選択

ショーンN(ショーン・エクアドル・南米)

第1話

 いつからだろう。長いトンネルをくぐったような感覚は。目が覚めると、自分は知らない場所にいたのだった。

 あたりは真っ暗。何もわからないまま、手探りではっていくと、はるか向こうに明かりが。そこに向かってしゃにむにはっていくと、明かりの元には一人の人物がいた。

 髪は真っ白で長髪。髭も生やしており、その髭も真っ白で、今にも地面に付きそうなほど長い。衣服も真っ白で、ギリシャ彫刻の人物みたいな服をまとっている。

僕は、その人物に恐る恐る聞いてみた。

「ここはどこですか?そして、あなたはどなたですか?」

「ここがどこかは、いずれわかる。そして私のことも。」

「では、僕がなぜここにいるのかも?」 

「そうだ。」

「僕は、自分の家に帰りたいのですが。」

「ならば、そこにある二つのドアのいずれかを選びなさい。そのどちらかのドアを開けると貴方は家に帰れる。」

「本当ですか?」

「本当だ。ただし一方のドアには幸福へのきらびやかな階段があり、もう一方には、暗黒への深い奈落が口を開けて待っている。」

「…。」(意味は良くわからないが、帰れるなら早く選ぼう!)

「では、右のドアを。」

「どうぞ。もう、ここには戻ってくることのないように。」

 僕は、つかつかと明かりの下にある、二つのドアの右側のドアのノブに手をかけた。そして迷いもなくドアを開けると、目の前には、真っ暗な奈落が口を開けていた。呆然と立ち尽くしていると、後ろからドンと付き落とされた。僕の体は宙を浮き、深い奈落の底に落ちていった。


「Kさん!Kさん!」僕の名前を呼ぶ人がいる。

目を開けると、白衣を着た男性と、女性の姿があった。

「僕は、どうしたの?ここは?」

「ここは病院ですよ。貴方はガスで自殺をはかり、ここに運ばれたんですよ。でも意識が戻ってよかった。」

 僕の意識は、はっきりとし始めた。そうだ僕は、借金地獄から逃れるために、車の中でガス自殺を…。僕は、あの人物の言葉を思い出していた。暗黒への奈落、それは、息を吹き返した僕が、また借金地獄に飲み込まれることだったのだと。僕は、生還したけれど、暗澹たる気持ちになるのだった。

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