【16】きみだけずっと休んでてよし


夕闇に吊り包帯の三角の腕の白さが近づいてくる



空(くう)の空、すべては空と考えるような体調だった半日



よそ見して顔にぶつけた電柱のいやに確かで五十嵐内科



行きつけのつぶれた後にできた店 オレはあくまで認めぬ構え



二人とも黒いコードを鞄から出してほどいて電車の他人



カップ麺を持ち運ぶとき手の中にほんの小さな波の音する



思い出すために振ってるサイコロの1の目、そんな国もあったね



だぶだぶのシャツは干されて一年中きみだけずっと休んでてよし



一滴がひらたい石の床に落ちそれが聞こえるくらいに孤独



公園の池の中にも苦しみが映って雨粒など受け止める



水上に鳥は集まり話し合うこともないまま真昼をうごく



エサをやる男がいれば鳥たちは群がってゆき奪いつつ食う



雨傘を杖のつもりで使おうと試みやめた数秒の間に



離れると水の流れる便器から聴いた気がする舌打ちの音



泥棒の手足が触れたことのある柵があったら光ってみてよ



アイドルが真面目にタフに生きていることをテレビに見せつけられて



人工の模倣に見えてこの山のみどりうすみどりややうすみどり



発進によろめく夜の自転車のオレを防犯ライトは照らす



針の穴を通った糸はそれまでの糸よりやる気を感じさせるぜ



美しく映る鏡があるならばそれには映らないよう走る


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