第三話 小野塚領主 久保直義の幕にて

二所にしょどの」


 凛々りりしい若武者がばくに入り、直義なおよしの足下に控えた。直義の側近、三木みき兼親かねちかは、直義の命で一人馬を飛ばし、夜盗の動きを探りに行っていた。


「おお、兼親。どうじゃ、あやつら動く気配はあるか?」

「いえ、稲荷を動けぬようでございます」

「動けぬ? いや動かぬのじゃ。こちらの動きを見ておるのよ。知恵者がおるな。ただのましらの集まりならば、松明の数に怖じ、すぐ山に逃れようとして、裏手に伏せてある捕り方の餌食になるであろうからの」

「はっ」

「されど、社に通ずる四方の道は全て塞いである。そのまま囲みを狭めよ」

「ははっ!」


 直義はまなじりを吊り上げ、怒りをあらわにして、通る声で命を下した。


「社をけがすような不心得者に情けは一切要らぬ故、一人残らず捕らえて斬り捨てい!」

「はっ。必ずや!」


 けて退こうとした兼親は、今一度顔を上げた。


「二所どの。あの夜盗ども、我らが囲む前に禁所きんじょに入り込むことは……」


 直義が、軍扇でぱんと膝を叩いた。


「うむ。ないとは言えぬな。あやつらの退路はそこしかないからの」

「いかがなされますか?」

「いかに儂らの兵が優れているとはいえ、禁所にまでは立ち入れぬ。じゃが禁を侵して彼の地に入り、戻ってきた者は誰一人おらぬ故、捨て置いて良かろう」

「御意!」


 兼親の退出後、直義は思案顔を上げた。たかが夜盗の討伐を、ここまで物々しく執り行うのには訳がある。


「禁所、か」


 直義は重々しく呟いた。


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