第四話 小野塚稲荷の社殿にて
我はすでに覚悟を決めておった。
茗荷山に巣食う夜盗が
社殿が我らの暮らし振りに釣り合わぬほど大きいのは、ひとえに禁所の抑えのためじゃ。決して、我らの富がもたらしたものではない。我らは日々の糧を得るのがやっとで、貯め込むような財などはどこにもあらぬ。さればこそ、我らは賊に狙われるなどとは夢にも思っておらなんだ。
薄暮に紛れて突如押し入って来た賊は、いきなり虫けらのように父と兄を斬り殺し、我を
父が、兄が、我が。何をした? かような惨い目に遭わねばならぬような、何をした? 強く噛み締めた唇がざくりと切れて、口元からぱたぱたと血が滴り落ちた。
「うぬれ、賊どもっ!」
許せぬ。あやつらだけはどうしても許せぬ! 然れど、女の身で何が出来るわけでもない。このひ弱な体が恨めしい。我は廊下に倒れ伏して、ただただ泣くばかりであった。
「騒がしいのう」
突如。闇の中から低い声が響いた。体を起こして目を凝らしたものの、姿は皆目分からぬ。
「
そう問うと。
ふわあああっ! 大きな
「気持ちよう眠っておったに、かように騒がしくてはおちおち寝ておられぬわ」
ぼりぼりぼり。体のどこかを爪で掻くような音。それから。
ぽっかりと闇の中に目が開いた。
「
「違う」
ぴしりと否定の言葉が投げ返された。
「儂は
我の体が芯から痺れるほどの強い妖気。常の我ならば、悲鳴を上げて逃げ出していたであろう。されど憤怒に震えていた我は、
「この社を護るものの端呉れとして一つ御願いがございますれば、どうか何卒、何卒聞き届けていただけませぬでしょうか?」
面倒臭そうに古妖が聞き返した。
「願いじゃと?」
「はい。そなたさまの御力で、我を鬼に変えてはくださりませぬか?」
闇にぽかりと浮き上がる、一対の金色の
「問う。そちの
「小野塚稲荷の
「然らば、その勤めを知らぬ訳はなかろう?」
「は、はい」
「神域を荒らされ、禁所の抑えは今や
「は……い」
「よいか。儂はこの
我はそのとてつもない怒りの気に触れて、伏したままぴくりとも動けなくなった。
「そちで
「は? あ、あの」
我の鬼、とは?
我が戸惑っておる間に、暗闇からいきなりぬっと黒光りする太い腕が現れた。そして我の右肩をがっと掴むなり、腕をちぎり取った。
ぐしゃっ!
「いぎいっ!!」
激痛に身悶えして
「えっ?」
確かに。確かにたった今、古妖にむしり取られたはずの右腕。それは我の肩にそのまま付いておった。傷一つなく。我は右の
我は廊下に這いつくばったまま、気配の消えた暗闇を
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