第3話

12月26日…北海道に来て2日目の朝…

昨日はあまり眠れなかった…



あの時…

バスタオルを巻いて入ってきた彰美に、

背を向けて薫の事を思い出しながら、

言葉を告げる。


優吾「君の事…大切な妹だと今でも思ってるから…その関係を壊したくない…」


彰美「………」


優吾「俺さ…まだ着いて間もないけど、

ここに戻ってきたとき、嬉しかったんだ。

みんな相変わらずで、

東京にいた時の少し寂しかった気持ちが今は無いから…」


彰美「ふーん、そっか…じゃあ、部屋戻るね。このことは忘れてね。

お母さんとか鋭いから優吾さんの動揺すぐにばれるよ。それじゃあね」


彰美は最後に言葉を残して、浴室のドアを開け、去って行った…


彰美「優吾さん、見ていて、未練がましいと思うよ。すごく可哀想に見える…」


優吾「………」


誰もいなくなった、浴室の中で、俺はひたすら思っていた…

この気持ちは何だろう…


彼女は俺のことを意識していた…

いつからなのだろう…

俺の事を優吾と恋人のように呼んだことで、俺は薫への罪悪感を感じた…


その後の家族歓迎会は大平と香奈さんが楽しく話し、

俊一郎さんはワインを飲んでは、俺や大平に楽しそうに話していた。


香奈さん、そんな夫を見て、

あなた…いつもより楽しそう、

息子が二人増えたみたいで嬉しいんだわって笑っていた。


香奈さんの料理の中に俺の好きな鮭のちゃんちゃん焼きや、

イカのポッポ焼きがあって…覚えていてくれたことに…優しさが出ていた…


あの後、彰美は妹として接してくれたが、

俺に話を振るわけでもなく聞き手に回ることが多かった。


そんな久しぶりの家族の食事風景と

ワインの飲みすぎで顔を赤くした友人を見ながら…

時計の針はいつのまにか十時をさしていた…



それぞれ食器を片付け、酔っぱらった大平を部屋に戻していく中で、

俊一郎さんが、今日はとても楽しい夕食だったよ、

おかえり優吾君、ってドアを閉める前に…

そんな言葉を…俺にくれた…


だけど俺は俊一郎さんの言葉よりも、

寝る前に成長した妹のプロポーションと甘い誘惑に葛藤した…


もしもの…ifの話は俺は嫌いだが…

あのまま俺が妹とのラインを越えていたら…どうなっていたのだろう…


家族でありながら…血は繋がらず、居候の身だった…

それを壊しかねない関係になっていく…


多分…新しい関係になったとしても、薫の名前を呼んだだろう…


未練がましい…そう思われても、俺は…薫の事が好きだ…

寝る前に彰美の言葉を思い出し、何故俺なのだろうと考えてしまった。



いつもより早く起きて、

大平を起こし、酒屋の手伝いをしていた。

居間で書類を見ていた俊一郎さんに挨拶し、酒蔵から荷物を店の前に運び、

ジムニーに配達する予定の荷物を載せる。


俊一郎「懐かしいな、こうやって手伝いを良くしてくれたっけ…

今は車の運転も出来るんだから助かるよ。免許取ってどのくらいだい?」


優吾「ちょうど二年くらいですかね」


俊一郎「そういえば車持っていたんだっけ?

雪道は滑りやすいから運転は気を付けてくれ、

私は店番をしているから困ったときは電話してくれ」


優吾「大丈夫ですよ…

この配達先の住所なら昔からのおじさんのお得意さんでしたし、

中学の時から一緒に乗っていた荷物運びの手伝いの時に道を覚えていますから…

帰郷の挨拶も兼ねて行って来ます」


大平「配達頑張れよー優吾ー。俺は店番するからさー」


俊一郎「いつもは店番は妻がして、

私が配達することが多いから助かるよ大平君…」


昌幸「昌幸でいいっすよ。

夕方になったら北海道の写真仲間と約束があるんで抜けちゃうんですけど、

いいですか?」


そう…こいつは夕方から

ネットの写真部のコミュニティの長い付き合いがあるオンフレ達と

出会う約束をしており、


夕日の風景を撮るイベントと商店街の旨いラーメン屋の食べ歩きで

帰りが遅くなる。

可愛い子がいるが、お前には教えないと、

食事の時に俺には対して興味のない話題を話していた。


俊一郎「かまわないよ、若いうちは楽しむものだ。

せっかく北海道に来たんだから観光をしなきゃ勿体ないからね。

出会いも恋愛も君の財産だからね…

若くて結構、時間は気にせず仲間たちと楽しんできてくれ」


昌幸「さっすが!俊一郎さん!話がわかるぜ!」


優吾「何が、さっすが!だよ…

遅くなりそうなら連絡入れるんだぞ。

俊一郎さんは仕事は俺たちに任せて休んでください」


俊一郎「それは頼もしい、

お言葉に甘えて熟成したワインでも味わうとするよ…

妻も朝から小説の執筆に熱が入っているようだしね」


優吾「それじゃあ行ってきます」


そういって俺はカーナビに住所を登録して、ジムニーを出した。


配達先のお得意様の客は俺を見て、

昔話や贈り物を渡したりで予想外に時間がかかった。


配達していた時に助手席に置いてあった布で包まれていた箱を

昼頃に駐車場に停めて開けた。


彰美ちゃんからのメモ紙だった…

「お昼になったら食べてください。残したらゆるさないよ」

と可愛らしい熊の絵が描かれた紙を見て、弁当箱を開けた。


ピンクのハートマークが描かれた華やかなお弁当だった。

車に乗る前に貰ったトマトジュースと一緒に食べることにした。


恋人の味ではなく、愛する妹の味として…俺は残さず食べた…


配達の途中、車を止めている時に

中学、高校時代の同級生に会い話すことがあった。


そういえば、中学の同窓会の約束があったことも

話を聞いている内に思い出した。


事前に来る前にメールを貰い、

参加の返信もしていたので、飛び入りと言うわけではなかった。


それに中学の同窓会と言っても、

ほとんどが小学校から高校までほとんど同じ顔ぶれだったので…

それは6年ぶりというよりは3年ぶりの再会だった…


仕事が終わる時間帯を教えて、

旅行する前日に貰った同窓会のメールの開催場所を確認し、

後から来るけどまた会おうっと言って、別れた。


一通り配達を終え、俊一郎さんにスーパーの駐車場の前で電話し、

宅配の終わりを報告する。


俊一郎「やっぱりみんな君が帰って来てくれて嬉しいみたいだ。

君も羽を伸ばして遅く帰ってもいいんだよ?」


優吾「はい…では、お言葉に甘えて、同窓会の後に帰ります。それでは…」


俊一郎さんの楽しそうな声を聞いて、

ゆっくりと家でワインを楽しんでいることに気が付き、

電話を切り終え、六時に始まる同窓会の前にスーパーである買い物を済ませた。


そのまま俺は同窓会の会場に行かずに、山道にジムニーを走らせた。

会うべき人が、そこにいたから…


車を停めて、俺は思い出す、始まりの日の事を…



雪の降る中、暖房の効いた教室に興味を示す視線が一人の少年に集中していた。

30代前半の女性の教師が口を開く…


?「はい、朝の朝礼でも聞いた通り、

今日からこの5年A組に入る榊さかき 優吾ゆうご君です。

優吾君、みんなの前で自己紹介してねー」


?「大樹おおきちゃーん、転校生怖がってるだろー。

いきなり自己紹介しろなんて言ったら学校来なくなるかもしれないだろー!」


大樹「こらこら、大樹先生にちゃんはやめなさい、ちゃんは!

ごめんなさいね、優吾君。騒がしい子たちだけど、」


自己紹介をして席に座る前に同じクラスの生徒から質問攻めにあった。


?「ねえねえ優吾君!東京から来たって校長先生が朝言ってたけど、

あそこおしゃれなお店がいっぱいあるんだよね?

週刊誌でしか見たことないんだー。

東京の子ってみんなあんなカッコしてるのー?」


?「東京の女の子ってレベル高いの?

俺清楚な感じの子が好みなんだけどさ、

写真とかあれば見せてくれない?

ボックリマンチョコと

俺の家で兄貴の持ってるエロいゲームやらせてあげるからさー!

そのゲームはなんとウェイトレスが脱ぐんだぜ!」


?「俺の隣が空いてるんだけど、そこ座れよー。

席の隣にペットがいるんだよー。

亀の万次郎と電次郎っていうさ。俺の代わりに育ててくんねー?

育ててくれたら、うち本屋だから漫画たくさん読ましてやるよー。

アメコミもあるぜー、ああ、日本語だから安心しなよ」


?「優吾君、カードゲームとかデュエル鉛筆やってる?

都会だと最新のやつとか早めに売られてるんでしょ?

持ってるなら教えてよ!俺らの軍団に入れてやるよー!」


?「おいおい、お前ら!優吾君は俺の近くの商店街の酒屋にいるんだぜ!

親父同士のあいさつで同じ商店街仲間の俺やサブや良彦よしひこや直和なおかずが知ってるんだからな!

つまり優吾君を入れた、俺ら五人は商店街のビッグフレンド5になるんだから、

話ならリーダーでレッドの俺を通して質問しろよなー!」


?「何が、俺を通してよ!バカ沢木さわき!」


沢木「うるせーよ!優等生気取りのバイオレンス小室こむろ!

今は優吾君にビッグフレンド5のフレンドグリーンになるための友情契約書を

ノートに書いてるんだから騒ぐなよな!

それと村井むらい!お前の軍団じゃなく、

俺らのフレンドになるんだから同盟結ばないと

優吾君と仲良くさせてやんねーぞ!」


大樹「こら!こら!こら!こら!君達ー!

そんな自分勝手に騒いでたら将来人間関係に問題が起こりますよー!

静かにしなさーい!優吾君困ってるでしょ?

吉田よしだ君、席も決まってないのに勝手に条件を入れて決めちゃいけません!損得だけの悲しい関係になりますよ!

沢木君!人を紙切れ一枚で有無を言わさず押し付けるのはよろしくありません!

相手の事を考えてあげなさい!

それと森田もりた君!

そのゲームの事は職員室で聞きますから後で来なさい!

君にはまだ早すぎます!あとで家庭訪問しますからね!」


?「大樹ちゃん、今日も大爆発でござるの巻~」


みんなが笑い声をあげて、クラスの雰囲気がわかった気がした…


楽しいクラスだったことは覚えてる…

最初はぎこちなくて家でも学校でも気を遣う日々だったけど…

小学校から高校を通していつの間にか多くの友達は出来ていた。


俺の座った席にいた隣の女の子が薫だった…


薫「あ…よ、よろしく…優吾…君…私、横田薫よこたかおるです…

これから一緒に仲良くなろうね」


優吾「うん、横田さん…これからよろしく…」


最初はよそよそしい挨拶だけで教科書とかノートを見せて、

帰り道も同じだったから、自然といろいろと話すことが多かった。

恥ずかしがっていた小学校の頃から時間が経つにつれ、

だんだん元気で明るく、可愛い子の顔を見せてくれた…


中学に入った頃には横田さんと言うと機嫌を悪くするので、薫になった…

小学校から一緒の周りの奴らはニヤニヤしてたっけ…


中学の時に俺の実の両親のことも荒山さんの電話で知り、

遊びに来た時に知ってしまった…

それから親の事になると気を遣うことも増えてきた。


実際俺は実の両親とは仲が悪いし、

大学時代は一人暮らしで新年に電話だけして、

実家に帰らないことが四年間で実際に起こっていた…

北海道に来た時も、実際は平静を保っていたが、

親の事が嫌いでしょうがなかった。

離れていて安心したことがあり、俺の自立心は子供の頃から芽生えていた…


薫はそんな俺を支えていてくれた…



昔の事を車の席で思い出しながら、

温くなった缶コーヒーを飲みながら…

駐車場越しのフロントガラスに映る町の雪景色を少しだけ目を細めて見ていた…


無意識に小さく口にした言葉は…そ

れから先の高校の告白を思い出した為だった…


優吾「どうして…あんな馬鹿なことを…」

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