魔竜の宝玉と紋章の騎士

碧木ケンジ

第1話

 ここはロゼ大陸の東部にある国の一つ。

 この国、いやこのロゼ大陸は今ある恐ろしい状況に置かれている。

 俺はその大陸にある1つの国の城の中にいる。

 そして俺は、このロゼ大陸の国の1つ東部を治めるボカチカ王国の王様の前に膝をついている。

「ミユキ殿よ、知っての通り今このロゼ大陸は闇の時代を迎えておる。それというのも紋章の騎士が封じていた4匹の魔竜が復活してしまったためじゃ」

 白髪で金の王冠を頭に付けた王様は力なくそう言った。

 眼にはかつての威厳のある眼光は感じられず、体は玉座にもたれかかっているように思えるほど弱々しかった。

「そなたはそれでも紋章の騎士に代って4匹の魔竜をすべて封じ込め、この世界を元の平和な時代に戻してくれると言うのか?」

 王の言葉に俺は答える。

「はい、もちろんです。必ずや魔竜を封印し、このロゼ大陸を平和な時代に戻すことを誓いましょう。私の父は20年前の人間同士の戦争で活躍した騎士でもあり、私もそんな父から剣技と多少の魔法を教わりました。必ずやご期待に添える結果を出します」

 周りの臣下と兵士たちが歓声を上げた。

 王は俺を見つめると顔から安堵と光のある表情に変わってこう言った。

「そなたの父デュランは勇敢な騎士であった。戦乱の中で竜を封印することを使命としていた紋章の騎士が亡くなったことは悲劇であったが、あのデュランの息子であるミユキ殿であれば必ずや宝玉に魔竜を封印してくれると信じているぞ!」

「お任せください」

「すまぬ、今はお前だけが頼りなのじゃ…情けない王を恨んでくれても構わない」

「心配しないでください王様。必ず成し遂げて見せます。それでは魔竜封印の宝玉を」

「うむ、解った。勇敢なる若者ミユキの無事を祈っておるぞ」

 そう言うと俺は王から琥珀色の宝玉と立派なロングソードに丈夫なプレートメイル、俺の下半身を隠せるほどの大きなシールドに銀の兜を貰った。

「自衛のために兵を出せぬが金貨も多めに渡しておくぞ。さ、ここで身に着けてくれ」

 王にそう言われ、俺は渡された防具と剣を身に着けて、立ち上がり金貨の入った袋を貰って、王の前で再び膝をついて顔を上げる。

「では、行ってまいります」

「うむ、この暗黒の曇り空を晴らしてくれることを願っておる」

 俺は多くの兵士と国の人々に見送られて城下町を出て行った。

 このロゼ大陸にいる4匹の魔竜を俺の持つ宝玉に封じ込める為に、俺は暗雲漂う空の下の平原を歩いて行く。

 最初に目指すべき場所はここから半日で着くプロテーンの村だ。


 ※


 ボカチカ王国の歓声を上げる声が聞こえなくなると魔物だらけの平原になった。

 魔竜の復活で魔物が空から出現していたことは知っていたが、数が多かった。

 道端には商人らしき男の死体が転がっていて、馬車には無残に殺された娘と犬や馬の死体だけが残されていた。

 彼らの簡単な葬儀を済ませる暇も無く、道中でリザードマンとオークの群れに出会った。

 リザードマンの1匹が俺を見てこう言った。

「ギギギ、人間がまだこんなところを歩いているとはな。緑竜様の貢物として首を持っていけば俺達にも良い思いが出来るぞ!ギギギ」

 驚いたことに魔物は人と同じ言葉を話すようだ。

 俺は驚きはしたものの負けじと言葉を返す。

「お前たちの好きにはさせない。死んでいった者の為にも人々の平和のためにもここでお前たちを倒す!」

 オークがこん棒を構えながら笑い出す。

「ゲヒヒ、人間ごときが大きく出たものだ。俺たちのこの数で勝てるものか!かかれ!」

 その言葉を合図に俺と魔物の群れとの戦いが始まった。

 俺は剣を振るって10数匹のオークとリザードマンの群れに立ち向かった。

 オークのこん棒を避け、横腹に剣を入れて倒す。

 リザードマンの火炎を鎧で防ぎ、正面から斬りかかった。

 2、3匹倒せば、また新たに1匹増えている。

 休めばこちらが死ぬのは明白だ。

 短い時間の中で集中力を切らさない長い時間が続いていた。

 王から貰った盾はリザードマンの火炎とオークの打撃により、次第に形が変形して一回り小さくなっていた。

 道の周りには血がべっとりと円を描くように広がっていた。

 最後の1匹に一太刀入れる。

「ギギギ!バカな!人間ごときに俺達が!お前の戦闘力…タダ者ではないな。だが、覚えておけ、最後に笑うのは俺達魔族だということ…に…」

 リザードマンが息だえて目に光が無くなったのを確認すると戦闘が終わったことを実感した。

 俺は肩で息を切らしながら、周りに敵がいないことを確認すると大きな岩を背にして座り込んだ。

「聖なる光よ我を守りたまえ!メダス!」

 俺は回復魔法を唱えると治療に専念した。

 回復魔法と言っても応急処置程度のもので完治するわけではない。

 あくまでも急ごしらえの治療だ。

 神官クラスになれば医学を超えた治癒魔法が使えると言うが、使える者はこのロゼ大陸でも数えるほどしかいないと言う。

 リザードマンの火炎で火傷が酷かったので、魔法で痛みを和らげる。

 一通り治療を済ませると立ち上がってプロテーンの村に向かって足を進めた。

 リザードマンの火炎が盾をあれほど変形させるとなると魔竜の炎はどれほどのものなのだろうか?

 はたして魔竜を相手に戦っていけるのだろうか?

 そう言った目に見えない不安もあったが、村に着いてから考えることにした。

 その時にふと周りが青い霧に包まれる。

「しまった!敵の奇襲か!くるならこい!」

 俺は剣を構えて意識を集中する。

 霧の中からローブを来た金色の髪の女性が出てきた。

 サキュパスの幻術だろうか?俺は用心しつつ構えを解かない。

「紋章の戦士の意思を継ぐ勇者よ、これから先はいくつもの困難が待ち受けるであろう。だが、忘れるな。そなたは決して1人で戦っているわけではない。そして必ずや魔竜を封印するものだと私は信じている。これより先の村で体を休めるが良い」

 青い瞳をした女性がそう告げると霧の中に消えていった。

 そして霧も同じように無くなっていき、気が付けばプロテーンの村の前にいた。

「何だったんだ、今のは?」

 俺がそう困惑していると、村の自警団の戦士に呼び止められた。

 俺が人間であることを証明するために兜を脱ぎ、話し合うと村に入れてくれた。

 宿に泊まり、今日の青い霧の中に出てきた女性を思い出しながら、眠りについた。

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