第14話

俺は彰美ちゃんにキスされていた…


その行為は最初のお風呂の時よりも…積極的だった…


彰美「今ここで言わないと…

これから先、妹のままで優吾さんを東京に返してしまいそうで…

だから言います…好きです、兄としてでなく…男性として付き合ってください」


キスの後の告白だった…

血のつながらない…昔から一緒の妹に…


優吾「俺は…」


突然のことで言葉が浮かばない…


まさかここまで…大人しいからと思っていたが…


電気は消えていた…

薄暗い部屋のベッドの上で俺の上に跨る女の子…


服を脱ぎそうになったので慌てて言葉を作る…


優吾「……いつからなんだ…」


彰美「えっ?」


優吾「兄として見なくなったのは…」


彰美「…貴方が高校一年生になった時…」


そんなに前から…


体は密着し、顔に吐息がかかるほど近かった…


胸が当たっていた…

意外にも胸は大きかった…


着やせするタイプだったのかもしれない…


優吾「俺が君に優しかったからかい?

でもそれは妹として…愛情をもって接していたから…

たった一人の大切ないもう…」


言い終える前に口を塞がれた…

舌が入ってくる…


俺はされるがままだった…

空手をやっていて力もあるので…

二度目のキスは長かった…


理性が解けそうになる…

関係を壊したくない…



鍛えられた体は女性らしい柔らかさや丸みを残している…

それは服越しの感触から、俺の体に教えられる…


熱っぽくなった自分に薫の顔が浮かんだ…


薫はきっと誰かと一緒になることを…

俺に望んでいるだろう…


横田さん達のその言葉が浮かんだ…


でも駄目だ…そんな事出来ない…


たとえ薫がそうだとしても…俺は…


そう、これは薫の為じゃない…俺の我儘なんだ…


今ここで…こんなことをしたら…

続けたら…戻れない…


唇は奪われたが…薫への想いも奪われたくはない…

無駄になる…裏切ってしまう…


薫が泣いてしまう…記憶からも殺されてしまう…

俺自身の手で…守りたい…


薫をこれからも想うことがDestiny…

決められた自分自身の愛なんだ…


俺はなんとか体を起こして、

彰美ちゃんがベッドから落ちない様に

両肩を手で支えた…


体を少し離して、出来る限り落ち着いて、

目を見て話した…


お互い少し息が荒かった…

心臓がまだ激しくなっている…


彰美ちゃんは何かを期待している熱っぽい目を向けている…


優吾「時間がほしい…今すぐには応えられない…」


俺は彼女を傷つけずに薫と自分を守ることしか考えられなかった。


彰美「ずるいですよ、そんな…今すぐ答えてください」


遠まわしに言って通じるような状況でもなかった…

だから正直に言わざるを得なかった…


こんな時に気の利いた言葉が思い浮かばない…

自分が嫌になりそうだった…


優吾「…薫の事を考えてしまった」


俺が観念し、そう言った時だった…


彰美「っ…!」


パンッ!


何をされたか解らなかった…

頬が痛む…


痛みで解った…叩かれたのか…


平手打ちをした彼女の顔は涙を流していた…


黙って彼女は俺の胸に埋もれた…

すすり泣いていた…


彰美が泣くのは中学以来だ…


あれは空手の大会で負けた時に流した涙だったっけ…


あの時はお菓子を作ったり、

そばにいてやったりで立ち直らせたっけ…


俊一郎さんがいなかった時は…

大人しくて、よく泣いてばかりの子だったな…


もう泣かせることがないように…

血は繋がらないが…兄として支えていたな…


あの頃の事を思い出す…



俺が小学六年生の時だ…

まだ俊一郎さん達も日本に帰ってこなくて…


部屋で泣いている彰美を見て、

ランドセルを下ろさずに駆け付けたっけ…


優吾「彰美…なに泣いてるんだよ」


彰美「友達の家にいったら…お、お母さんがいたんだ…」


優吾「…」


彰美「お母さん…彰美…いないもん…

遠くにいるもん…帰ってこないよー」


優吾「泣くなよ。俺が一緒にいてやるからさ」


彰美「ほんとうに…嘘つかない」


優吾「もちろんだ、俺も母さん遠くにいるぞ」


彰美「さみしくないの?」


優吾「ばあちゃんや彰美やじいいちゃんがいるんだよ。

寂しくないよ、彰美を泣かせないからな。

泣いたら俺がなんとかしてやる。

だから泣きそうになったり、泣いたら俺呼べよ」


彰美「おにいちゃん…」


優吾「そうだ、今度泣き虫の彰美に友達紹介してやる。

寂しくない様にしてやるからな」


彰美「あじが…どう…」


優吾「あっ!だからまた泣くなよ!」



たしかあの後…薫を呼んで可愛がられて、

俺も彰美を明るくさせて…


彰美が中学に入ったら空手をして…

強い子になったと思った…


そんなことを考えながら…

彰美の肩を触る…


優吾「泣かせちゃったな…なんとかしてやりたいのに…」


彰美「………」


優吾「…すまない」


彰美「………」


彰美は無言でそのまま服に着替えて部屋に戻ってしまった…


少し時間が経った後に、周りの状況を確認する…

寝ている間に、いつの間にか上着を脱がされていたようだ…


黒のシャツからジャージを重ね着し、開いたままのドアを見る…


…大平がドアの外の廊下に投げ出されていた…


昌幸「zzz」


それでも寝ているのは過剰なアルコール摂取のおかげだろう…


こいつは狸寝入り出来るような器用な奴でもないし、

女子との部屋は離れているし、久一さん達の部屋は下の階だ…


彰美ちゃんがこのことを自分から言わない限り、

何もなかったことになる…


そう…戻るだけなんだ…家族に…


大平をベッドに運び、

部屋に設置してある小型冷蔵庫から飲み物を取り出した…


カーテンを開けて、

矩形の窓から切り抜かれた、真夜中の吹雪を見ながら…


冷えたカルピスソーダを飲む…

気持ちを落ち着かせなければ眠れなかった…


飲み終わり、布団に入り、

微睡む中で…無意識に言葉を出していた…


優吾「…薫…」



朝のニュースが居間で流れる…


北海道の顔も知らないマイナーな女性ニュースキャスターが、

ローカルニュースと政治のニュースを流す…


久一さんは野球のニュースで知り合いの選手のインタビューを見て、

笑っていた…相変わらずだな、後藤さんは…って楽しそうだった。


そして天気予報の時間になる。


キャスター「それでは予報士の陽ノ下さん、朝の天気を教えてください」


陽ノ下詩織ひのしたしおりと下に名前のある予報士が淡々と告げる。


詩織「はーい、こんにちはー、朝の天気をお伝えます。

今日の北海道は昨夜から昼まで吹雪が強い模様です。


吹雪により交通機関にも影響が出る恐れがあります。

時間に余裕を持って行動してください。

朝の出勤や運転にはご注意ください。


知らないままいつも通りに朝外に出ると猛吹雪で大変っ!

友達に噂されると恥ずかしいから、

もし朝外に出るなら防寒はしっかりと準備しましょうね!


車での運転は吹雪が弱くなる昼まで待った方がいいですよ。


今日も一日頑張ろうねっ!

以上、朝の天気でした」


泣きぼくろが付いたピンクのショートヘアーの予報士の笑顔で、

先ほどのニュースキャスターに切り替わり、

次のニュースが事務的に続けられる。


久一「昼まで部屋で待った方が良いね」


優吾「そうですね…昼過ぎに外に出て、そのまま帰りましょうか」


後輩の真由さんが聞いた。


真由「そういえば昌幸さんと彰美ちゃんはまだ寝ているんですかね?」


昌幸は深夜まで飲むと昼まで起きないことが多い。

こいつのせいで講義に送れそうになることが多いので、

そのことを伝えた…


優子さんの話では彰美ちゃんは…

部屋の小型冷蔵庫にある軽いもので朝食を済ませたようだった…


あれ以来部屋でゆっくりしている。


佳穂と優子がスクランブルエッグと炒めたほうれん草とベーコン、

蜂蜜とバターのかかったホットケーキと

アメリカンブレンドのコーヒーを

みんなに持ってきてくれた。


お礼を言って、朝食を済まして…ニュースを見ていた…


キャスター「では、次のニュースです。

人気ドラマ「ここがあの小娘のハウスね」の

主演女優である森川里奈もりかわりなさんが、

有名バンドグループ「インタールード」の

ボーカルの堀部秀次郎ほりべひでじろうさんと

結婚することを記者会見で正式発表しました」


ニュースを見ながら、

俺達は居間で談笑しながら吹雪が弱まるのを待った…



吹雪が弱まり、部屋から出た俺たちは駐車場まで着いた。


また暇が出来たら会おうと言って、

久一さん達とはそこで別れた。


まだ眠気の残る大平を板返却のために、

レンタルショップまで引っ張った。


優子さんと彰美を先にジムニーに乗せて…

すぐに戻ることを伝えた。


俺と距離を取って女性陣と話している彰美ちゃんが

少し気まずくて離れたい気持ちも残っていた…


レンタルショップで板を返し、

駐車場へ向かう中で大平が問いかけた…


昌幸「あんま元気ないけど、なんかあったのか?」


優吾「いや…別に…」


昌幸「ふーーーん」


優吾「なんだよ…」


昌幸「色々考えていてな…お前と同じように今は教えない」


そう言っている内に駐車場に戻り、車に乗った。


大平は助手席に乗り、

彰美ちゃんと優子さんは後ろの席に乗せて、

ジムニーのエンジンをかけた。


優吾「それじゃあ、優子さん、家の近くまで送るからね」


優子「はい、それでは車出しちゃって下さいー」


昌幸「いやー、吹雪とかあって泊りだったけど。楽しいスキーだった。

なぁ、優吾?」


優吾「……なんだ?」


昌幸「今度久一さんにサイン頼んでくれないか?

佳穂ちゃんの前だったから遠慮して言い出せなかった…」


優吾「お前が直接言えよ」


優子「ああ、そういえば、みんなで飲んでた時に、

私のスマホで撮影した写真ありますよ」


昌幸「おお、流石は優子ちゃん!アドレス教えるから写真送ってー」


優子「優吾さんに送りますから、優吾さんから貰ってください♪」


昌幸「ガード固過ぎクソワロタ」


優子「あはははっ!すいませんっ♪」


運転中そんな陽気なやり取りがあったが…

彰美ちゃんは黙っていることが多かった…


俺も昨夜のことを意識しないように運転に集中した…

優子さんも吹雪の運転の怖さを知っているので、

気を遣ってくれたみたいだった…


それがかえって黙ることの良い口実になった…

心の中でズキッと痛みがある気がした…

本当は違うという罪悪感からの痛みが…



車の中で運転し、後ろで話す二人を気にせずに…

朝より弱くなった吹雪の中を慎重に走る…


雪…堂々巡りのワイパーが必死に抵抗する

道の先は吹雪で遠くが白くかすんで見えにくい…

まるで暗示してるような俺の未来…

そう言いたげな…ぼやけた白い視界だった…



ようやく優子さんの家の近くの駐車場に停めた頃には、

昼の三時だった…


優子「あっ!優吾さん、荷物を家まで運んでくれませんか?

ちょっと疲れちゃって…近くなんですぐに着きますから…」


昌幸「行ってやれよ、俺まだ酔いがあるから…

あそこの自販機で温かいコーヒーでも飲んどくわ」


彰美ちゃんは何も言わず車の中でスマホをいじっている…


優吾「…ああ。わかった…」


優子「えへへっ♪申し訳ないっす♪」


優子さんのスキー板を車から出す前に…


服の中にあるペンダントの位置に手を当てる…


なんだか…嫌な胸騒ぎがした…

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