第2話

 プロテーンの村にある宿屋から1泊した後に、俺は魔竜に関する情報収集をすることにした。

 プロテーンの村の人々から聞き集めた情報は直接的な情報は無かった。

 ここから少し歩いた先にある森の奥にある洞窟にポイズンリザードと呼ばれるここの魔物のボスがいて、村の作物を定期的に襲っていると言うことしかわからなかった。

 このポイズンリザードもきっと魔竜の手掛かりになるだろうと思い、俺はプロテーンの村人からポイズンリザードのアジトを教えてもらい、そこへ行くことにした。

 聞いた話ではダグと言うこの村の若者が先にポイズンリザードのアジトに向かったそうだ。急がなくてはならない。

 アジトはサンチェス城下町とプロテーンの村の中継地点にあるそうだ。

 俺は金貨で村の防具屋から鋼の盾を買い、道具屋で治療薬と食料を買い込んだ後にポイズンリザードのアジトへ向かった。

 プロテーンの村を出る時に自警団の戦士に声をかけられた。

「あんた、ポイズンリザードのアジトへ行くんだって?村中で噂になっているよ」

「ああ、ここら一帯を荒らし回っているからな。退治しなくてはいけないだろう」

「見たところボカチカ王国の騎士と見たが、違うかい?」

「そうだが?」

「そうか、村の話が確かなら魔竜退治をするらしいじゃないか。大したものは用意できないがこれを持っていけ」

 自警団の戦士はそう言うと俺に金粉の入った小袋を渡した。

「これは?」

「夜中に光る金苔だ。洞窟では迷うこともあるだろうが行く時にこれを巻いておけば帰る時の目印になる。ダグは俺の友人なんだ。見つけ出して村に戻してくれ、頼む」

「わざわざ、ありがとう。ポイズンリザードとダグの事は必ず何とかして見せる」

 俺は自警団の戦士に礼を言って、村を後にした。



 ポイズンリザードのアジトに近づけば近づくほど敵は数を増していった。

 ワーウルフにスライム、リザードマンにオークと休む間を入れずに襲い掛かってくる。

 一太刀浴びせては距離をとり、囲まれないように切りつけては離れていく。

「ポイズンリザードのアジトはすぐ近くなのか?答えろ!」

 俺がそう大声で言うと魔物たちは吠えるように言葉をかける。

「ギギギ。もう目と鼻の先だが、お前が死ぬのがもっと先のようだな。ポイズンリザード様はお前の様な奴を入れるなとのご命令だ。先に死んだあの村の若造の後を追うがいい!」

「先に死んだ若者?ダグのことか!許さんぞ!」

 俺はワーウルフのショートソードの攻撃を避けて、上から切りつける。

 飛びかかるスライムを盾で弾きながら火の魔法で焼き払った。

「炎よ、炎よ!燃え盛れ!マントル!」

「ピギャアア!」

 スライムの絶叫を聞きながら、襲い掛かるワーウルフとオーク、そして火炎を吹くリザードマンに立ち向かっていった。

 リザードマンをロングソードでフルスイングし、上半身を吹っ飛ばすと敵はもういなかった。

 背中にはオークのこん棒の打撃の跡とリザードマンの剣の傷、それにワーウルフのかみついた後やスライムのぶつかった後などで悲惨な物になっていた。

 俺はプロテーンの村で買った魔よけの聖水をあたりに振りかけ、治療薬を背中に塗りつつ、回復魔法をかける。

「グッ!ああっ…!」

 痛みのせいか思わず声が出たが虚しく森の中を響くだけだ。

 俺の痛みよりも今日明日と命を魔物の手によって落としていく人々の方が辛いだろう。

 そんなことを思っていると体に力が入った。

 こんなところで休んでばかりもいられないだろう。

 傷がいえると俺は再び剣を構えて森の中を歩いて行った。



 ポイズンリザードのいる大きな岩山の洞窟が見えると見張りの魔物が5,6匹現れた。

「ギギギ。何用だ?ここをポイズンリザード様の縄張りと知ってやってきたのか?」

「どうやらここが、アジトのようだな。入らせてもらうぞ」

「ギギギ。お前を地獄に入れてやる方が容易だという事を教えてやる」

 戦闘はあっさりと始まった。

 俺は横から切り伏せてリザードマンを吹っ飛ばす。

 ワーウルフも切りかかるが盾で防ぎ、そのまま突き飛ばす。

「炎よ、炎よ!燃え盛れ!マントル!」

 俺はそのまま倒れ込んだ魔物の群れに攻撃呪文を唱えてまとめて倒した。

「グギャアア!」

 魔物の断末魔の悲鳴を聞いて、洞窟からワーウルフ、リザードマン、ローパー、スケルトン、オークの一団が次々と現れてくる。

「ギギギ。人間が!生きて次の朝日を拝めると思うなよ!」

 俺は長い戦いになると覚悟を決めて静かに剣を構えた。



 俺は最後の1匹を切り伏せる。

「プギャアア!ま、まさか我々がこんな人間1匹にやられるとは!恐ろしい戦闘力の持ち主だ!ポイズンリザード様、どうか、こいつに裁きの鉄槌…を…」

 スケルトンの胴体が動かなくなるのを確認すると俺は壊れた盾の上に座り込む。

 体は魔物の返り血と自分の血が混ざって、体中が痛む。

 手には豆が出来ては潰れていた。

 一体何体の魔物を切り伏せたのだろう。

 体中に治癒薬を塗りつけて休憩をとる。

 今魔物に襲われれば深手を負うだろう。

 1度プロテーンの村に戻るべきだろうか?

 いや、そうも言っていられない。

 ここまで来れば今度はプロテーンの村の人々まで報復で殺されかねない。

 やるなら今しかないだろう。

 こういう時こそ敵を倒すことを考えて前向きに行くべきだ。

 俺は痛みが引くとすぐに洞窟の中に入っていった。

 プロテーンの村の自警団の戦士から貰った金粉を地面に落としつつ、薄暗い光の中を慎重に進んだ。

 どうやら洞窟の中には残っていた魔物はいないらしく道も単純なものだった。

 いくつかの行き止まりの道もあったが、迷うことなく進めた。

 奥からは大きな獣声が聞こえてくる。ポイズンリザードの声だろう。

 扉のある通路に着くと俺は金粉を閉まって扉を開けた。

 中は大きな吹き抜けになっていてそこら中に作物が並べられては食い散らかされていた。

 真ん中の玉座らしきものに大きなドラゴンがいた。

「キシャアア!人間か?最近よくここに人間が来るなぁ?」

 緑色のドラゴンは上から威嚇するように俺を見てそう言った。

「お前がポイズンリザードか?」

「ポイズンリザード?ああ、俺をそう呼ぶ奴もいるようだがその名前は好きではない!覚えておけ人間よ!俺の名は緑竜!魔竜の1人である緑竜様だ!」

 衝撃的な言葉を俺は聞いた。

 こいつが4匹の竜の1人である緑竜!

「そうか、会いたかったぞ!」

「ほう、わざわざこの緑竜に殺されるために会いに来たと言うのか?物好きな人間だな!」

「お前を封印するためにな!」

 俺の言葉を聞いて緑竜は首を長々と上げる。動揺しているのだろうか?

「お前…まさか紋章の騎士か?バカな!人間同士の愚かな大戦で死んだはずだ!」

「ああ、紋章の騎士は死んだが意思を継ぐ者は生きていたのさ!覚悟しろ」

 緑竜は口から頭蓋骨を吐き出した。おそらくプロテーン村のダグのものだろう。

「人間ごときが!紋章の騎士でないのならゴミも同然だ!この緑竜の前に消し炭となるが良いわ!」

 緑竜はそう言うと緑色の炎を口から吐き出す。

 俺は転がり込むように炎を避ける。

 盾は持っていないが役には立たないだろう。

 緑竜の炎を避けながら洞窟を転がり込む時間が続く。

 炎の時間はそう長く吐けないようだ。

 力がまだ戻っていないのかもしれない。

「我が炎を前にして根性のあるやつだ。その行動が無意味であるという事を地獄で後悔するがいい!」

 緑竜はそう言うと距離を詰めてくる。

 炎から逃げなくさせるために近づいてきたのだろう。

 このままではまずい!

「高く高く飛び上がれ、レスト!」

 俺は浮遊の呪文を唱えると緑竜の後ろ側に飛ぶ。

 このレストの呪文は一時的に飛ぶことのできる浮遊呪文だ。

 俺はそう長くは飛べないが不意打ちを着くには十分な時間だった。

「何っ!小僧ぅ!こざかしいマネを!」

「炎よ、炎よ!燃え盛れ!マントル!」

 俺は炎の呪文を緑竜の顔に浴びせる。

「キシャアア!目が!目がぁ!」

 緑竜が周りに炎をまき散らして暴れ割っている所に、俺は剣を落下に合わせて緑竜の首に斬りつけた。

「ぐはっ!何故だ!緑竜であるこの私が、こんな紋章の騎士でもない小僧にやられるとは!そんな馬鹿な私の体が崩れていく!ぐわああああ!」

 首を切り落とされた緑竜は発行体となって琥珀色の宝玉に吸い込まれるように入っていった。

「やったのか?体が重い」

 落下した衝撃と炎の温度で酸素も少なく風景がぼやける中でかろうじて勝つことが出来た。

 どうやら緑竜の炎には毒素も若干あるようだ。

 ポイズンリザードと呼ばれる理由が解るころには肺に吸い込まれた炎に交じった毒素で体がけいれんを起こしていた。

 このまま死ぬのだろうか?

 まだ1匹しか封印していないのに。

 意識を失う時に青い霧が体に包まれているのを最後の目で見た。



 気がつくと宿屋にいた。

「あなたやっと目が覚めたの?」

 村の娘だろうか?若い女性に体を起こされる。

「町の前で倒れているのを城の兵士の人に見つけられて運び込まれたんだよ!覚えていないの?」

 頭がはっきりしない。意識はあるが視界がまだぼやけている。

 頭の上から声が降りかかる。

「綺麗なローブを来た金髪の女の人が近くにいたって話だけど、あなたの知り合い?見かけないわよ」

 ようやく視界がはっきりしたので俺は言葉を告げる。

「すまない。ここはどこなんだ?」

「サンチェスの城下町よ。あなた10日も眠っていたんだからね。宿代は荷物の金貨から取っておきましたからね。あと治療もしておいたから、動けるんだったらもう宿を出て行った方が良いわよ。目が覚めたら城に連れてこいって王様に言われている兵士がずっといるのよ、いやになっちゃうわ!」

 どうやら俺は生きているようだ。

 ベッドの隣に置いてある宝玉にはドラゴンの紋章が1つ刻まれていた。

 封印にも成功したようだ。

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