第19話

1月2日 1時20分…


札幌のホテルの部屋で…

ベッドの時計の針は既に深夜を指していた…



3時間前の事…


俺は荒山さんの家に札幌のホテルに泊まり、

朝方に戻る電話をしていた。


俊一郎「なるほど、君も思い切った一面があったようだ…

大悟さんから聞いたよ、式を挙げる時はいつでも言ってくれ」


優吾「ええ、彼女が卒業してから挙げようかと思います」


俊一郎「…何か困った事があれば遠慮せず相談してくれ。

ふふっ、生まれてくる孫が楽しみでしょうがないよ。

店は4日に開けるから気にしないでゆっくりしていきなさい」


優吾「ありがとうございます」



俊一郎「君のパートナーに代ってくれないかな?

香奈や俊美さん、それに大悟さんが話しておきたいことがあるんだ」


優吾「わかりました」


俺は隣にいる優子にスマホを渡す。


優吾「俊一郎さんから話がしたいって…出てくれるかな?」


優子「もちろんですよ、あ・な・た♪」


夫婦になるんだなってことを実感する言葉だった…

そして、スマホで色々と話す優子を一人にし、

俺はシャワー室に行った。


スマホを切ってこちらを見た彼女は

とても綺麗で可愛かった…


優子「あ、あのっ、優吾さん…

私…実は、こういう事って…初めてなんで…」


優吾「俺もだよ、まだ君は学生なんだし、

大人になってから子供は作るよ」


優子「優吾さんも学生じゃないですか~」


優吾「あと三か月すれば…ネクタイを毎日締めることになる…

君が卒業するまでは子供は作らない」


優子「それはちょい、複雑ですよ…

もっとロマンチックな言葉を期待してたのにな~」


優吾「すまない…」


優子はちょっと顔が赤かった…

ベッドのシーツでで体を隠し、俺を見ている…


優吾「どうかした?」


優子「い、いえ…優吾さんって、

綺麗な体しててたくましい肉付きだなぁ~って…

細マッチョ?」


優子はモジモジとしている…

そして遠慮がちな感じで言った…


優子「さ、さわってもいいですか?」


優吾「ちょっと恥ずかしいね」


肌の腹や胸の辺りを

小さくて繊細そうな手でサワサワと

優子は触って、マジマジと見ていた…


優子「うわー。凄い…やだっ、私どうしよう…ドキドキしてきた」


優吾「今日無理ならやめておこうか?」


優子「そういう意地悪無しですよ。

プロポーション自信ないですけど…み、見ます?

恥ずかしいので後ろ向いていてくださいね…

バスタオルも巻きたいんで…」



優吾「飲み物でも取ってくるよ」


料金式の冷蔵庫を開けるために財布を取り出すと…

財布から何か出てきた…


大平からのメモだった…


優吾「いつの間に…」



~優吾へ~


お前ならきっと恋人を見つけて、

これを使うだろうと俺は確信してた。

まだ俺たちは大学生なんだから、

俺の行為に圧倒的感謝だろ?

上手くやれよ。


お前の恋のキューピットより



何とも言えない内容のメモ紙と…

アレが入っていた…



優吾(上手くって…あいつ経験者なのか…?

というか…人のサイフに勝手にねじ込むな…)


少し意外だった…


でも良かった、ホテルにもアレはあったが、

イボイボの変な物ばかりだったので、

妙な安心があった…


優子の着替えが終わったと声がかかり、


二人で見つめ合う…


優吾「…」


優子「あの、やっぱスタイル悪いですか?」


優吾「いや…見とれてた…綺麗な体してたから」


優子「へっ!…え、ええっ!あ、そんな…」


優子は俯いて顔をカァーと真っ赤にしていた…


優吾「優子さん」


優子「は、はいっ!」


優子はビクッと体を震わせ、こっちを頬を染めた顔色で見ていた…


俺は近づいて、手を優子の腰に回した…


優子「ひゃう!えっ!あ、あのっ…」


優吾「一生大切にします。愛している…」


優子「……はいっ…」


優子は俺を見て…

屈託のない笑顔で目から雫が垂れていた…


それがたまらなく愛おしかった…


俺達は今日で六度目のキスをした…


そのまま体を重ねた…




深夜二時…


ダブルベッドで俺たちは手を握って…

二度目の風呂の影響で

眠気が来ていた…


優子「明日なんですよね…帰る日って…」


優吾「必ず時間が空いた時は戻ってくるよ…

それまで、指輪を大事にしてほしい…」


優子「はい…東京かぁ…私馴染めるかなぁ…」


優吾「東京に本社はあるけど、

二年後に希望すれば支社にも転勤できるから大丈夫。

函館支社もあるから、卒業する頃には戻るよ」


優子「無理してません?別に東京でも私大丈夫ですから…」


優吾「大丈夫、説明会でも勤務先の事は聞いていたし、

二年後には希望すれば転勤できるから…」


優子「いい会社なんですね…」


優吾「帰りは遅めだけどね…寂しい想いをさせてしまうけど、

休日は君とずっといるようにしたい。

我儘かもしれないけど…」


優子はベッドから顔を近づけてニコッと笑った…


優子「そういう我儘は大歓迎です♪」


何度目のキスだろうか…

唇が重なり合う…




夢を見ていた…


霧の中に薫が立っている…


俺は優子の手を握り。薫を見ていた…


薫は悲しそうな、けれど笑顔で俺を見ていた…



薫は離れていき…

箱舟に乗っていた…


流れていく薫は遠ざかり…


俺は追うこともせずに優子の手を握り、その光景をただ見ていた…


胸にチリッっとした痛みが広がった…

何の痛みか解らなかった…


この痛みは何なのだろう?

薫への罪悪感なのだろうか?


深い霧はやがて遠ざかる薫を包み込み…

白霧の中に消えていった…



昼になり…

二人で荒山さんの家に車を進める…


明日で帰る日…


この里帰りで短いけれど、色々なことがあった…


全部が全部良い事とは言えないけれど…


色んな人がいた…

俺に対して色んな想いがあった…


薫への止まっていた時間が動いた気がした…


俺はこの日々を決して忘れない…


北海道の冬の思い出を…

絶対に忘れない…


思い出を決して片付けたりはしない…


俺はこの北海道の日々を最高の時だと、

胸を張れる…


ここで待っている大切な人たちがいるから…


何よりも俺の愛した可愛い恋人がそばにいるから…



家に着いた時に、

彰美ちゃんが外に出る準備をしていて、


俺に一言告げて、友達の家に遊びに行った…


彰美「優吾さん、優子さんと幸せにならないと許しませんよ。

妹として時々見に来ますからね」


妹に戻れて、少し安心した…


泣き虫だった頃に比べると…

大人になったな…っと

妹の背中を見て、俺は思った…


将来、彰美ちゃんはきっと素敵な女性になるだろう…


俺は彼女の結婚式を思い浮かべ…


幸せになってほしいと願った…


家に入り…


俊一郎さんと香奈さんに挨拶をする…


香奈さんと俊一郎さんは優子さんが居間で楽しく話していて…

俺も同席して談笑に加わり…

優子の両親にいずれ挨拶することを緊張していた…


大平は大学のサークル仲間に、

お土産買いに行く予定と、

オンラインの写真サークルのイベントと飲み会があるらしく…

夜まで帰らないそうだ…


夕方まで話して…


俺は寄るところがあると言って、

車を使ってもいいか俊一郎さんに聞いた。


俊一郎「そうだね、彼女にも伝えなきゃいけないね…」


香奈「大丈夫よ、あの子は優しいから二人の幸せを願っているわ」


優子「私も行きます…」


優吾「それでは…夜には帰ります」


そう言い残し…

2人で車に乗って…その場所に向かう…




薫の墓の前で俺たちは花束を添えた…



後ろから聞きなれた声がした…


大悟「来ていたのか」



優吾「はい…新しい愛を持ったとはいえ

過去を忘れたわけではありません」



優子さんは大悟さんの前で頭を下げた…


大悟「…そうか…これからまた来る日があるというのか?」


優吾「ええ…薫は今でも大切な人です。

だからこそ今いる大切な人と幸せになり、



優吾「薫に俺たちの幸せを渡したいんです。

そして伝えます…

薫の事を忘れずに優子を幸せにして見せる。

だから安心してほしい…絶対に失わないと」


大悟さんは遠い目をしていた…


大悟「素晴らしい選択だ…

ワシの見つけられなかった道を君は進んでいるな…

薫も幸せ者だ…よかった君が薫を愛してくれて…」


優吾「ありがとうございます」


大悟「さあ、行きなさい…

若い二人がいつまでもここにいてはいけない。

薫の事を想うのならなおさらだ…」


俺達は一礼し、静かにその場を後にした…



俺は優子の家にお邪魔していた…


最後の日ぐらい…二人で一緒にいたかったからだ…


優子の料理中にスマホで

謙三さんと一足先に別れの挨拶をした…


謙三「そうか…明日か寂しくなるな…

妻からは俺が言っておく」


優吾「すいませんお忙しい中…

もっと色々とお話がしたかったです」


謙三「まぁ、公務で新年会にも出れないのは、

毎度のことだしな。

それにこの時期は犯罪も多い時期だ…

最後に顔を見れないのは残念だが、

声が聞けて何よりだ。

また来るといい歓迎するぞ」



優吾「はい、ありがとうございました」


通話が終わり、

俺は優子の作った料理で夫婦の一時を味わっていた…


一足早い夫婦のような食卓…


それだけでも俺は幸せだった…


帰るのはだいぶ遅くになってしまったが…


最後に別れのキスをした…

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