第4話

 朝になると傷も治まり、俺はドワーフの爺さんにいくつか質問をすることにした。

「じいさん、過去の紋章の騎士はどうやって魔竜を封じたんだ?」

 ドワーフのじいさんはお茶を飲みながら椅子に座り、ゆっくりと答えた。

「それについてはロゼの奴の方が知っていると思うぞい」

「ロゼを知っているんだな?あの女は何者なんだ?」

「それについてはあやつ自身がいずれ答えてくれることじゃ。紋章の騎士はお前さんと同じ普通の人間で地上に残ることを選んだだけじゃよ」

「地上に残る?それはどういうことだ?」

「お前さんには運が良ければ最後の最後でそういう選択をするときがくる。その時に考えたらええ、フォフォフォ」

「なんなんだ、結局わからないことは何も知らないのと一緒じゃないか」

「お前さんを見た時に解ったよ。奴と同じじゃ、ワシが言わんでええことしかない。今はゆっくり体を休めるのじゃな。ただの…」

 ドワーフのじいさんはここだけ真剣なまなざしで俺にこう言った。

「あやつは地上に残って人間に利用されこそしたが、幸せだったと思うぞい」

「俺にはわからないことだらけだよ」

「フォフォフォ。そうじゃお前さんの剣だがの、もうボロボロじゃったから新しい剣を使えばええ、紋章の騎士が使っていた剣じゃ」

 そういうと爺さんは俺の前に刃先の赤い大きな剣を出した。

「これは?」

「ドラゴンキラーと呼ばれる竜殺しの両手剣じゃ。あやつが大戦の中で使っていた剣での死んだ時にワシが貰うことになっていた。あやつとは仲が良かったからの。よく酒を飲むときはこれをあやつと思って一緒に飲んでたものじゃ」

「そんな大事な物を俺にくれるのか?」

「世界の危機じゃしの。斧でキコリ仕事をするドワーフのワシには似合わない物じゃ。フォフォフォ。もっともキコリで生計立てとるんじゃからドラゴンキラーよりもワシの斧の方がワシを救っているのかもしれんな、フォフォフォ」

 ドラゴンキラー…そんな凄い剣を貰ったからには意地でもドラゴンを封印しなくてはならない。

 俺は旅支度を整え、自分のいる位置がわかる精霊の地図を手に小屋を出た。

「行くのか?もう少しゆっくりでもいいんじゃが、あやつと同じで落ち着きのない所はそっくりじゃわい」

「すまない、じいさん。俺には紋章の騎士を継ぐ者として果たさなきゃならない仕事があるから…」

「解っておるわい、この大陸を…世界を救ってくれ。お前の様な若い者が世の中を引っ張るんじゃ。つまらんことで命を落とすなよ、フォフォフォ」

「じいさん、俺はミユキって言うんだ。名前を教えてくれ」

「ミユキよ。ワシは紋章の騎士サイゼルと共に小国同士の戦争に参加したドワーフのデュオじゃ、縁があればまた来い、その時は酒の相手でもしてやるわい。フォフォフォ」

 そういうとドワーフのデュオは小屋に入っていった。

 俺はそれを見届けると坂を上り、スタスクの城下町へ向かって歩いた。



 道中魔物の姿は見つからずに問題も無くスタスクの城下町に着いたが、町はどこか異様な空気を出していた。

 民家の中に兵士が大勢いるのだ。

「何があったんですか?」

 俺が兵士の一人に聞くと怯えたように兵士は答えた。

「じ、実は昨晩デュラハンが城を襲い、一日で占拠されてしまったのです。国王はなんとか民家に逃げ込むことは出来たのですが、臣下はまだ城の中で、兵士や親衛隊長が次々とデュラハンに殺されてしまって、死にたくなければ貢物を出せと脅迫しているのです」

「なんですって!それは大変だ。私が向かいましょう」

「見も知らぬ旅人のようですが、おやめになった方がいいです。殺されてしまいます」

 俺は兵士の言葉を最後まで聞かずにスタスク城に乗り込んだ。

 城の中は血の匂いで充満していた。

 階段を登れば上るほど匂いはキツイものへと変っていった。

 殺された兵士や臣下たちの死体の中で王座に座っているデュラハンが俺を見ていた。

「ここでこうしていればまたお前に会えると思っていたぞ!ミユキよ!以前の私と思うなよ、かかってこい!」

 相手はやはりデュラハンのハワードだった。

 俺はドラゴンキラーを構える。

「俺との戦いが望みならこんな事をしなくてもいいはずだ。何故こんな真似をした!お前からは騎士道を感じる奴だと思っていたが、どうやら俺の思い違いのようだな」

「白竜様からの命令であれば仕方のないこと。多少の犠牲はやむを得ない、我ら魔族の世の中となるのならこれもまた我が道よ」

「そうかよ、だったら最後くらいはお前の望みどうりに対決してやる」

「フフフ…そのために魔物はお前には手を出すなときつく言っておいたのだ。行くぞ!」

 俺とハワードが剣をぶつけ合う。

 俺は下からドラゴンキラーを振り上げる。

 ハワードは上から斬り下ろす。

 剣戟がぶつかる。

 そこからはお互い一歩も引かない剣のぶつかり合いだった。

 右に払えば左から剣がスイングし、左から払えば右にスイングする。

 だが、剣の腕は互角でも向こうの方が力負けしている。

 これがドラゴンキラーの威力なのだろうか、剣を振るうたびに自然と力が溢れていく。

 剣戟がぶつかり合い、お互い反動で体勢が崩れる。

(今だ!ここしかない!)

 俺は体勢を多少不安定でも、もう一度スイングした。

 一歩間違えれば攻撃を外して体勢を崩し、相手に反撃の機会を与える危険な賭けだ。

 だが俺は賭けに勝った。

 ハワードの体が真っ二つになったからだ。

「み、見事だ。外を見るがいい」

 ハワードがそう言うと俺は外の景色が赤みがかっているのに気がついた。

 ハワードが言葉を続ける。

「白竜様が地下から地割れを起こして溶岩を噴き出しているのだ。この城一帯はいずれ溶岩と炎で荒れ果てた魔族の地に生まれ変わるだろう。白竜様は地下深くにいる。決着をつけたくば地下へ行くがよい、もっとも行けたらの話だがな…ミユキ…貴様との決闘は良いもの…だった…ぞっ…」

 ハワードの体から白い煙が出る。デュラハンの鎧が砕かれ風化した。

 そこには砕け散った鎧の破片しか残されていなかった。

 俺は急いで溶岩の吹き出ている地割れの所まで走った。



「大変だー。地面から火が噴き出ている。このままでは町が危険にさらされる!何とかせねば!」

 走っていく中で王らしき者が兵士にそう呼びかける声が聞こえたが、振り返っている暇はない。本当に何とかしなければここら一帯の市民が皆死んでしまう。

 平原に出ると山沿いにある道が地割れを起こして、大地の割れ目から火が噴き出ていた。

(こんな時はどうすればいいんだ!)

 俺がそう焦っていると道具の入った袋から青く輝くものが見つかった。

 いつかの関所でクイズをした時の少年から貰った雨雲の貝だった。

 貝は輝きだし、手に取ると空が曇りだし、たちまち大雨が降った。

 雨のせいか火は静かになり、割れ目の先から洞窟らしき入り口を見つけることが出来た。

 この先におそらく白竜はいるだろう。

 地上から炎が消えた後に雨の降る中、俺は洞窟に入っていった。



 洞窟内部は炎がそこらにあふれ出ていて明るく、それにも増して熱さがあった。

 だが雨雲の貝の力のおかげがそれほど熱さは感じられず、進むことが出来た。

 プロテーンの村で貰った金粉を落としつつも、溶岩地帯に入る魔物と何度か戦闘を重ねる。

 ミノタウロスやバシリスク、リザードマン、ゴーレムと強敵が多くマントルの攻撃呪文はほとんど通じない。足を踏み外せば溶岩に一直線なのでレストを唱えながら戦う。

 ミノタウロスの斧を避けながら懐に斬撃を浴びせ、バシリスクの毒の液体を交わしながら剣戟を頭に浴びせ、ゴーレムを手足から砕いて溶岩で落とし、いつもより火炎の勢いが強いリザードマンを真っ二つに切り伏せながら進んで行った。

奥に行けば行くほど溶岩が強くあふれ出る場所になり、雨雲の貝の効果が無ければ脱水症状を起こしていたのかもしれない位に熱さがにじみ出ていた。

 落とした汗が地面にジュワっと水蒸気を作り出すのだから相当なものである。

 普通の人間であれば焦げて死んでいる。

 それだけに雨雲の貝は紐を通してネックレスのように付けた。

 鎧も若干溶けてはいるが体に影響がないのは貝のおかげだろう。

 かなり深くまで降りた時に竜の咆哮が聞こえた。

 おそらくこの先に白竜はいるのだろう。

 俺が吹き抜けの広間に入った時には恐ろしい姿がそこにあった。

「ほう、お前か。ワシの炎を消し去ったのは…」

 燃えるような溶岩に使った2つの頭を持った白い双竜がそこにいた。

(これが白竜か…)

 白竜は言葉を続ける。

「ハワードの奴がしくじりおったようじゃな。目をかけてやったのにのう」

「………」

 俺は静かに剣を構える。この熱い空間だ、レストで何秒持つか解らない空中戦になるだろう。

 白竜はまた言葉を続けた。

「お前には死んでもらうぞ。その貝を持ってうろつかれては困るからのう」

 そう言うと白竜は2つの口から火を噴きだした。

 それと同時に俺も呪文を唱える。

「高く高く飛び上がれ、レスト!」

 こうして俺と2つの首を持つ白竜の戦いは始まった。

 ドラゴンキラーがどれほどの威力を持つかはわからないが、今はベストを尽くすしかなかった。

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