお!!」
やべぇ、マンガ肉だ。本物のマンガ肉だ! テンション上がる!
夢だとかゲームだとかどうでもいい! まずは食う!
「い、いただきます。――うめぇ! なんだこの肉! 肉汁たっぷりで、柔らかくて、でも歯ごたえもちゃんとあって……とにかくうめぇ!」
「そりゃーよかった」
牛や豚ではない。鳥でもない。でも美味い。なんの肉か気になるが、怖いから聞かない! でもいい!
深夜の食事。こんな肉を食ったら太ること間違いなし。でも、マンガ肉という誘惑には勝てなかったよ。
部屋の中には、二人の食事をとる音だけが静かに響き――
「――はぁ……食った食った。大満足だ」
深夜の食事は終わった。
「肉がなかった分ちょっと物足りなかったけどな。太るよりましか」
「お前なぁ。夢の前に太るだなんだと言ってんじゃねぇよ」
「オレには夢の食材ってわけじゃないからな。約束、忘れんなよ」
「わかってるよ。……あー、腹がいっぱいになって眠くなってきた」
もういい。穴の空いたディスプレイも気にしない。俺は寝る。この満足感の中で寝たい。血が胃に集まってて、考えられん。
「オレもだ。そろそろ寝よう。……その前に、風呂に入らなきゃな」
「おう、行ってこい行ってこい。俺はもう寝る」
「……覗くなよ?」
「男に興味はねーよ」
「そうかよ。んじゃー、おやすみ、シオン」
「おー……」
電気を消し、腹をさすりながらベッドに横になる。チラリとディスプレイを見ると、穴には布がかかっていた。覗き防止のためだろうか。
「だから、男に興味はねーっての……ふぁぁぁぁぁ……」
大きな欠伸をしつつ、俺は毛布に包まった。
今の状況は問題だらけ。でも、俺には解決方法がわからない。だったらなるようになれ、だ。
一晩寝たら、穴も消えてるかもしれない。そんな期待を
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