第2話

 朝起きてカーテンを開けようと窓際に近付いた英二の足が止まった。

「え……」

 鏡に自分の姿が写っていた。昨夜かけたはずのタオルケットは、床に丸めて投げ捨てられている。

「なんだよ……なんなんだよ……」

 思わず鏡の前に座り込んだ。すると、呆然とした顔の英二の横に、見知らぬ女の顔が写っていた。

「うわぁーっ!」

 英二は叫びながら後ずさりした。しかし狭い部屋では、背中がすぐ壁についてしまう。そこから素早く部屋を見渡すが、どこにも女なんていない。

「なんだ……今のは」

 遠目に見る鏡に、なんとなく影が見えているような気がする。気味は悪いが、いつまでもこうしているわけにもいかない。怖いもの見たさも手伝って、彼はじりじりと鏡に近寄って行った。

 なんとなく見えていた影は、近付くにつれその形を女の姿に変えていった。

「な……どこに居るんだ……」

 部屋の中ほどから後ろを振り返るが、もちろん女は居ない。

「まさか……鏡の、中?」

 英二のつぶやきに、鏡に写った女は大きく頷いた。

「嘘だろ……なんなんだ、これ」

 鏡から視線を逸らして考える。


 ――俺は夢を見てるのか?

 鏡の中に人が居るなんて有り得ないだろ

 いや、あの店主……なんかおかしかった

 もしかして、いわくつきの鏡だったのか?



 ため息を吐き、天井を見上げる。

「…………」

 気になる。人の視線――というか気配が気になる彼は、再び鏡をそっと見た。座り込み、下を向いた悲しげな表情の女。

 英二の心には恐怖より好奇心が湧いてきた。

「おい……聞こえるか?」

 ゆっくりと話しかける。その声にはっとした様子で顔をあげる女。

「えっと、君は幽霊なのか?」

 英二の問いかけに、鏡の中で首を横に振る。

「生き……て……るのか?」

 目に涙をためてコクンとうなずく女。

「どうなってるんだ、これは――」

 その日から、英二と鏡の中の女の奇妙な同居が始まった。

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