第18話

うっすらと黄昏れていく空の下…

新年の公道は渋滞していた…


優子さんからのメールの場所へ行くために、

俺はジムニーでゆっくりと進む車の群れと同化する…


メールがすぐに来たことは意外だった…


友達と札幌のライブハウスにいるらしい…

何でも新年の大学生同士のライブイベントらしく…

彼女も参加しているらしい…

今は準備中で、

ライブが終わるのは夜の十時位だそうだ…


今になって薫が死んだことを

受け入れられなかった自分がいたかもしれない…



昔…エジプトで魂は不滅だという一説があったが…

死んだ者は生き返らない…

肉体が無ければ…心が無ければ、同じことだから…


死はとても簡素だ…喪失も欠落も、実感してくるのはずっと後だ。


薫が死んでから…4年…

俺にとっては、完全に忘れ去るにはまだ短く…

悲しみを引きずるには長過ぎた時間だった…


長く待たされながらも進む車道で…


そんな事を考えていた…


札幌に着く前に雪が降っていた…


雪…堂々巡りのワイパーが必死に抵抗する

道の先は白くぼやけて見えにくい…

まるで暗示してるような俺の未来…

そう言いたげな視界だった…


だけど…

求めていた人は今進んでいる道にある…

俺の未来は死なない…


そう自分の望んだ未来を願うのは俺の最高の贅沢だ…


新雪の彼方…掴むのはいつかの蜃気楼じゃない…


俺の…二度目の恋人なんだ…


前の車が進んだ…



雪が降る中…俺は札幌に着き…


ライブハウスの通過点である…

さっぽろイルミネーションを歩いていた…


もうライブは終わっているのだろうか?

時間は十時ちょうどを指している…


イルミネーションを歩く中…

向いている方向に…

優子さんが…いた…


目立つ場所に来てから、

待ち合わせ場所のメールを送るつもりだったのか…?


ここに来たのは偶然なのだろうか?


隣にも優子さんの友人がいる…

見た顔だった…


麻帆「優吾君?優子の言ってた人ってまさか?」


佳穂と同じ大学で友人の麻帆さんだった…


優子「バンドの交流で知り合った友達なんだ…

麻帆ちゃんの大学と他の大学で四つのコラボライブだったの」


優子さんが屈託のない笑顔で俺に向かってそう言い、近づく…


優子「またここで会えたんだね…さよならって言ったのにね…」


優子さんはちょっとだけ目が潤んでいた…


優吾「さよならなんて言葉、

今まで一度もうまく言えたことが無いんだ…

だから…きっと…また会える…そうだろ?」


優子「わたしもっすよ…」


麻帆「お邪魔みたいだね…

優子、ライブの打ち上げは私らでやっとくよ」


優子「うん…ごめんね」


麻帆「優吾君、君が優子の憧れの人だったなんて知らなかった。

優子の話は聞くけど、君の名前は出さなかったから…

佳穂と優子は知り合いじゃなかったけど…

スキーの後で二人の話題が同じだったから、

そこで気が付いたんだ…そうかー、そうだったんだ」


麻帆さんは何か納得したようで…


麻帆「優吾君、私も意外と本気だったよ…

でも、優子は良い子だよ。

幸せにしてよ…じゃあね♪」



そういって彼女はライブハウスの方に歩いて行った…



優吾「大事な話があるんだ。静かな場所でいいかな?」


優子「それならいい場所があるっすよ。

今日は空いてると思うから…」


優子さんは俺の手を握り、その静かな場所へと歩いて行った…


さっぽろの夜の氷の教会…


ここは氷で出来た教会だ…


札幌の名所の一つで…ここで結婚式を挙げる人たちもいる…


誰もいない中で俺は優子さんをまっすぐ見た…


優吾「俺はもう迷わないよ。

君が俺に告白したように…

今度は俺が君に告白する…」


俺はペンダントを外し、中から指輪を取り出した…


優子「その指輪は?」


優吾「薫に渡すべきものだった…

でも、薫はもういない…

だけど、俺は君に付けてもらいたい」



優子「どうして私を選んだんですか?

薫さんの気持ちもありながら…」


優吾「君は優子で薫じゃない。

薫の墓で会った時…

君は俺に過去にあったことを隠していた。 

それは薫の前で、

そういう話をしたくない気持ちもあったかもしれない」


優子「………」


俺は言葉を続ける…


優吾「俺の影響でバンドもやり…

あの時の薫を失った俺の気持ちがわかっていたから、 

卒業しても隠していた。

謙三さんから聞いていたよ…

薫の墓に時々来てくれたこと…

そして、君をスキーの帰りから家に送った時に

君は打ち明けてくれた」


指輪を優子さん…優子の手にのせた…


優吾「俺が薫のことで悩んでいたのが、

わかっていたから…

君は俺以上に悩んでいたし、

あの時、勇気をもって…

自分の気持ちを俺に渡してくれた」


優子さんは目から涙が零れていた…


優吾「泣かないでくれ…大事な言葉を言っていない…」



優子「だ、だって…嬉しくて、私…」


優吾「長い間待たせた…

その分必ず幸せにする。

俺は君のそばにいたい。

お互いの想いを大切にしたい。

それが薫の望むこと、

そして何より、俺が欲しくてたまらない事だから…」


優子「ふぇ…ちょ、ちょっと待ってください…

涙とまんないっす…タ、タイム…」


優吾「ここで待ったら、

君は離れていく気がする…

もう離したくない…失いたくない…

君が好きだ…愛している…

薫の事も忘れずに…

薫以上に優子さんを愛したい…

俺の気持ち…受け取ってください」


優子「はい…一生大切にします…」



告白は俺たちのstartlineスタートライン…

幸せへの確かな手応えが味わえるsuccessWordサクセスワード…

それまでは俺たち誰もが子供だった…


前に進むことで精一杯で…進み続ければ、

目の前に一瞬一瞬の出来事が現れる…


現れた出来事を向き合って通過することで、

俺たちは大人になる…


大人になるには…

一人だけでも、二人でもなることが出来る…


だけど、俺はお前に告白して、

大人としてのstartlineスタートラインへ進みたい…


この気持ちは誰にも譲れない、俺への想いと誓い…


俺達は夜の氷の教会で口づけをした…


しょっぱい味がした…


俺も優子も涙を流していた…


優子「二人そろって泣き虫ですね…」


優吾「すまない…」


優子「もう一回してくれたら、許しますよー…んっ!」


俺は口を口でふさいだ…


薫…君の事も絶対に忘れない…


優子「せっかちで、甘えん坊さんっすね…」


優吾「可愛い子には甘えたくなるんだ…」


優子「そういう甘い事言う口はこうだっ♪」


三度目のキスは…甘くて優しい味がした…


薫…わかったよ…

俺はこの瞬間のために生まれてきたんだ…


幸せだ…本当に素敵な時間だ…


こんなに可愛い恋人がいるんだから…

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