第3話

「……フレイ。待たせたな」

「アーサー? なんかあったのか?」

 明らかにアーサーの様子がおかしいと気づいたフレイはアーサーにそう聞く。アーサーは気づかれないように隠していたつもりだったのだな一瞬でばれてしまい何だかいたたまれない気持ちを抱きつつも、父王が提案した課題をフレイに語った。

 フレイはしばらく言葉が出なかったらしく、アーサーをじっと見つめていた。

 と、突然に深いため息をつき、その場に座り込む。

「フレイ!? どうしたんだよ!?」

「いや、驚いたのもあるけど……お前の義兄弟きょうだいたちはまるで自分が選ばれることが当たり前だと思っているんだと改めて再認識すると何だかアホらしくなってきてな……」

「……一応この国の皇子たちだから言葉は慎め、フレイ」

 アーサーはてっきり“雪結晶華ネージュフルール”について何か言われると思ったのだがまるで勘違いだったらしい。

 そんなにはっきりと言わなくても、と思わず言ってしまいそうだった。

「まあ、“雪結晶華ネージュフルール”は気長に探せばいいんじゃないか? 国王になりたいわけじゃないんだろう?」

「もちろん」

「その場で辞退しなかったことを褒めておいてやるよ、アーサー」

 本当はその場で瞬時に辞退宣言をしたのだ、ということはさすがに言えなかった。言った後が恐ろしくて口が開かなかった。

 アーサーの方が身分は上のはずなのに、フレイの上から目線の言葉ったらない。しかし、それはもうそれで慣れてしまったから気にしていないが、外でだけはやってくれるなよと本気で考えてしまった。

「さて。そろそろ昼時だな。出かけよう、フレイ」

「……はいはい」

 いつものように、またあの消えない幻想の残像を探しに。

 そういってアーサーは城をあとにした。


**


 “雪結晶華ネージュフルール”とは、この王国に古くから伝わる伝説の華だった。

 それを見た人間は極めて少なく、そして、どこに咲いているのかさえもわからないらしい。そのため、資料も極端に少なく、探す目星をつけようとしてもつけられないのだ。

「くそっ! あの異端者! 真の王族なる我らをあのように侮辱して!」

「……確かに……父上も父上だ。なぜあんな異端者を私たちと同じように扱うのか」

「お情けでしょ? かわいそうな身の上だから、父上が放っておけなかったんだよ」

 シアン、ユアン、リュイの三人は、一つの部屋に集まり、相談していた。もちろん、“雪結晶華ネージュフルール”のことについてである。しかし、いつの間にかその相談ではなく、その場には決して居合すことのないアーサーのことになっていった。元から彼だけはこの輪の中に入ることはなかった。というのも、この三人とアーサーの母親が違うからだ。

 シアンやユアン、リュイの三人は王妃から生まれたが、アーサーだけは側室の女から生まれたのだ。

 当たり前のことだが、王族というのは気位が高い。それは三人も同じであった。正妃である母親から生まれたというだけで、それは誇らしいことである。もちろん、そのための英才教育も受けさせられが、それは自分たちに必要なことだから当たり前の教育だと受け入れることはとても簡単なことであった。

 一番年下であるリュイでさえもそれを現実としてきちんと受けた。しかし。

 アーサーは違った。側室から生まれたあの男だけは、なぜかそれを拒絶しようとした。その光景をいまでも忘れることはできない。側室である母親はすでに彼が十になる前にこの世を去っている。病だったらしい。

 そのショックから来たとしても、王宮の英才教育を断ることなど断じてありえてはならないことだ。むしろ、それを受けられる自分に感謝し、受け入れるべきであったのに。

「……思い出すだけでも腹がたつ!」

 ばんっ、と机も思い切り叩き、シアンは苛立ちを少しだけ発散させる。

「まあ、とにかく我々の誰かが見つければいいだけなのだから、アーサーが不利なことには変わりない」

「そうですね。じゃあ、情報が集まったらきちんと交換しましょうね、兄上たち」

「それはこちらのセリフだ、リュイ」

「やだなぁ、独り占めなんてしないよ、そもそも、僕も国王とかあんまり向いてないと思ってる。というか、僕、宰相になりたいし」

「受け継ぐのは一番上のシアン兄上が妥当でしょう。私もどちらかといえば宰相の方がいい」

「では、協定は結ばれたということでいいな?」

 シアンのその確認の言葉に、二人はにっと笑った。それを合図に、その場は解散となった。

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