第3話 猫の絵
Tさんが中学時代に美術の先生から聞いた話だ。
美術の先生が高校生の頃、同じ学校の二つ上の先輩が亡くなった。その先輩は美術部の先輩で面倒見がよく才能ある人で先生は尊敬していたという。
亡くなる前、先輩は絵を描いていた。猫の絵だ。可愛らしい茶トラ猫の絵。去年、老衰で亡くなった飼い猫の絵だった。
先輩が幼い頃から共に育った猫でとても可愛がっていたそうだ、亡くなった時は非常に落ち込み周囲を心配させてたという。そんな風に悲しんでては飼い猫が浮かばれないよと当時の顧問に励まされた先輩は高校最後の作品に飼い猫の絵に決め、美術展に出展させる為に遅くまで残って作業していた。
絵は無事に完成したが、その完成した日の帰りに先輩は帰らぬ人となった。その日も遅くまで残り絵を完成させた先輩は交通事故で亡くなった、轢き逃げだったという。人通りが少ない道で夜遅くだったからか目撃者もなく犯人探しは厳しいものとなった。
その頃、学校では先輩の死を慎み、先輩が描いていた猫の絵を美術室の最も目立つ場所に飾る事にした。先輩の家族もその方が良いと承諾し先生を初めとする美術部員も了承した。美術室に飾られた猫の絵は寂しげに見えたそうだ。
それから暫くしてある噂が立つようになった。猫の絵から鳴き声が聞こえるというものだった。
先生は聞いた事がなかったそうだが、何人かの部員は聞いたという。それは部員だけでなく他の生徒や教師までもが聞いたと言い、猫の絵を気味悪がる者も現れ、数日後には絵の中の猫が居なくなるという噂が広まった。
絵の中のモノが居なくなるというのは怪談話ではよくある事だが、それに加えて、先輩の事故現場に茶トラの猫が現れるという噂も広まった。茶トラ柄の猫なんて珍しくもないしこの辺りは猫が多い、別の猫なのではと先生は思ったが、その猫を見たという人は声を揃えて「絵の中の猫だった」と言った。
「先輩の茶トラには背中にハート柄の模様があったんだ。絵にもそれはハッキリと描かれてた」
事故現場に居た猫にも背中にハート柄の模様があったそうだ。それを聞いた先生は事故現場の猫が絵の中の猫なのではと思うようになった。そして「絵の中の猫は夜な夜な絵の中から抜け出して先輩を轢き逃げした犯人を捜してる」という噂が出回った。
その噂が学校だけでなく街中でも噂されるようになった頃、高校付近の大学で飛び降り自殺が起きた。自殺者はその大学の助教授だった。遺書が見つかり、その中に「女子高生轢き逃げ事件の犯人は私です」と書かれていた。警察の聞き込みで例の噂が流れるようになった頃、助教授は酷く猫を怖がっていたという。窓の外を見て小さく悲鳴を上げ「猫、猫が居る」と呟いてたとか・・・・・・。これを聞いた生徒達は顔を蒼褪めさせた。
――絵の中の猫は犯人を見つけ復讐を成し遂げた。
それで最初は寂しげに見えた猫の絵を先生も気味悪がるようになり、学校側も重く見たのか先輩の家族と話し合い、先輩が眠る墓がある寺に預けることになった。
今、その絵は寺に飾られているらしく、年に一度、先輩が亡くなった日に鳴き声が聞こえると言う。
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