第2話
次の日の朝。
いつも通り、フレイがアーサーを起こしに来る。普通、従者である彼の部屋はそれ専用の棟の中に配属されるのだが、アーサーが特別にフレイを自身の部屋の隣に配属した。そのため、アーサーを起こすのが彼の日課になっている。そして、運の悪いことにアーサーは朝がめっぽう弱かった。
「……アーサー、朝だ。起きろ」
当たり前だが主人の許可なく部屋に入り、アーサーを揺り起こす。しかし、全く起きる気配はない。先ほどよりも強くゆすってみるが反応は全くなかった。
「…………はぁ」
毎朝のことながら、ここまで爆睡できる彼に感心してしまう。もし暗殺者などが来たら一体どうするのか。これでは気づかずにぐさりとやられても仕方のない状況だ。
フレイはアーサーの上にかかっている毛布を両手でしっかりと握り、思いっきり剥いだ。
季節は冬。今まで暖かなものに包まれていたはずの身体が急に冷気を一気に浴びせられ、驚きで覚醒する。
「…………寒い…」
一言、アーサーはつぶやいた。
「起きろ。顔を洗え。着換えろ。身支度を整えろ」
「……一個ずつ言って。寝起きで……頭が覚醒してない……。いっきに言われても分からん……」
「…………毎朝していることを今すぐにしてこい」
「分かった…待ってて」
そう言って、アーサーはフレイから剥ぎ取られた毛布を受け取り、体に巻きつけながら身支度を整え始めた。
アーサーを起こした時刻は午前六時。身支度が終わったと言ってアーサーがフレイの元に戻ってきたのは一時間半後のことだった。
「……アーサー、朝風呂に入るのは止めないか?」
「習慣だから無理だな」
すでに覚醒――といっても一時間半たったが――したアーサーはハッキリとした言葉でそう言い切った。
「玉座の間に行かなきゃならないんだよな。いこうか、フレイ」
そう言って、アーサーはフレイを伴って部屋を出、玉座の間に向かった。
玉座の間にはすでに人がそろっており、アーサーが一番最後となっていた。
「遅れてしまいましたか? 申し訳ありませんでした」
そう言いながらアーサーは歩を進めていく。その場にはアーサーの他に三人の男性と父である王が玉座に座っていた。
「では、全員が揃ったということで話をするか」
「……父上……もう少し締まりを持って話していただけませんか」
そういったのは父王の一番近くに座っている男性がそういった。
赤銅色の髪色に薄茶色の瞳を持った男性――シアンという名の人物だ。歳は二十五前後に見える。
「まあまあ、シアン兄上。いいじゃないですか」
と、シアンを宥めたのは新緑色の髪を持ち、鈍色の眸を持つ男性――ユアンという名の男性だ。こちらの人物はシアンよりも少し若く、年齢的には二十歳前後に見える。
「兄様たちも少し落ち着いてください」
冷淡とも思える声音でそういったのは白金の髪色に、アクアブルーの眸を持つ少年――リュイだった。まだ十五歳にも満たないように見える。
「そもそも、アーサーが遅れてくるのが悪いのだろうが」
「そうだな。時間はきちんと守ってくれ」
「本当ですね。王族が聞いて呆れる」
シアン、ユアン、リュイの順に発言しアーサーを責め立てる。
「私が朝弱いとご存知でしょう。少しくらい大目に見てください」
適当に流せとフレイに言われていたこともあるが、自然とそういう淡白な反応になってしまった。内心では、あー、と思わなくもなかったが三人一気に自分を責めてくるのが悪いと割り切った。
当たり前のように三人は一気に表情を歪ませてアーサーを睨む。その時になって父王がようやく助けを出した。
「争うな。私の前だぞ」
そのたった一言でその場にあった不穏な空気は消え去っていく。それがある程度消失したことを確認し、父王は言葉を続けた。
「今日まで、お前たちの王位継承で争いが起こっているのは知っている。しかし、私は簡単に決めたくない。派閥などもあると思うが、その派閥の言葉を鵜呑みにすることもしない」
その言葉に、アーサー以外の三人の顔色が少し変わる。
「だからこそ、公平な判断をしたい。よって、お前たちに課題を与える」
その言葉には全員が驚いた。
「課題、ですか……」
一番に反応したのはアーサーだった。
「そうだ。お前たちが真にこの国を思うのならば必ず見つけられるものである。――お前たち全員に共通の課題だ。この国のどこかにあるという“
その言葉に、今度こそ全員が言葉を失った。
「陛下! 無理難題にも程があります!」
「幻と言われるものを見つけてこいなどと……現実的ではないですね」
次々に出てくる言葉は否定の言葉だった。まるで、もっと現実を見ろと言っているようだった。国王に対しての態度でないことは明らかだが、おそらく自分の父だという意識もあって発言ができたのだろう、とアーサーはどうでもいいことを考えながら話をただ聞いていた。
「できないと思うのならやらなくていい。その段階でそのものは次期国王になることを諦めるとこちらも判断する」
特に声を荒げるでもなく言われたその言葉に、全員が黙った。ここにいるのは父である国王に呼ばれたからだが、それ以上に、自分が次期国王に選ばれるという期待の方が大きかったのだろう。
どちらにしても、アーサーには関係のないことだった。
アーサー自身は国王に興味はない。なりたいと思っているやつがなればいいと思うし、もし限りなくゼロに近いが自分が選ばれたのだとしたら、それはそれでこなせばいいと思っている。権力などに興味はないし、国王という称号・名誉にもまるで関心はない。
早く終わらないかと考えているとリュイが突然話をふってきた。
「アーサー兄上は、どう思われているのですか?」
その言葉に、上二人の兄が反応しアーサーを睨むように見つめてきたのは言うまでもない。
面倒ごとに巻き込みやがってと思いつつも、アーサーは自分なりの答えを吐き出す。
「伝説の“
「その伝説を見つけられないというのが問題になっているんだ。お前は話を聞いていなかったのか」
シアンはいらだたしげにアーサーを見ながらそういった。しかし、アーサーは怯まずに言葉を続ける。
「ですから、父上は見つけてくると信じておられるんでしょう。最初から可能性を排除してしまうなど、それこそ考えなしの行動なのでは?」
アーサーのその言葉に、シアン以外も黙った。よほど言葉が悪かったらしいというのは理解できたが、引けなかったのも事実だ。
「まあ、私は“異端”ですから。国王になろうなどと考えてもおりませんが」
そういって、アーサーは父である国王を見た。
「そういうわけですので、私は元からその権利を持っておりません。なので、私は探しません」
そういったアーサーは真剣に国王を見つめていた。国王もアーサーを見つめる。その瞳には何の感情も読み取れないが、一瞬だけ痛ましそうな表情をしたような錯覚を、アーサーはおぼえた。
「アーサー、お前に始めから権利がないなどと誰か言った? 私は、お前も他の子同様に愛し、慈しんできたと自負している。それをお前の方から否定しないでくれ」
それはアーサーの胸を打った。申し訳ない気持ちになる。まさかそんなことを言われるとは思いもよらず、静かに謝罪した。
「……言葉の撤回はしない。お前たち“四人”のなかの誰でもいい。“
その言葉で、その日は解散となった。
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