第6話
「……なんか、俗世離れしたって感じの子だな。あの子」
「たしかに。なんか不思議な感じの子だよな」
「そういえば、名前教えてもらった?」
「いや、聞かれたけど教えてもらってはないな」
「やっぱりか……。なんか、秘密的なものがあるような気がする」
「そういうことに関してだけはやたらと勘が働くな、おまえは」
「……フレイ、酷い。本当に酷い」
「今更」
一言で切り捨てられてしまうと、それ以上はもう何も言えないので黙っているしかない。なんでこんなにもこいつは俺に冷たいんだろうと、思わず思ってしまう。
「そろそろ動けそうですか? まだ休まれます?」
声をかけてくれと頼まれていたはずなのに、逆に声をかけられてしまった。そんなにのんびりとしていただろうかと、アーサーとフレイはお互いに顔を見合わせて思った。
少女の方はあまり気にしていないのかキョトンとした表情で自分たちを見ている。その様子が、幼さを感じさせた。
その時、アーサーはふと目の前の少女の手を見た。それは本当に偶然であり、ただ視線がそちらを向いてしまっただけなのだ。少女の手。キラキラと光っていないだろうか。気づかれないようにそっとそちらを凝視していると、その手からハラハラと何かが落ちていることに気づく。それが、銀色の美しい結晶だと自覚した瞬間、アーサーは思わず少女の手首を握って自分の視線の高さまで持ち上げる。
「……!?」
当たり前だが少女は驚き、反射的に手を引こうとしたが相手の握り込む力が強かったため、引くことができなかった。むしろ、アーサーの方が離さないとばかりにさらに強く手を握りこんだ。
「アーサー! 何してるんだ!?」
思わずなのか、フレイが声を荒げてアーサーを咎める。しかし、その声は全くと言っていいほどアーサーには届いていなかった。ただ、自分の目線に持ち上げた少女の手を凝視している。
細くて、強く握りこんだら折れてしまいそうな細い手首をじっと見つめているのだ。何があるんだと思い、フレイも同じように少女の手を見つめた。
特に何か変わっている様子はない。
「アーサー、いい加減――」
「なんで……結晶がこの手から生まれているんだ……」
「は?」
「な……っ!?」
アーサーのその言葉に驚いたのは少女だ。何を言っているんだという声を出したのがフレイだ。しかし、フレイは少女の声に疑問を抱いた。どうしてそんなにも驚くのか、理解できなかったからだ。もう一度、フレイは少女の手を見つめる。アーサーも同じように見つめた。
「やっぱり……! 結晶が!」
「……なにも、ないと思うんだが」
お互いに合わない意見に、二人は顔を見合わせた。そして、自分達が思っていること、言っていることがお互いに本気で言っていることだと無言で確認する。同時に、少女を見つめた。
突然二人に見つめられる形になり、少女は肩を跳ね上げた。突然の出来事で、反応の仕方がわからない。
「結晶、出てるよな」
確信しているような声音でアーサーがそうたずねる。しかし、少女は答えなかった。
「……だめ元で、聞くんだけど。頭がおかしいって思ってくれても全然構わないんだけど…………“
その単語を聞いたとたんの少女の反応は明らかに何かを知っている反応だった。それで確信した。この少女は“
それならば。
「俺たちと一緒にいちゃだめだ……!」
アーサーは少女の手首を解放した代わりに、その華奢な肩を掴んだ。その言葉と行動に、少女とフレイが驚いた。
「……え、……え?」
「アーサー?」
困惑した表情でアーサーを見上げている少女は疑問の声を上げながら視線をうろうろさせる。時にはフレイを見つめる瞬間もあった。しかし、それはフレイも同じ状況であった。自分の主人は一体なにを言っているのか、さっぱり理解できなかった。
「俺たちと……いや、正確には俺と一緒にいたらいけないんだけど……。とにかく、誰かに見つかる前に、姿を隠したほうがいい」
真剣な表情で語るアーサーに、いまだに混乱している少女とフレイは思わず顔を見つめ合ってしまった。
「……つまり、アーサーはあなたの身が心配だからあなたはここから姿をくらましたほうがいいと」
「……私も、そのように捉えましたが……」
「そもそも、アーサーが見えているものは俺には見えていない。俺は、彼女は普通の人だと思うしな」
「そのように言っていただけたほうが私としてもありがたいのですが……アーサーさんは違うように見えるのでしょうか?」
「違うようにっていうか、実際違うだろう? 手から結晶が出ているなんて、普通の人ではありえないことだと思うんだが?」
アーサーのその主張に少女は黙る。
受け取り方としては、図星をつかれて黙っているというのと、アーサーの言っている意味のわからない言葉に対して困惑、もしくは呆れているためともとれる。
フレイには判断がつかない。
「とにかく、これ以上の案内は説明だけでいい。あんなところにあなたを連れて行きなくない」
「………………」
少女はアーサーを見つめた。この人は一体どこまで本気なのだろうか。態度や言葉、声のトーンなどで感じられるのは本気のものでしかない。しかし、もしそれすらも罠だったとしたら。相当な詐欺師に彼はなれるだろう。
頭の中でぐるぐると考えても、まとまらない。信じられるのは何もなく、目の前にいる青年の言葉を信じるしか、今の少女にはないのだ。
それでも――もしかしたら、今目の前にいる彼は“生かせる”かもしれない。
「……大丈夫ですよ、アーサーさん。心配してくださるのは大変嬉しいことですが、あなたが心配していることは早々に起きないと思いますから」
その言葉の意味を、アーサーは理解できなかった。彼女は一体何を言っているのか、分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます