悩む

 時久は自室へと戻ってくると、ベッドに座りつつ頭を抱えた。妻が己を思いやってくれるのはよく知っている。だが、妻吉乃はあまり体が丈夫な方ではない。それでも、一生懸命生きて、ボディーガードである己を支えてくれている。そんな吉乃に時久はなにかしてあげたいと思っていた。一体、彼女は何が喜ぶであろうか。時久は更に頭を抱えてしまった。思えば政略結婚に近いお見合い婚だ。吉乃とてうんと年の離れた時久に嫁ぐのは嫌だっただろう。なにせ吉乃はまだ16歳だ。年齢的にいえばまだ高校生だろう。だが、吉乃は事情があり、九条時久の妻となった。そんな彼女は、一体何を考えて生きているのか、時久にはよく分からなかった。無理をして、笑顔を作っているのは時久にも分かっていた。どうにか、吉乃を喜ばせてあげたい――、時久はあることを思い出した。

「そうだ!」

 ぽん、と時久は手を鳴らした。そして、さっそくパソコンの電源を入れた。

「なるほど、なかなか難しいんだな」

 そう、時久が見つめていた画面は、料理の仕方、スイーツの作り方、と書かれたページだった。前、吉乃とランチしたときに、甘いものに目を輝かせていた吉乃を思い出したのだ。

「俺にこんなうまそうな料理ができるかな」

 やや時久は首を傾げる。だが、どうしても吉乃の喜ぶ顔が見たい。パソコンの電源を消すと、時久は立ち上がった。

「よし、本屋でも行こうか」

 財布をズボンのポケットに入れると、時久は自室を出た。

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