最終話

 フェルナンデスの城下町に続く間は吹雪が酷く、視界がほとんど白かった。

 それでも進むと町らしき建物の集まりが見えてきたが、人の気配は感じられなかった。

 教会の建物のみに明かりがあり、そこに入ると人が20人ほどいた。

「こんな吹雪の中で旅人とは珍しいですね」

 神父らしき人に声をかけられる。

「凄い吹雪ですね。いつもこうなんですか?」

「いえ、太陽の神殿の火が消えてからずっとこの吹雪が続いているんです。あそこには魔物もいて近づけないので困っているのです。このままでは作物も育たないまま春を迎えられません」

「そういうことでしたら私が言って火を灯してきましょう」

 俺がそう言うと神父は火付け道具を用意しようとしたが、マントルの呪文があることを言うと道具を閉まった。

 さっそくフェルナンデスの町を後にして、太陽の神殿に向かった。

 寒い中で現れた魔物はスケルトンにスノーマンの群れだったが、縦横無尽に剣を振ると次々と倒れていった。

 鎧の効果もあってか打撃はあまり通らずに、楽に攻撃が出来たのは寒い中での不幸中の幸いだった。

 スケルトンもスノーマンも吹雪のせいかあまり襲って来なかった。

 そのおかげで太陽の神殿には楽々と辿り着くことが出来た。

 神殿の中は大きなしょくだい以外は何も置かれていなかった。

 俺はさっそくしょくだいにマントルの呪文を唱える。

「炎よ、炎よ!燃え盛れ!マントル!」

 そういうと太陽の神殿のしょくだいの火が灯った。

 吹雪は次第に弱まっていき、辺りは曇り空の銀世界だった。

 銀世界の中に氷の城が見えた。

 黒竜はあそこにいるだろう。

 俺はそこに向かった。



 扉は氷で閉まっていたのでマントルの呪文で壊した。

 城の中はデュラハン、スケルトン、アイスゴーレム、スノーマンが待ち構えていたがドラゴンキラーの連撃で難なく倒せた。

 自分がどこかで成長しているのが解った。

 武器のおかげではあるが戦闘に慣れのようなものが生まれていた。

 そして鎧から湧き上がる勇気がどんな困難をも打ち砕ける気がした。

 進んで行くと行き止まりの扉と目を引く宝箱があった。

 俺は宝箱を開くと紙切れを1枚見つける。

 紙切れにはこう書かれていた。

 罠にかかった愚か者。

 辺りを黒い霧が包み込む。

「しまった!」

 油断したと思ったら俺は深い睡魔に襲われた。



 俺はボカチカ王国の城の中にいた。

 そこには母さんや父さん、それに王様も臣下たちもいた。

「よくやった。魔竜すべてを封印してくれるとは思わなったぞ」

「おかえりミユキ。今日はミユキの好きなミートパスタにしましょうね」

「やはりお前は俺の息子だ。騎士としてどこに出しても恥じない男だ」

 みんなからの温かい言葉が送られる。

 俺はその言葉に孤独があったおかげで少しだけ安心できた。

 みんな顔がその時に竜の顔になった。

「グへへ!これから訪れる恐怖を前に楽しい夢を見せてやったぞ。グへへへへへ!」

 その言葉で俺の目は覚めた。



 目が覚めると吹き抜けの大広間にいた。

 パイプオルガンが何台も置ける高い天井と広さを持った場所だった。

 目の前には白竜の時に現れた魔術師風の黒いオーラを持った男がいた。

「フハハハハ!お前の無様な姿を見させてもらったぞ!楽しい夢はここまでだ。今度は苦痛に満ちた現実を見せてやろう」

 魔術師の男はそう言うと姿が見る見るうちに黒い竜へと姿を変えた。

「さあ、俺に殺されて甘い夢の中で滅びるがいい!」

 黒龍と俺の最後の戦いが始まった。

 黒龍は黒い火球をいくつも放つ。

 俺はレストとマントルを使いながら黒龍に近づき、何度も斬撃を与える。

 火球に直撃はしたが、鎧が威力をやわらげ幸い軽症で済んでいる。

「バカな!これほどの力を持つとは!貴様、まさか本当に紋章の騎士に?」

「絶望的な現実を見たのはあんたの方だったな!黒竜!」

「ほざけ!若造がぁ!」

 黒竜の火球が右往左往に飛び回る。

 俺はそれらに構わずにただ1点、黒竜の額に向かってドラゴンスレイヤーを一太刀だけ浴びせた。

 勝負はそこで決した。

「グルルル!私を倒したところでもうどうにもならん。黄龍がボカチカに向かって移動し始めたのだ。この大陸を呑み込むためにな。ウグッ、もうじき新しい世界が誕生するのだ。フハハハ…ハ…」

 黒竜は最後にそう言い残し、発行体となって自ら奪い取った琥珀色の宝玉に封じ込められた。

 これで宝玉には3つの紋章が刻まれた。

 その時、部屋に青い霧があふれてロゼが現れた。

「選ばれしものよ。紋章の騎士の生まれいずる場所であるボカチカ王国が危ない。私の転移魔法で残った黄竜の所まで連れて行くぞ」

 ロゼは今までと違った焦りの表情で俺を転移させた。



 気づけば宙を舞っていた。

 自動で向かっているのだろうか黒い雲の中から大きな黄色の竜が見える。

 隣にはロゼがいる。

 空中の下にはボカチカ王国が見える。

 黄色の竜が語りかける。

「よくここまでたどり着いたな。だがここまでだ…。この大陸そして世界がダークフォースに染まっていくのを見ているんだな。まずはボカチカから破壊する。そして琥珀の宝玉を持つお前をじっくりと嬲って殺し、宝玉の封印を解き、世界を我ら4竜の物にしてやろう」

「久しぶりだな黄竜」

 ロゼが黄色の竜に話しかける。

「貴様はこのロゼ大陸を作り、大陸の平和の女神などとたわけたことを言っていたロゼか…姿はそのままでも力は随分衰えたものだな。今度は私が紋章の騎士を導いたお前を封印してやろう…永遠にな」

 黄龍がそう言うと金色の火球がもの凄い速さでロゼに直撃した。

「ぐはぁあああ」

 ロゼはそのまま下の黒い雲にクッションになり、倒れてしまった。

 どうやら黒い雲は地面と同じ効果が魔力的な地形効果で出来上がっているようだ。

 ロゼは苦痛に満ちたかで口から酷く赤い血を流している。

「とんだ邪魔が入ってしまったな。次は貴様の番だ。紋章の戦士を気取った小僧」

 黄竜はそう言うと俺に向かって火球を放つ口を開いた。

「お前を倒し、人々の笑顔と光を取り戻す!いくぞ!」

 俺はドラゴンスレイヤーを構えて、空中を蹴り上げる。

 蹴った方向に体と方向が固定されて動くようだ。

 スピードが早すぎて反射神経が追い付かないが、そんなことを言っている場合ではなかった。

 黄竜の金色の火球は体をかすめるも威力は相当なものだった。

 今までの3竜とは比べ物にならない強さだった。

 俺は黄竜の顔面めがけてレストを唱える。

「高く高く飛び上がれ、レスト!」

 蹴った衝撃とレストの効果でスピードは2倍以上になり、黄竜の不意を突いた。

 黄竜の火球が体の半身をかすめる。

 凄まじい熱さと激痛だが、堪えて黄龍の頭にドラゴンキラーを突き刺した。

 黄竜は雄叫びを上げた。

 俺はそのままロゼのいる黒雲に倒れ込んだ。

 危険な賭けだったが、勝つにはこれしか考えられなかった。

「グギャアア!き、貴様らがいるかぎり…我らは滅びることは無い。我ら魔竜は貴様らの心の闇、グフッ…邪悪な心そのものだからだ…グバァ!…必ず復活してみせるぞ、必ずな…グワアアアアッー!」

 黄竜が発行体となって琥珀色の宝玉に封じ込まれる。

 4つの紋章が刻まれた宝玉と黒く焦げた紋章の騎士の鎧、そして地面に落ちて突き刺さったドラゴンスレイヤーがそこに残された。



 俺は地面にレストを唱えてロゼと共に着地した。

 レストは地面への落下を抑える効果があったのでこういう時にも役に立った。

「ゴホッ!とうとう封印したのだな」

 抱きかかえられたロゼは俺に弱々しい声でそう言った。

「ああ、終わったよ」

「悲しい事だが黄竜の言ったことは真実だ」

 ロゼは遠くを見つめるような青い瞳でそう言った。

「…人は気づかぬうちに邪悪な心を発散させているもの…それを吸収し人々に安らぎを与えているのが魔竜封印の宝玉だ。邪悪な心が宝玉のリミットを超えた時にそれが魔竜や魔物に変わる…私にはもう時間が無い、お前にこれを渡そう…」

 そういってロゼは俺に金色の紋章を渡した。

「その紋章はこの私の作ったロゼ大陸の平和を守り、新たな勇者を導き戦乱の世界を治める力を引き出させるのが役目…つまりお前に力を渡した今の私と同じことだ…」

 ロゼは俺を見て顔を上げて口づけをした。

「私はもう長く生き過ぎた…もう休ませて…くれ…」

 初めてのキスは血の味がした。

 そうしてロゼは光になって消えていった…。

 空を見上げると黒い雲が小さくなり、そして最後は跡形も無く消え去った。

 4つの紋章を入れた宝玉は輝きを無くし、まるで眠りにつくようだった。



 長く平和な日々が続いた…

 魔竜による暗黒の時代と呼ばれていた脅威があったことも人々は忘れていた。

 ある日の事…

 年をとったミユキは新たなる勇者が現れるその日まで長い眠りにつこうと決意し、人々の前から姿を消えていった…。

 紋章の騎士として地上に残りつつも、やがて憎しみが魔竜を生み出すのなら、あのロゼのように導く者になるためにこの大陸の守護神に…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔竜の宝玉と紋章の騎士 碧木ケンジ @aokikenji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ