キトリ、十一歳
また同じ夢を見た。あれからずっと謝る事も本当の事を話す事も出来なかった、一度きりの反故。少し胸が苦しくなって、ふうっ、と大きく息を吐いた。手探りでかけていた布を取る。
窓も明かりも無い真っ暗な部屋。それもそのはず、ここは廃物置き場である。キトリはここでいつも眠っている。両親は部屋のベットの中だ。しかし彼はそれを不思議とも苦と思う事は無かった。己の左腕がそうさせているのだと思い、母が自分を守るためだと常日頃から言い聞かせるから、そうなのだ、とする信用に裏打ちされた単純な理解がそこにはあった。
通気口を開けると、僅かに光が差し込んだ。それを頼りに、傍に置いてあったランニングシャツを右手にとって着替える。息を吸うと、廃物のカビ臭さに鼻がつん、となるので、左腕を器用に通した所で足早に廃物置き場を出た。
重たい鉄のシャッターを開くと、ゴウン、ゴウン、と体を震わせる音が響いた。あたり一面鉛色の製鉄の機械が広がる空間に出る。父親が仕事とする製鉄の作業場である。まだ作業をする気配も、炉に薪も火も無い状態だが、一番大きな機械だけは動きつづけている。
ふと、くん、と鼻を何かがつついた。鉄の焼ける匂いに混ざって、美味しそうなパンの匂いがしてくる。
「もう、朝ご飯できてるのかな。寝坊したかも」
早足で製鉄場を抜け、両親のいるキッチンへと向かっていった
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