ステキな建築家
水鳶
第1話 出逢い
都会の空は狭い。
圧迫感のある高いビルに囲まれて、その間で窮屈そうに身を細めている。
そして長い。
道が見たこともないぐらい広く、それがまた長さを際立てている。
そんな空を見上げて哀れむ若者が、キャリーバッグを片手に、横断歩道で立ち止まった。
「これが都会……」
周りを行き交う人の視線が気にならないのか、暫く立ち止まっていたが、信号が点滅する直前に移動を再開した。
横断歩道を渡りきり、スマホの地図アプリで行き先を確認する。
徒歩40分。
時間には余裕がある若者は、歩を進めた。
目的地へ近づくにつれ、高いビルは減り、さかし一軒家は稀で、3階建〜4階建のアパートなどが大半を占めるようになった。
目的地への最後の曲がり角を曲がると、少しきつめの上り坂であった。
それを上りきると、ゴールらしい。
歩き始めて30分。
重たいキャリーバッグに目をやり、ため息をついた。
そのとき、後ろから声を掛けられた。
「ため息は良くないですよ、お持ちします」
振り向くと優しそうな男の人が立っていた。
「あ、ありがとうございます」
「ははっ。そんな簡単に知らない人に荷物を預けてはダメです」
「え。あ――」
渡そうとしたキャリーバッグの持ち手を、強く握った。
「こんにちは、加藤小雪さんですよね。僕は奥野光。建築家です」
どうやら、目的の人に逢えたようだ。
心が安らいだ。
「あっ、こんにちはっ。あの、よろしくお願いしますっ」
男性は優しく微笑んだ。
「こちらこそ。さ、中へどうぞ」
男性が手で示した先には、ドアがあった。
移動した覚えはあまりないのに、坂を上りきっていた。
目の前には、いわゆる和モダンな3階建の建物。他の家とは違い、外見に余裕がある。さすが、建築家のアトリエだ。
小雪はドアノブへ手をかけた。
「お邪魔します……」
「ようこそ、アトリエ光へ」
扉を開けると、コーヒーの匂いがした。
ステキな建築家 水鳶 @miztobi
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