晩御飯

 日が落ちると父が製鉄場から戻ってくる。頃合良く母が晩御飯の仕度を終える頃でもあり、皆揃って食事となる。父が戻ってくる時間帯は疎らなのに、食事の仕度が終わって一息入れる母にキトリが二,三言小声で会話をするといつも父が戻るドアの音がした。どちらが凄いのか決められなかったので両方とも凄い事にしている。

 晩御飯は大体その日にもらったり買うことの出来た物を詰め込んだごった煮のスープだった。キトリはこれが大好きで、いつもスープなのにいつも違う具材のそれを美味しそうに食べた。

 殆ど話す事が無い父に代わって、母がその倍は喋る。キトリも大きな声で喋ってはいけない決まりなので、母は3倍喋っていた。それも父やキトリに聞き返すような話し方ではなく、一方的に喋って伝えるだけ、といった感じだ。時折父は頷いたり、母やキトリを見やったりするくらいだが、母はきっと父が何を言いたいのか解っているのだろう。ふふっと笑ったり、口調に力が増したり、父が反対の意思表示をすると、キトリに同意を求めるように、くっ、と眉を上げて見つめたりと、この家族なりの『会話』が続いた。

 母はいつも牛乳を売る所の遠さに文句を言う。最近まで歩いてすぐの場所だったのに、軍事命令だ何だで、物凄く遠い所になったんだと言っていた。そこで聞いた話で、今日も国同士の争いで多くの人々が犠牲になったそうだ。国民に被害が及ぶ攻撃を受けるのは当然の事、さらに現在最強国とされるバドラル国を他国が本部ではなく一般人から攻める可能性は低くない…何も考えていない国と軍、何が多少の犠牲は出て……、と話し始めたが、父が食事を止め、きっ、と母を睨んだ所で


『……あぁそうそう、今朝のパンが余っていたわ。スープに浸して食べましょう』

 と、無理に話を変えて席を立つ。明らかにキトリを想っての事だったが、キトリ自身はそんな気遣いをさせなくてはならない自分の境遇に視線を下にやった。


 そう、今この国は大戦の真っ只中にあり、キトリが人目を拒まなくてはいけない理由もそこにあった。

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