第5話
車を地下の駐車場に停め、
エレベーターで同窓会のメールに書いてある階まで上がる。
出会うのは四年ぶりだが、どんな顔をすればいいのか…
わからないままだった…
みんなも同じ…なんだろうか…
お互いあの時の事を含めた俺への…対応…
来てほしいと思い…俺を呼び…
どういう顔をすればいいのか…各々が判断して、今日という日に…
俺を昔と同じように懐かしんで…受け入れる…
誰かが欠けているという違和感を…知りながらも…過ごす時間…
そのことを知りながらも、どう対応していいか解らない俺…
押しつぶされそうな重圧感…
…同じように感じているのだろうか?
…初めてではないのに、慣れることない得体の知れない感情…
…底知れない不安という感情に…
しかし…俺たちが集まるのは…過去を振り返るためじゃない…
今でも変わらない俺たちの今を再確認する…誓いのSpotスポット…
ありのままの俺たちを…お互いに意識し合うためだ…
薫…俺は会場にいない君だって…あの日のままの姿を想い…意識している…
大切なのは…いないものを嘆くことじゃない…
俺の中で薫をその時の姿と今の俺を向き合わせ…再確認することだ…
そんなことを考えて、エレベーターのドアが開いた。
貸し切りの会場に俺は着く…
同窓会の張り紙がドアの近くに貼られている…
俺は後ろにいるはずのない薫に…背中を押されるように…ドアを開けた…
?「おおっ!遅かったな!みんなー!優吾来たぞー!」
みんな俺に集まり…駆け寄るやつもいた…
俺は話を交えながら、久しぶりに会った皆の近況などを色々聞いたりしていた…
女子の神山「ねえねえ優吾君!なんか昔よりずっとカッコよくなってない?
私の彼氏にもおしゃれとか教えてよー」
森田「やあ、優吾君。久しぶりだね…えっ?目のクマが酷いって?
ははっ、ゲーム会社勤めじゃ良くあることだよ…
今度の新作はウェイトレスとの恋愛物だからね…
童心に帰って作業していたら寝る時間が減ってしまってさ。
…ありがとう。頑張るよ」
吉田「よー優吾!来てたんなら俺の本屋よってけば良かったのによー。
レトリバーの銀次郎が大きくなったから、
お前が来たら喜んでたと思うぜ」
村井「久しぶりだね。えっ?あの雑誌読んでくれたのかい?
いやー、カードゲームの賞金の出る大会とはいえ
アマチュアも出ているところだから、まだまだだよ…
おもちゃ屋の彼女には悪いと思いつつも、
大学を卒業したら俺のおもちゃ屋を継げって彼女の親父さんに言われていて
…肩身の狭い思いをしているよ。
え?相変わらずだって?
おいおい、それじゃ僕がまるで遊んでばっかの男みたいじゃないか?」
沢木「おいおい、お前ら!
ビッグフレンド5のグリーンである優吾が気を遣ってるだろ?
質問攻めしてんなよ!
それと村井!お前彼女を泣かせんなよなー。
カードゲームが上手くても、女の扱いは下手糞どころの騒ぎじゃねーなー」
小室「あら、沢木君…いい年してバカなこと言ってるわね。
私がいつ、あなたに扱われたのかしら?
浮気だったら覚悟しときなさいよ」
沢木「お、おい!勘弁してくれよー。
浮気なんてしてないよー。
お、怒るなよー小室ちゃんー」
小室「知らないっ!」
小学校から一緒だった奴らが
沢木カップルの痴話喧嘩に笑い声をあげていた…
中学の同窓会だけど…
小学校のバカしてた頃の気持ちが戻ったような気がした…
北海道に初めて来た時の、小学校の頃の質門攻めと同じように…
あの日の繰り返しが…変化こそあれど、そこにあった…
周りの奴らと言葉を交わしながら…俺はひたすら思ってた…
みんな良い意味でも、悪い意味でも…変化はしていた…
だが、意味なんてない…意味は後からついてくるもの…先行する言葉じゃない…
みんな変わらず、いつまでも明るい仲間で…
この関係がいつまでも続けば良い…変わることない理想で…
そう思いながらも…
…ちっぽけな理想を語るほど…俺たちは子供じゃない…
変化は…あったんだ…
みんな、薫の事は話題には出さなかった…流れる言葉の中で…一言も…
それが…俺にとっては悲しくもあり…同情にも…思えた…
だけど、こいつらは昔と同じように楽しく俺に話しかけている…
俺自身は素直に居心地のいい時間に想えなかったんだ…
忘れ去られている薫が…触れることのないまま…成り立つ集まりが…
顔に出さずに…心の中では薫を抱きしめて泣いている俺が…
そこに確認されていた…
そんな喜びと悲しみが混じり合ったような…感情だった…
中学の時に知り合った奴らとも話を交えて、
バンドをしていた時のメンバーも俺を歓迎していた。
一段落ついて…俺はバイキングの盛り合わせの皿をテーブルに置いて、
椅子に一人腰かける…
そこに一人の女性が隣に座って、声をかける…
その顔は覚えている…中学からの薫の友人…
あの日の葬式で…
放心していた俺の近くで参列していたって荒山さんから聞いた…
藤宮佳穂ふじみやかほだった…
ポニーテールをしていても肩までかかるくらいのフワ毛は…相変わらずだった…
佳穂「久しぶりだね、優吾君。製薬会社に入るんだってね。おめでとう!」
優吾「ありがとう…
佳穂さんもここの国立図書館の係員として頑張るんだよね…凄いじゃないか…」
佳穂「吉田君達から聞いてたんだね…」
優吾「さっきね…スノーボードは続けているの?」
佳穂「ううん…オリンピックで競うプロの世界は厳しいし、
記録も伸びないことが多かったから…
中学から好きだった本に関わりたいなって思って、もう滑ってないよ」
そういうことに関して、切り替えの早い佳穂が少しだけ大人に見えた…
そうして、しばらく楽しい話が進んでいた…
佳穂「ベースは今も続けてるの?優吾君が弾いている時は、
輝いていて、ずっと続けてほしいって、思ってたから」
その言葉で、差出人不明だった荷物を思い出す…
あれはもしかして佳穂だったのかもしれない…
言わぬが花という言葉もあった…俺はそれを胸にしまい込んで、
続けていることを伝えた…
佳穂は嬉しそうだった…
佳穂「そうだよね!だって、かお…」
佳穂はそう言いかけて、口を閉じた…
俺には次の言葉が容易に想像出来て…
鈍感こそがこの世で最も醜悪な幸せだということを…
本能では…選べなかったんだ…
…薫、という言葉が解らないことに…
優吾「………」
そのワードは今の俺には辛すぎた…
鎖仕掛けの箱の中身は、俺の禁句という名の、俺の心を抉るナイフ…
その切れ味は…俺を生きたまま言葉を失う…生気を無くす、
殺し文句と言う名のデンジャラスナイフ…
俺は佳穂に言葉でナイフを取り出され
、胸を刺されたような気持ちになりかけた…
佳穂「あっ…あたし馬鹿だね…ゴメン」
優吾「…佳穂が気にすることはないよ…」
聞かなかったことにするのも…礼儀と呼べるものだろう…
だが…内容が内容だった…そんなことは…出来なかった…
佳穂「でもさ…やっぱり…」
優吾「………」
佳穂「ごめんね…なんか、あたし上手く言えないや…最低だね…あたし…」
そういうと、佳穂は悲しそうな顔をしていた…
免罪符にしか聞こえないような…謝罪の言葉…
ナイフの後に出来た、治らない傷口を抑えるように…
その言葉が被せられた…
親のケーキ屋で、たまに店番をする佳穂の笑顔も…
今夜はオーダーストップか…
空気が悪くなったのを取り戻すように…
佳穂が話題を変えて、大学のバンドサークルに今度来てほしい、
という話を持ち掛けた…
佳穂「ベースをもう一度聞いてみたいんだ…駄目…かな?」
バンド部の部室でも弾くことに抵抗を持つこともあまりなく…
引き受けることにした…
佳穂「ありがとう!部員も会いたがっていたんだ。
優吾君、ベースが上手いし、日時は後でメールで送るよ」
佳穂はそう言って…呼ばれていた女の子たちの輪に入っていった…
結局…その後も同窓会は盛り上がり…
俺は…ほんの少しだけ…楽しんでいた…
同窓会が終わった後…
酒屋の手伝いで二次会に行かないことを幹事に伝え…
高校の卒業式と同じように…別れを告げた…
俺たちが来ていた服は今はバラバラだけど…
あの時と同じように、
制服を着ていたような一体感がそこにあった気がした…
地下の駐車場からジムニーを出し…
道中でガソリンスタンドから給油し…港までジムニーを出した…
酒屋からは離れた塩の風が吹く、夜の海を肌で感じながら…
都会からは見ることの出来ない…
夜の星空を車の窓から身を乗り出して…見上げていた…
この港は…中学の頃に友人と釣りに行った時に来た港…
佳穂の言葉を忘れる…そんな逃避ではなく…同窓会の疲れを癒す…
自分のための落ち着く時間が欲しかった…
そんな気持ちで…俺は酒屋にまっすぐ帰らず…寄り道をした…
夜空の星が綺麗な夜…どこかで星が流れても…いつもの夜空…
流れ星があったとしても…
願いを捧げることが出来るだけでも…幸せだって…
高校二年の頃の薫は文化祭の夜のキャンプファイヤーを屋上から見て…
一緒に抜け出した俺に対して…夜空を見ながら薫はそう言ってた…
あの時と同じように思える夜空だった…
そう…夜空に数えきれない星があるのは…
捧げられた数えきれない願いを受け取るため…
俺は…何を…願うのか…恋人を心に宿し続ける、この夜に…
星の数だけ…人をひきつける…
輝く星々の中に薫の笑顔が浮かんだ…
けど…その願いは捧げても…叶えられない…
潮風に吹かれて、冷える肌を…
ペアのマフラーで触れ合うような…
あの温もりは…
世界中の星に願いを捧げても…受け取る星は…一つもないんだ…
今日の薫の墓の事を思い返し…薫に似ていた女性を見て…
心がかき乱されていたのかもしれない…
肌身離さずに持っていた、
服に隠れた指輪の入った大きめのペンダントを取り出して…
指輪に刻まれた Love of the eternity の文字を眺める…
それは永遠の愛という意味を持つ、薫に送るはずだった誓いの言葉…
宝石も付いていない安い指輪かもしれないが…
薫に内緒で高校時代に宝石店の友人から特別料金で予約した指輪…
遠出した太陽の眩しい夏に…
そいつと肩を並べて釣りを楽しんでいる中で…
夜空の星の代わりに頼んだ俺の願い…
そいつは二つ返事で…引き受けてくれた…
わずかに足りない分を頼んで半額にまでしてくれるって…
酒屋の手伝いで貰っていたお金と
仕送りだけの親父の金額を合わせて買った指輪だった…
そいつは羨ましがってた…本気で好きな奴に、
ここまで出来るお前が…今の太陽よりも眩しいと…
宝石店のおじさんと同伴の車で帰る中…
後ろで話を聞いていたおじさんは…
半額以下の値段で俺に指輪を譲ってくれた…
足りない残りの料金は…結婚式の出席で十分だよって言ってくれて…
親子そろって俺の幸せを願ってた…
向こうの返事は決まってるよ…って楽しそうに言っていた…
薫が返事をくれることに不安を持ちながら…
大人になって仕事に付いたら…
この指輪を渡そうと思って、刻むように頼んだ文字…
Love of the eternity…
皮肉にもその言葉の意味は永遠の愛を誓った、永遠の別れになったんだ…
薫を幸せにしたいと…真剣に想っていた…
文字を刻んだ指輪が完成したのは、俺が飛行機に乗る前日だった…
払った料金を戻さないまま…俺はそれを受け取ることにした…
楽しそうにしてた親子は、そんな俺を見て…辛そうな顔をしていた…
俺はそれを貰い…静かに感謝し…都会に飛んで行った…
指輪を入れるペンダントは、東京の変わった装飾店で買ったものだった…
俺は酒屋に戻る前に…ここで指輪を眺めて…
落ち着きを取り戻す時間を過ごした…
俊一郎さんに電話をして…ジムニーで戻ることにした…
北海道の雪の積もる寒い夜の公道を…
熱いエンジンのジムニーで静かに走らせた…
北海道…寒さが覆う…冷たい雪の世界で…熱いのは…
俺と薫の…Love of the eternity……
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