空白の時間(SS)

潮音

空白の時間

一二三さとりは高校三年生である。

正確に言うと留年した高校三年生だが。

可愛い後輩に囲まれ、今日、彼は卒業する。

胸のコサージュを手持ち無沙汰にいじっていると自分より幾分か顔色の悪い後輩がフラフラと隣にうずくまった。

心配で声をかけると

「先輩は今日という日を二度経験したことありますか?」

とおかしなことを言う。

デジャビュだろと茶化して言うと後輩は泣きそうな顔で先輩だけは信じていたのにと泣いてしまった。

オロオロしている彼をよそにオカルト部員は一二三が後輩を泣かしただの一二三は罪作りな男だな~と冷やかす。

「おかしなことを言ってるのは承知です。

でも私の卒業後、世界はまたリセットされるんです。

そして私が卒業する三年間を繰り返す。」

そう、小説のような夢物語を暗い顔で話す後輩に何も言えない彼。

世界は昼間だというのに、部室はお祭り騒ぎだというのに。

切り取られて世界に二人きりしかいないような沈黙が流れる。

そんな重苦しい沈黙を破ったのは彼女だった。

「いえ、忘れてください。それでは先輩、お元気で。」

顔色の悪いまま彼女は踵を返した。


そして数年後、世界がまるで倒錯したかのようにめまいが起こりいつの間にか僕はまた、違う役割を与えられて演じる。

留年した先輩から今度は保険医。

それが今の世界の役割だ。

実際に僕は役割の把握だけ理解できても彼女の高校三年間に関するループの記憶は残っていない。

簡単な話、僕は役割を与えられる人形なのだ。

干渉はできるがそれ以上もそれ以下の行動も許されない。

矛盾しているだろうが、矛盾していても彼女が気づき行動しない限りここは止まったままだ。

「やぁよく来たね。」

そしてピエロは矛盾を演じる。

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