第2話 肉

 気を失っていたらしい。目を開くと、代わり映えのない土の色が目に入った。朦朧としながら、上半身を起こす──が、近くにあの男たちは居なかった。身につけている服だけが、引き裂かれたままにされている。ただ、下着はちゃんと身につけていたのを見ると、何もされなかったらしい。明らかに不自然だった。


 どこにいったのだろう?


 漠然と、誰にでもなく問い掛けてみる。当然、答えは出ないのだが。

 足下をよろつかせつつも、起き上がると、彼女は何かを踏んだ。グチャリと肉が弾けた音がして、一瞬身を引きつらせる。


 おそるおそる、足元を見ると──


 草むらに転がっていたのは、三体の人形だった。その内二体は、自分の背に潰されたらしく、原形を留めていない。残り一体は、しっかり自分が踏み潰していた。白い陶器の、可愛らしいビスクドール。姿形は、ただの人形に過ぎない。

 ただし、一点だけ、異様な風景が広がっていた──自分の周囲が、血に染まっていたのである。それだけではない。先ほどのあの音は、しっかりと肉を潰した音だった。自分の足下にある、明らかに無機質なはずのビスクドール。潰した場所から波状に広がるひび割れには、明らかに異質であるはずの、真っ赤な血と肉がはみ出していたのだ。

 だが、不思議と恐怖は沸かなかった。明らかに非現実的なせいだろうか、臓物が足に絡み付いていてても、全く不快感はなかった。ただ、疑問だけが残る。


(なん──なの?)


 草むら。うんざりするような森の木々たち。それらが、視界を埋め尽くしているはずだった。ついさっきまでは。

 前方には、小さな小屋が見える。延々と続く、緑の草原。むせるような、太陽の光。そして、不釣り合いに降り積もる、雪。ここにはないはずの景色が、自分の目の前に広がっている。

 彼女は、その小屋へと近付いていった。

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