第10話
その時、今までアーサーと睨み合っていたシアンが突然少女に興味を持った。
「ところで、そこにいる少女は一体なんなんだ?」
疑問に思うのも当然ですよね、と内心で納得しながら少女は体を固まらせた。嫌な予感がする。
それはアーサーとフレイも同じ予感がしたのか、少女をシアンの視線から隠すように体を動かし、少女をかばう。
しかし、その行動がいけなかったと理解したのは一瞬後だった。
「……二人して珍しいな? 女を背にかばうなんて」
「っ!!」
しまったと思ったがもう行動にしてしまった為後の祭りだ。この後、どうやってごまかせばいいのかもうわからない。
「私は、通りすがりの者です」
「ただの通りすがりを、この二人が意味もなくかばうとお思いか? 浅はかな考えだな」
「……いえ、本当に通りすがりです。ちょっと変わった場所での、ですが」
「ほう?」
「ですが、もう用は済んだようなので、そろそろ帰らせていただこうと思っておりました」
少女のその言葉に、アーサーがぴくりと反応したが先ほどと違って引き止めるようなことは言わなかった。そのことに感心したのは少女だ。彼は無意識に、自分をこの場に残してはいけないと感じているのだろう。
そのことに感謝しつつ、少女の方もシアン、と呼ばれた青年を見つめ続けていた。シアンも少女を見つめ続けている。そして、突然ふと笑った。
その表情にアーサーとフレイはさらに警戒を大きくしたが、告げられた言葉に言葉を失った。
「――せっかく我が弟を助けてくれたのだから、一晩はこの城に泊まっていかれてはどうだ? 疲れもあるだろう?」
その言葉は少女にとっては予想外だったため、反応ができなかった。まさか、ここで誘われるとは思わなかったからだ。それに、アーサーから誘われたのならそのままきっぱりと断ることもできたのだが、まさか、彼の兄であるシアンに誘われるとは。面識のない人間に出して、どう断ればいいのかわからない。
困惑で、思わずフレイを見てしまった。それがわかったいたのか、フレイと視線が交わる。フレイの方もものすごく困った表情をしている。ということは、彼にはこの状況を打開することは難しいということだ。
ならばと思い、少女はアーサーを見た。ちょうどアーサーと視線が合うが。彼も困惑した表情をしていた。なぜあなたまでそんな表情をするんだ、と言いたかったがそんなことが言えるはずもなく、結局その場には沈黙が落ちただけだった。
シアンは、笑いをこらえ切れなかった。
「はははっ! そんなにもその少女をかばうと、お前たちは“
「その反応はやはり何かを知っているのか。では、是非とも城へ招かねばならないな、アーサー?」
まるで勝ち誇ったかのようなその表情を見た瞬間に、その顔面を殴りたい衝動に駆られたが、さすがにそんなことをすればただでは済まないとわかってもいふため手が出なかった。雰囲気からアーサーの行動を読んでしまったフレイは止めるための準備をしていたがそれを実行せずに済んだことを内心で安堵した。
さすがにここではことを荒立てるのはいけないとわかっているらしい。
しかし、少女の表情を見た瞬間に、フレイは驚いた。
初めて見る、恐怖したような表情。それは、今までどれだけ自分がさっきを向けても、睨んでも、見ることのなかった表情。
はっきりとした恐怖が、その顔に広がっていた。
「……そんなに怖がらないでくれ。取って食おうということではないのだから」
くすっ、と笑いながらシアンは少女に向かって言葉を発する。びくりと肩が揺れた。
「おや? 震えているのか? まあ、そんな薄着で外にいるのだから仕方がない。さあ、早く城の中に案内してやれ。寒さで体が震えているなんて、可哀想じゃないか」
崩れることのない笑みをさらに深くし、シアンは少女の逃げ道をどんどんと塞いでいく。
アーサーもフレイも、助けることができず、気づくと少女は城へと招待されてしまっていた。
美しい装飾が所々目に入る。目を見張るような意匠も散りばめられている。部屋の中はとても美しく仕上げられているが、華美ではない。落ち着いた雰囲気を崩さず、しかし豪華さを忘れないようなそんな印象を受けられる。
しかし、そんな部屋の中にいる人物はとても鬱々とした雰囲気を纏っていた。
きていた薄手の衣服はすべて剥ぎ取られ、ドレスを身にまとっている。望んでいないのに、部屋まで用意されてしまい、逃げるに逃げられなくなってしまった。
助けを求めようと、知っている人物――アーサーとフレイを呼んで欲しいと頼んだが、何故か女中は断ってきた。
何故だ、と頭を抱えたくなる。
これではまるで軟禁状態だ。早くここから離れたいのに、離れることができなくなってしまう。それに、何故この城の中はこんなにも“穢れ”が強く渦巻いているのだろうか。ここは人間社会の中でも高貴な人間が住んでいる場所だ。ならば、それなりの荘厳な気配と空気があってもいいのに、それがまるでない。
息をするのすら、苦しく感じてしまう、
落ち着きなく部屋の中をうろうろとしていると、扉をノックする音が部屋の中に響いた。
「…………はい」
返事をするものなのかわからないが、とりあえず返事をすると、それが了承の合図になったのか、扉が開かれる。
現れたのは、アーサーと言い合いをしていた男――シアンだった。
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