第6話

 ――亜希子だ。

『10日前からカウントダウンは始まってたのよ』

『カウントダウンって、何の?』

『何の? あなたと私が一緒になる瞬間のための、よ』

『一緒にって、お前はもう……』

『……あと1時間。楽しみに待ってるわ』

『そっ、そんなの知るか! 死んだ人間と一緒になれるわけないじゃないか!』

『ふふ……迎えに行きましょうか?』

『迎え……だと?』

『新年へのカウントダウンに合わせて、あの世から――』



 亜希子の笑顔に怯えながら目が覚めた。

 時刻は23時半。テレビから、あと30分と聞こえてくる。あと30分、何事もなく過ぎれば。じっと時計を睨みつける。あと20分、15分、5分……何事も起こらず、時は過ぎていく。

 思わず笑いが込み上げてくる。

「あはは! ほらみろ、俺の勝ちだ!」

 高らかに言い放った瞬間『コンコン』と寝室の扉がノックされた。

『コンコン、コンコン』

 等間隔で繰り返し叩かれる。

 テレビからは相変わらず、今年の残り時間を告げる声が聞こえる。

「あと3分!」

『コンコン』

「あと2分!」

『コンコン』

「あと1分!」

『コンコン』


 ――や……やめてくれ……


「あと30秒!」

『コンコン、コンコン』


 ――俺は……


「10!」

『ガチャガチャ』

 ノックの音は、鍵のかかったドアノブを回す音に変わった。

「9! 8!」

『ガチャガチャ』


 ――いやだ……いやだ! いやだ!!


「7……5秒前!」

『カチャカチャ』

 それは鍵を開けようとする音に変わる。


 ――俺は……俺は……


「3……2……1!」


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