ラビットマジック
宮野朱夏
第1話
ぼくはひとりです。
ままはいつもいません。
それは大人だからです。
「良い子にしててね?」
大好きな手がいつもの様に
ぼくの頭を包みこみます。
「うん!おしごと頑張ってね!」
いつもの様に笑って言います。
ドアの音は嫌いです、ままの声を消すから。
机に上にはいつもご飯があります、ままが頑張って
作ってくれました。美味しいです。
でも、寂しいです
大好きな人参を口に入れます。
甘いから人参は好きです、お皿には3つあります。
箸を伸ばすとコツンと音がしました。
残っていたはずの人参がありません。
ここにはぼくしかいないはずなのに
机の下を覗いて見渡します。
すると、机の下で毛むくじゃらのお饅頭が
ぼくの人参をポリポリと食べているではありませんか。
大好きな人参をとられてぼくは頭にきました。
「それはぼくの人参だぞ。返せよ!」
声に驚いたのかお饅頭の首だけがぐりんとこっちを向き
目を見開いて見てきたのです。
びっくりして僕は椅子から落ちてしまいました。
「びっくりしたじゃないか…最近の子はすぐ大きな声を出すね」
ぼくはおしりを撫でつつ、お饅頭を見ました。
「おや?落ちたのかい?意外と臆病なんだね」
お饅頭からクスクスと笑い声が聞こえます。
このお饅頭のことが嫌いになりました。
「びっくりさせて悪かったよ。つい、いい匂いがしたからね」
今度は体ごとぼくの方に向け、長ったらしい耳を引きずりながら歩いてきました。
「…お饅頭さん喋れるの?」
「まぁね、これでも君よりは長く生きてるんだ」
ぼくの前に腰を下ろしています。まるでうさぎさんみたいな。座り方です。
「この家には君しかいないね。ままはどうしたんだい?」
「ままは大人だから、いないの」
お饅頭さんは不思議そうな顔して、時計を見ました。
「今21時だぜ?こんなに時間に出かけて行くのかい?」
「大人はおしごとしてるんだ。」
お饅頭さんは頭をかいて、何か思いついたような顔をして
ぼくの目の前に頭を出しました。
「君の叶えて欲しいことを現実にしてあげようか?」
ラビットマジック 宮野朱夏 @hinano_runa
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