第3話
サンチェスの宿屋で傷の癒えた俺は兵士に城まで連行され、サンチェス王と話をすることになった。
俺は自分がボカチカ王国から魔竜封印の旅をしていることをいうとサンチェス王は次に進むべき場所の関所の手紙を書いてくれた。
「緑竜を封印してくれたことは嬉しく思います。大したおもてなしは出来ませんが金貨500枚差し上げます」
サンチェス王は温かい表情で迎えてくれた。
「そんなには持てません。100枚あれば充分です」
俺はそういうと側近の兵士から金貨の入った袋を貰った。
「そういえば魔竜のことですが、なにやら南の方に怪しい光があったとかで町の者が噂にしています。もしかしたら魔竜が起こした現象かもしれません。こんな情報しか得られませんでした」
側近の大臣がそう言うと関所の手紙を渡す。
「わかりました。さっそく南のほうに向かおうと思います。ところで…」
「なんですかな?」
俺は大臣に気になることを尋ねた。
「いえ、ここらへんで金髪の青い目をしたローブを着ている女性を見かけませんでしたか?」
「いえ、そのような者はこの街でも見かけません。それほどの珍しい外見ならばすぐに目につくものですが…お力になれず、すみません。捜索隊でも出しましょうか?」
「い、いえ。そこまでなさらなくても大丈夫です。ありがとうございました、それでは」
俺はサンチェスの街の人々から歓声を浴びながら町を後にした。
魔竜封じの旅の事が王国から伝えられたのだろう。
苦しい戦いだったが、こういう人々の声が今の自分を強くする原動力かもしれない。
そう思うと胸を張って街を後に出来た。
サンチェスから南の関所に向かうまでは楽々と進めた。
おそらく緑竜の支配下にあった地域だけに魔物も激変したのだろう。
この平和な道が他の地域でも出来るように頑張らねばならない。
小鳥のさえずりの聞える緑の平原を歩きながら俺はそう思った。
※
関所を抜けるころには夕方になっていた。
関所の兵士から明日の朝にここを出て行けばいいと言われ、来客の休む宿舎に泊まらせてもらった。
途中でなぞなぞ好きな子供の相手をすることにもなった。
「ねーねー、お兄さん。なぞなぞしない?」
「ああ、いいぞ。俺に解ける謎であればな」
「よーし、それじゃあね。この中でお城のない村はどれでしょう?①ボカチカ②サンチェス③プロテーン。さあ、どれだ?」
少年は楽しそうな目で俺を見てくる。手には何かを持っている。
俺はとりあえず正解だと思う答えを言った。
「③のプロテーンだな。正解かな?」
「うん、当たり!じゃあこれ景品ね」
少年は青い小さな貝を渡した。
「これは何だい?」
「おじいちゃんが昔俺にくれた雨を呼び起こせるおまじないの貝だってさ。雨雲の貝って言うらしいんだ」
「そんな大事な物をクイズの景品にしていいのかい?返そうか?」
「いいよ。それよりお兄さんってあの紋章の騎士さんでしょ?俺サンチェスの町出身だからすぐに解ったよ。カッコいい鎧着ている人がそうだって!だから旅の役に立つかもしれないけどあげるよ!」
「ありがとう。大事にするよ。君みたいな少年たちが安心して暮らせる大陸にするために頑張るよ」
「期待してるぜ、兄ちゃん!おやすみ!」
少年はそう言うと宿舎のドアを閉めて出て行った。
俺も今は魔物のいない旅の1日に感謝して、そのまま寝た。
ボカチカにいる母は元気にしているだろうか?
おばあちゃんと2人で暮らしているが、旅が終わったら戻って騎士として働きながらまた暮らそう、そう願って俺は寝た。
※
朝になり、関所の兵士に見送られて俺は林道を抜けて行った。
進めば進むほど魔物の匂いが強くなっているのが解ってくる。
聞こえるのは獣声や不愉快なねっとりとした音だ。
ある程度歩くと青い霧が辺りをいつの間にか包み込んでいた。
目の前にローブを着た金髪の青い目をした女性が立っていた。
「君はあの時の」
「我が名はロゼ。お前にとってこれから先はもっと辛い旅になるだろう…。だがお前は選ばれたのだ。勇気をもって進めば、きっと道は開かれるはず」
ロゼと呼ばれた女性に俺は問いただす。
「待ってくれ!あんたはいったい何者なんだ!」
「また会おう、選ばれしものよ…」
俺がロゼに駆け付けるよりも早く彼女は霧に消えて姿を消してしまった。
「ロゼ…一体何者なんだ…」
青い霧が晴れるとそこは林道を出たばかりの岩山の多い道に戻っていた。
「お前がミユキとかいう紋章の騎士か?」
上から声が聞えた。
見上げると岩山のてっぺんに首のない騎士がいる。
デュラハンという魔物だ。
「何者だ!」
俺は首なし騎士のモンスターであるデュラハンに向かって叫ぶ。
「フフフ…俺は白竜様の騎士であるデュラハンのハワードだ。緑竜様を倒したと言う貴様の腕を試したくなって待ち構えていた。いざ勝負!」
「正々堂々とした魔物だな!いいだろう!かかってこい!」
ハワードが上から飛び降りて剣を構える。
デュラハンは首が無いのでアンデッドともいわれている。
心臓への攻撃はあまり意味をなさないだろう。
胴体を分断するように斬るしかない。
俺は盾を捨てて、両手で剣を握った。
「いくぞ!ミユキ!」
「うおぉぉぉ!」
剣戟がぶつかり合い火鉢が生まれる。
俺は上に斬りかかるとハワードは下から振り上げるように斬りかかり剣がぶつかる。
凄い力だ、力を緩めればこちらが斬られる。
「どうした!そんなものではないはずだ!」
首のない騎士がどこから声を出しているかはわからないがそういう声が聞こえる。
「はあぁぁぁ!」
俺は左側からフルスイングで思い切って切り伏せる。
「踏み込みが足りんっ!」
ハワードは左側から斬りつける。
お互いに剣がぶつかり、2人の剣が衝撃で跳ねる。
反動でお互いの体がよろけるも俺は何とか踏ん張り、もう1度右側からフルスイングの一撃を放つ。
確かな手応えでハワードの腹部に剣を入れることが出来た。
だが致命傷を与えた訳ではなかった。
ハワードは斬りこまれてもなお体勢を整えて、俺の右肩に突きを入れた。
右肩から鈍い痛みが走る。
「今のは効いたぞ!流石は白竜様が注意しろと言った男だ。だが、ここまでのようだな」
俺は無言で剣を構え直してハワードを睨みつけた。
「舐めるな、人間の力を舐めるなよ」
「ほう!騎士としての誇りは1流のようだな!いいだろう!私の剣をしゃぶれ!」
ハワードが再び構えると後ろから魔物の声が聞こえてくる。
「ギギギ。ハワード様、後は我らにお任せください」
ガーゴイルにゴブリンそれにリザードマン、ローパーの群れが俺の周りを囲んでいた。
このままではまずい、良いようにいたぶられてしまう。
「ならん!お前たち、私とミユキの決闘を邪魔するなら切り刻むぞ!」
「ギギギ。しかしハワード様、これは白竜様からの命令でございます。ミユキを見つけ次第殺せとの命令です」
「ええい!こんな不本意なまま決闘を終えるのは納得が出来ん!私は白竜様の元に戻り抗議する。ミユキ!生きていたら再び決闘の続きをしよう!いいな、この私を失望させるなよ!」
ハワードはそう言うとアンデッドの馬に乗って早々と去ってしまった。
周りには魔物の群れ、俺は右肩が痛んで腕が肩まで上がらない。
厳しい状況だ。
「ギギギ。ハワード様には悪いが、お前はここで死んでもらう。地獄で泣きわめくがいい」
「俺はまだ死ねない!この大陸の人々の為にも!」
俺は左手で剣を振るいながら呪文を唱えながら斬りつける。
「高く高く飛び上がれ、レスト!」
魔物の上を飛び上がり、剣を片手でしまう。
「炎よ、炎よ!燃え盛れ!マントル!」
下の魔物の絶叫の中で飛んでいるガーゴイルと殴り合う。
取っ組み合いの中でプロテーンの村で買ったナイフをガーゴイルの胸に突き立てた。
「ギヤヤヤー!」
ガーゴイルの悲鳴の中で陸に落下すると片手で剣を抜き、立ち上がる前に首をはねた。
戦いが終わり、頭からは落下した衝撃で血が出ていて、右肩は熱さを増して血が流れていた。
治療呪文をかけて痛みを和らげつつ、薬品を傷口に塗る。
その間に今度はリザードマンとワーウルフにオークが出てきた。
「ギギギ。逃がさん、お前だけは。白竜様の命令だ。とびきり残虐なやり方で殺してやる」
「死んで、死んでたまるか!」
俺は剣を構える。
敵は右側から回って狙ってくる。
俺が右肩を負傷したのを狙ってのことだろう。
俺は残った左手と蹴り、そしてレストの呪文で体勢を立て直しながら戦う。
呪文は1日にそう何度も唱えられるものではないので、長期戦は不利だった。
どのみち血が足りなければ貧血でこちらが殺されてしまうだろう。
短期決戦で倒すしかない。
2度目のレストでオークの頭を串刺しにし、マントルの呪文でワーウルフを焼き殺した。
リザードマンの火炎を鎧で耐えながら、オークから剣を抜き取り口にそのまま差し込む。
リザードマンは上に火を噴きながら倒れていった。
俺は剣を抜き取ると転がるように下り坂を降りていき、湖にそのままダイブした。
誰かに抱きかかえられた感覚がある。
髭の生えたバイキングメットをかぶった中年だった。
「大丈夫か?ワシの声が聞こえるか?ワシの姿がわかるな?聞こえんか?まずいな、意識が朦朧としておる。今治療してやろう」
助かったと思っていいのだろうか?俺の意識はそこで途絶えた。
※
気がついた時には民家のベッドで包帯を巻かれていた。
ドワーフの男から声をかけられる。
「おお!気がついたようじゃな。礼には及ばんて、命を助けた代わりに金貨から何枚か頂いて置くぞい。フォフォフォ!」
体が動きそうにもないので俺はここで1泊することにした。
「すまない、ドワーフのじいさん。ここで泊めてもらえないだろうか?金貨は出す」
「ええぞ、ええぞ。好きなだけ泊まるがよい。お主、荷物を見れば何やらただの1人旅でもなさそうじゃしのう」
このところ無茶な戦闘が多く、下手をすれば死んでいるような事態になるばかりだった。
いい加減落ち着いて戦えればいいのだが、落ち着いて戦って死んだら元も子もない。
怪我を直すついでにここで剣技の修行をして、初心に戻るべきか?
いや、そんな悠長なことも言っていられない。
こうしている間にも多くの人が魔物に殺されていくんだ。
「痛っ!」
「ほれほれ、無茶せずに横になりなさい。どれ、ドワーフ族の特製じゃがバタースープでも作ってやろう。フォフォフォ!」
俺はドワーフの爺さんの好意に甘えてその日は休むことにした。
こういう人の温かみは1人旅の俺にはありがたいものだった。
デュラハンのハワード…そしてロゼ、白竜との戦い…俺の前にはまだ多くの謎と決着がある。
それはいずれ解ることだろうし、解らないまま死なないように今は目の前の問題を解決しながら生き延びるしかない。
俺はドワーフ族のじゃがバタースープを食べて血液を作っていった。
「フォフォフォ!よく食べるのう。どれ、この鹿肉ステーキもご馳走してやろう。金貨5枚じゃぞ?町で仕入れたばかりだからのう」
「ドワーフのじいさん、この近くに町があるのか?」
「おお、あるとも。ここからさらに南に行くとスタスクの城下町へ行けるぞい。なんでも地割れが多く溶岩が出てくるとか町の噂であったのー。白竜とかいう悪い魔竜のせいかも知れぬな」
「じいさん、あんたも魔竜の噂は知っているんだな」
「わしはこれでも昔は紋章の騎士と一緒に人間同士の戦争に協力したこともあるしの。今はこうして人気のない場所に魔物を寄せ付けない神聖な泉の近くで古屋暮らしだがの。フォフォフォ!」
「………」
このドワーフのじいさんは紋章の騎士と縁があるんだな。
「お主も紋章の騎士と同じ使命を持っとるようじゃな」
「!?…気づいていたのか」
「フォフォフォ」
ドワーフのじいさんは笑いながらドアを閉めて薪を割りに行った。
俺がここに来たのも何かの縁かもしれない。
そう思って今日は夜の星空を見ながらゆっくりと傷をいやして眠った。
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