第2話

友達がいないことは、なにも恥ずかしいことではない。

ただ運が悪かっただけである。巡り合わせの問題だ。


それでも、こうして布団に横になって天井を見上げたとき、昔のことを思い出して、少し心が痛い。


僕は影の薄い人間で、自分のことながら、自分と友達になろうという人間がいるとは到底思えないのだが。

高校のときに、ひとりだけ仲の良いヤツができた。

そいつは九条悠といって、どこか高貴な家の出身ですか?と思ったのだが、しかし完全に名前負けしているだけであった。

人気のあるヤツだった。つまるところ人気が出る人間というのは、僕のような根暗オタクでも気にかけてくれるということだ。

隣のクラスに、結城はるかという女子がいたのだが、九条はいたくソイツを気にしているようであった。

「なあ九条、結城ってさ、可愛いか?」

「顔の造形の問題じゃない、あいつは本当に明るくて心が綺麗で……」

「あー……そう」

結城のこととなると目の前が全く見えなくなるようで、いつもこんな会話をしていたと思う。


結城は九条の話にきくとおり、明るくて心の綺麗なヤツだった。

「ね、藤咲、教科書貸してよ!次現国なんだけど、また忘れちゃった!」

僕と結城は、こんな風にお互い忘れたものを貸し借りするような仲だった。

いつの間にか結城は僕を指名し、教科書やら辞書やらを借りていき、次の休み時間に一粒の飴とともに返却しにくる。

そんな毎日。


そろそろお分かりになるかと思うが、僕は九条と結城の仲を応援し、九条は結城を気にかけ、結城は僕を気にかけていた。

九条との友情は続かなかった。果たしてそれは友情があったのかすらわからない、男女の痴情のもつれでなくなる友情など、友情とは呼べない。


そう思っていても、僕は悔しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未定 さのす @sanosu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ