大戦の話
大戦国家バドラル。そもそもの原因はキトリ達の住むこの国にあった。
生まれてから
『ゼロ・レイス』
……そう名付けられた異能の者達を国は必死で捜索し、保護という名の捕獲をし続けてきた。そんな異常事態が続いた数年後、バドラル国の戦力が圧倒的に上がった『鮮烈の日』があった。誰も攻撃の的にする事などなかった当時最強と謳われた或る国を、バドラル国の兵が完膚なきまでに打ち破った。
それも、たった三人の子供達の手によって、とは、当時は軍の中枢のみが知るに留まり、公には圧倒的戦力とは真逆の緻密な情報戦による死中の活を狙いすました一撃で突いたものとされた。恐れるべきは力ではなく情報、周囲への刷り込みに余念無く進めたのもまた、バドラルという国への侵略を躊躇させる印象操作のためだった。
どう知る事が出来るのか、それは無論秘密裏とされ解らない事であるが、五年前、自然金剛物の感知センサーが開発されたと発表された。キトリ、六歳の事である。
これにより我が軍事は更なる力を増すだろう。また現在のセンサーは反応を確認できる程度だが、将来的により高性能な、位置を特定できるレーダーの開発をしている、とも発表された。子を隠している者達が居るならば、いずれそれは必ず見つけられるだろう。速やかに我が軍に『協力』してくれるならば、子の命は保証しよう。…そんな放送が国の中心にある巨大なスピーカーから流れた事があった。その後二回、センサーの反応が強まったとの放送があった事から推測すると、最終的に約二十人の子供達が『ゼロ・レイス』という
国民調査という名目で何度も何度もバドラル兵はキトリや他の家を訪れた。しかし、両親は『経済的事情で、私達の子は生まれてすぐに養子に出した』と偽り、部屋を捜索させろと言われる事を読んで、まだ小さいキトリを廃物置き場の奥底に隠し、臭く汚いゴミで体中を覆わせた。実際に部屋を荒々しく調べられた事はあったが、未だにキトリが見つからない所を見ると、そのレーダーとやらの作成には失敗したのだろうか。緊張の毎日の中、それでも気が付けば、キトリは十一歳にまで成長していた。
『ゼロ・レイス』によって、我らに平和という戦いの終焉をもたらしてくれる。
確かに生活は厳しいものであったが、そんな薄汚い誘い文句に負けず、キトリの両親は我が子を守り抜く事を当然選んだ。特にキトリの父は、嘗ては口数も少しはあったというが、この「レーダーの完成」という恐怖を抱えてからは、情報漏洩の防止策か、極度の重圧による精神的ダメージか、殆ど喋る事は無くなったという。
次第に捕獲される人数が増えて行く度に、大戦の話題はキトリの家から消えていった。
そして、父の懸念した『恐怖』は、決して失敗により諦められたわけでは無かった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます